Episode-12 『初お風呂前・超清純派女優の場合』
一瞬言われた言葉の意味がわからなかった。
入りましょか?
普通自分一人でお風呂に入るときにそんな言い方はしない。
そして、相手に勧めるときもそんな言い方はしないだろう。
つまり、一緒にってこと?
私と?
紗凪ちゃんが?
ええええええええええっ!?
その事実を頭が理解した瞬間に心臓が思いっきり殴られたかのようにバクンと跳ねる。
いやいやいや、ええええええっ!?
嘘でしょ、ホントに!?
いやでも、女同士だし! いやいや、例えそうだとしても! いやいやいや、でも女同士だし!!
必死でポーカーフェイスを演じているが、心の声はテーマパークの様に騒がしい。
いや、もちろんわかってる。紗凪ちゃんに他意はないだろう。
恐らくお風呂が普通の自宅とかにあるサイズではなく、大浴場のような感じだったのだろう。
そしてそんな大きなお風呂に一人で入るのもあれだし、ということでごく自然に私と一緒に入ろうという結論に至ったはずだ。
なら私も自然にその提案を受け入れるのがベストなんだろう。
いや、でもいきなりそれはハードルがな~。
「えっと、どないしました?」
と、そんなややこしいことを考えているうちに紗凪ちゃんが私の様子が気にかかってかそう問いかけてくる。
「えっ、あー、うん…あー、その」
不意の問いかけに私は煮え切らない声を上げる。
うわぁー、自分が情けない。
そして、そんな返答から何かを察したのか紗凪ちゃんがハッとする。
「あー、すんません。完全に友達と話してる感じで誘っちゃいました。そうですよね、虹白さん女優さんですし、あんまり人に肌見せんのとかよくないですよね」
そして、紗凪ちゃんがそんな見当違いの答えに辿り着いてしまう。
そんな中、私は見逃さなかった。そう言う紗凪ちゃんの瞳に少しだが悲しみに似た感情が浮かんでいるのを。恐らくこれは紗凪ちゃんを好きな私だけがわかるほどの些細な変化だったはず。願望だけどね!
それになにより、そんな悲しい表情を好きな子にさせるわけには断じていかない。
「それは違うよ」
「えっ」
反射的に紗凪ちゃんのを手を掴み、そう答える。
もちろん反射的な行動なためこの後のことは考えていない。だから、頭の中で高速で言い訳を考える。
私の愛のパワーなら可能なはず。
どうする!? どうする!? ――そうだ!!
「私さ、ご飯食べた後にちょっと長めに食休みしてからお風呂入るタイプなんだ。だから、あと少しお風呂は待ってほしかったの」
「あっ! せやったんですね!」
私の言葉にパッと笑顔を浮かべる紗凪ちゃん。
ウルトラ可愛い。
この笑顔を見れただけでも、脳をフル回転させるだけの価値は十二分にあるというものだ。
「じゃあ、洋服の準備とかもあるし十五分後くらいにお風呂の前に集合って感じでいいかな」
「はい、そうしましょか。あっ、そういや脱衣所に浴衣とタオルがありましたよ」
「ふふっ、温泉旅館みたいだね」
「ですよね~」
そんな何気ない会話をしながらお互いのプライベートルームの前まで移動する。
そして、「じゃあ、うちも準備しちゃいます」と言って紗凪ちゃんが自分のプライベートルームに消えていった。
私も自分のプライベートルームにそのまま戻った。
「…どうしよ」
そして、戻った瞬間にそう呟く。
今の状況を簡潔に説明するならば、まさに一難去ってまた一難だろう。
「お風呂…、ホントに紗凪ちゃんとお風呂に入るってことだよね」
言葉に出すとそれだけで足ががくがくと緊張で震えだした。
我ながらとんだチキンハートだ。
好きな女の子と一緒にお風呂――言葉にすると凄まじく心惹かれるイベントだろう。
もし、昨日の私が知ったら大喜びするかもしれない。
しかし現実はそう妄想通りいかないものだ。
これがもしもっとキチンと順序を踏んだらそう思わなかったのかもしれない。
だが、明らかに順序を三段抜かしくらいしている。
だって一緒にお風呂だよ!
それはすなわち紗凪ちゃんの着替えも裸体も何もかもが見る気になれば見れてしまうということなんだよ!
もちろん、それが嬉しい嬉しくないで言えば嬉しい! でも…でも、やっぱなんかそれはだめじゃない。
そもそも倫理的にも黒にほとんど染まったグレーだろう。無邪気な女子高生と一緒にお風呂に入って邪気丸出しでその様子をまじまじと見つめるのは!
さすがに私はそこまで節操なしにはなれない…はず!
と言っても、ここまで来ては流石にもう後ろには引き下がれない。
でも、自分の心情は曲げたくない。
ならば私のとるべき選択肢は一つ。
「覚悟を決めよう」
私はこれから紗凪ちゃんと一緒にお風呂に入る。
だが、できうる限り紗凪ちゃんの裸は見ない。
そう自らを鋼の自制心で律するのだ!
それができなければ私に紗凪ちゃんに恋をする資格はない!
「よし」
フーッと大きく息を吐き、邪念を心から追い出す。
がんばれ、私! できるぞ、私なら!
そんな風に覚悟を決めると、私は着替えを用意し部屋を出たのだった。
さあ、決戦だ!




