Episode-102 『秘密の考察・変人漫画家の場合』
「ふぅ~」
身体を洗い終え、そしてゆっくりと足元から湯船につかる。
久方ぶりの湯船は思いのほか気持ちよく、思わず口から感嘆の声が漏れた。
「ふっふふ~ん♪」
そして、そんな私に続く様にやたら機嫌が良い望城が湯船へと入り、私の横に腰を下ろす。
「はぁ~、あったかいですね~♪」
「そりゃ、風呂なんだからあったかいだろ」
「…そんなマジ返ししないでくださいよ」
「――で、話って何だよ?」
とりあえず単刀直入にそう尋ねてみる。
すると望城は、漂々として風に「いきなりですね~」と苦笑しながら頬をかいた。
「まずはあったかいお風呂に数分ぐらいゆっくり浸ったりしないんですか?」
「それは並列してできているだろう。それに私は気になったことはすぐに晴らしたい性格なんだ」
「味気ないですねぇ。まぁ、別に構いませんけど」
そう言うと、一瞬望城の瞳に微かにだが真剣な色が浮かんだような気がした。
それを私が言葉に出す前に、
「さっきも言った様に話というのはこの世界についてです。――まず始めに一つお聞きしますが、二ノ前先生はこの世界――百合の箱庭についてどこまでご存知ですか?」
そう薄い笑みを浮かべながら、疑問を口にした。
その問いかけに私は、
「まずここがそんな名前だったことを初めて知ったよ」
呆れながらそう答えた。
「――なるほどな」
数分後。
望城からこの一か月の間に考察したこの世界の仕組みを聞き終えると、私はそう納得の息を吐いていた。
曰く、この世界には私たちの他に48組――計50組のコンビが存在する。
曰く、この世界にいるコンビは恐らくそのほとんど又は全てが日本人である。
曰く、この世界の時間は初日を除いてすべて均等に流れている。
曰く、この世界に呼ばれた人間はいくつかの条件を元に百合神に選ばれた人間である。
「どう思います、この私の考え」
「――正直に言って、かなりいい線いってると思うな」
望城の語る考察。
所々、飛躍した推論が混じってはいるものの明確な矛盾点は存在しない。それにその考察を軸に今までの生活考えてみれば辻褄が合う点が多い。
恐らくだが望城の語るこの話は十中八九合っている、そう私は認識した。
…というか、
「今さらながらだが、立場上私らがそんな背景を知っちまっていいものなのか?」
「それは確かにですね。というか、だからわざわざお風呂場で話したんですよ。入る時も言いましたけど、ここなら私たちの会話は百合神様に届きませんしね」
「ああ、こことトイレと自室はあいつの監視外なんだろ。――でも、それをそのまま鵜呑みにしていいのか?」
その私の確認とも言える疑問に何故か望城は「ふふっ」と笑みを浮かべると、
「つまり監視外というのは方便で、百合神様はホントは全ての空間を監視していると?」
「そうでも不思議じゃないだろ。なんせ相手は神様だ」
「いや、それはありえませんね」
そして、そう断言した。
推論ではなく断言。そこまで言い切るのには多少違和感がある。その私の心の声を察したのか再び望城は口を開くと、
「百合神様は真の意味で百合の神様です。互いに本音で語り合った私にはその確信があるんですよ。あの方はそんな自分の手で百合純度を下げる様な行いは絶対にしないです」
そう続けた。
…うん、なんか凄い声に芯が通ってやがるな。
え? こいつ、あれの信者か何かか? 百合教徒なのか?
あとサラリと百合純度という謎の造語を繰り出してきたし…。
「いや、なんで神と語り合ってんだよ」
「ちなみに語り合ったのはここに来た初日です」
「よりによって初日なのかよ…!」
あんな怪しさの塊のようなやつと初日から何をそんなに熱く語ることがあるんだが…。すげぇ胆力だな。
望城の話を聞きながら、呆れ半分感心半分みたいな感情を抱きながらため息を吐く。
「そんでその語り合いによれば百合神の言葉に嘘はないと」
「はい。おそらく百合神様はそんな百合の道に背く行為をするくらいなら切腹しますね」
「なんだそのヤバい表現…」
そして今気付いたけどこれ恐ろしく不毛な会話だな。
そもそもどっちにしろもう話してるわけだし。今さらそこを掘りさげてもしゃあねぇわな。
よし、話を元に戻すとするか。
「――まぁ、それは今はいいとして。お前の考察についてだが、初日時間についてと私らと同じ状況に置かれているであろう人数の辺りは恐らくドンピシャだろうな」
「へぇ、詳しくお聞きしても」
「私らが初日の起こされたのは大体朝の七時ごろだった。百合神の説明順が私らの部屋が最初ら辺ならばお前の推察とピッタリだ。そして、この宿泊学習前に元の部屋を出た時間とこの部屋に来た時間に差異は無かった。つまり、時間が均等に流れているのもほぼほぼ確定だ」
「なるほどです。言うなれば最後らへんに説明された私たちの部屋がルーム50、最初ら辺に説明された二ノ前先生たちの元の部屋がルーム01的な感じですかね」
「まだ一番最初と決まったわけではないけどな。まぁ、そんな感じだろう」
「あっ、あと地味に日本人もしくは日本語を扱える人っていうのも確定ですかね。こんな宿泊学習をやるってことは意思疎通ができなきゃまず話になりませんし」
「そだな」
神様のことだ。仮に異なる言語の使い手でも何らかの力で会話を成り立たせることもできなくはないだろうが、わざわざそんなことをする理由もないしな。
となると残りは、
「この世界にわざわざ呼ばれた人間の選ばれた条件か。…まぁ、それがわかったところで別に何が変わるってわけじゃないけどな」
「いいじゃないですか♪ 考えてみましょうよ、どうせ暇ですし」
「ま、いいか。ジグソーパズルとかクロスワードみたいなもんだな」
とは言っても、推察の材料は私ら四人の共通点ぐらいだろうな。
100人の内の4人。サンプルとしてはだいぶ心もとないな。
「そもそもまず私とお前の共通点が中々なさそうだけどな」
「? そうですか? 私は逆に結構あると思いますけど?」
が、口からふと出てしまったかのような私の言葉に望城が不思議そうな声でそう言った。
「これはここに呼ばれた条件とは違うでしょうけど、まず第一に私と二ノ前先生って趣味嗜好が結構似通ってますしね」
「どこがだよ…」
そして、私も言葉を返す様に望城よりもだいぶ不思議そうな声でそう言った。




