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Episode-PLUS3 『ふとした笑顔・不幸系クールガールの場合②』


 嫌いな数字が3つある。

 4と13と666。理由は単純明快、不吉だから。

 だが、いくらこっちが嫌っても向こうは私が大好きらしい。


 たまに夜中に目が覚めると大体4時44分か4時13分だし、ここに来る前に何となく見たスマホのストレージの空きは6.66GBだったし、通ってる大学に受かったときのの受験番号は4666だったし、そもそも誕生日が1月3日だし、と言い出せばキリがない。

 そして、こんな不吉な数字が寄ってくる私が不運じゃない訳がない。


 私は運が悪い、それもすこぶる。明らかに偶然とかそういうのを越えた何か別の力が働いているんじゃないかと確信が持てる程だ。

 その信じられない程の運の悪さでどれだけの損と失敗を積み重ねてきたかわからない。

 しかし、持って生まれた不運のせいで私が苦しんでいることなど周りは信じなかった。それどころか『できない』を運のせいにする子と思われていたと思う。どんな努力をしようとも、一回の不運によってみんなの見えないところでそれが台無しになっているとも知らずに。


 そしていつしか私は笑顔を浮かべる機会が皆無になった気がする。クールだねとか、いつも冷静だねとか言われるけどそれは違う。

 私はただただ不運に人生を歪められただけの人間なだけなんだ。


***―――――


「お待たせしまし―…た?」


 ノブを回し、ドアを押す。

 そして、私は新井谷さんの待つメインルームへと戻ってきた…わけなのだが、


「…いねぇ」


 まさかの新井谷さんの方がいないという展開が私を待っていた。

 いや、なんでだよ。それは謎すぎるだろ。

 一応あんたのためにこっちは、


 ――ガチャ。


 そう心の中でツッコミ入れた瞬間に、まるで狙い澄ましたかのようにドアが開く音が耳に届いた。

 開いたのは新井谷さんのメインルームの扉。見ればそこから首にそこそこでかいカメラを提げた新井谷さん?が出てきたところだった。

 ちなみに何故『?』がついているのかと言えば、


「なんですか、それ?」


 新井谷さんは何故か顔に右手で持った紙を当てているから。

 相変わらずの奇行である。そして、これは断じて良いことではないが私はそんな彼女の奇行に慣れつつあるのか、特に動揺せずにそう問いかけていた。


「ん、あっ、ミチルちゃんもういたんだね。ふぅ~、念には念を入れておいてよかった~」


 その私の問いかけに答えになっていない答えを返しながら、新井谷さんがこっちへと歩いてくる。あの謎の紙で前は見えないはずなのに、一直線に私の所まで向かってくる。私の問いかけの声で大まかな位置を掴んだのだろうか? 意味不明な能力だ。

 そして、結局新井谷さんはその紙をとることもなく私の三メートル前くらいまですんなりとやってきた。


「ミチルちゃ~ん、いる~?」


「いますけど…」


「いるんなら、ちょっと私の手を引いてソファまで案内しておくれよ」


「…はぁ」


 もうなんか聞くのも疲れたので、溜め息一つだけを吐いて私は新井谷さんに近づいていく。

 ちなみに直接手を握るとまたややこしい展開になりそうなので、長袖の裾をちょびっと掴みご要望通りにソファまで手を引いて連れて行く。

 誕生日とはいえ、すっごい至れり尽くせりだなこの人。


 そして、ものの数秒でソファに到着。

 私が「座っていいですよ」とだけいうと、「おっけー」と一切の疑いなく新井谷さんがその場で後ろへと腰を下ろした。

 …別にいいけど私の指示に対する信頼感が凄いな。私が全然違う場所に案内して固い地面に座らせる可能性とか考えてないのかな。


「で、そろそろ質問に答えてくれますか?」


「? 質問って?」


「その紙ですよ、紙」


 私の言葉に「あー」とようやく新井谷さんが納得した様に相槌を打つ。

 そして、


「これは最大限楽しむための演出よ」


 と、そんなことを言ってきた。


「何ですか、演出って?」


「そのままだよ。一応確認ですけど、ミチルちゃんっていま私が渡した紙袋の服装に着替えてくれてるよね」


「…ええ、髪型までばっちりですよ」


「おおっ、それは最高♪ それでその最高のミチルちゃんの姿はキチンと見たいわけじゃない。想像してみてよ、もしこの紙ガードが無かったら私は部屋から出た瞬間に今のミチルちゃんの姿が目に入っちゃったんだよ。それじゃあ、距離も遠いしドキドキ感もいまいち」


「言いたいことは何となくわかりましたけど、私としてはどっちでもいいですね」


「つ~れな~いな~♪」


 紙で顔が見えなくてもその機嫌の良さがビシビシと伝わってくる。

 今さらながら、そんなに楽しみかね? わからん。


「じゃあ、もうその紙をとってもいいんじゃないですか?」


「いや待って、姿勢を正して呼吸を整えるから! あとミチルちゃんの立ち位置は私の真正面で私との距離は大体一メートルくらいでお願いします!」


「はいはい、わかりましたよ」


 「すーはー、すーはー」とガチで呼吸を整えだした新井谷さん。その間に私も指示通り一メートルほどソファに座る彼女との距離をとる。

 そして、ようやくその瞬間は訪れた。


「じゃあ、紙をとるね」


「はいはい、どうぞ」


 何故かそう宣言する新井谷さんの声に、私も了承で返す。

 ゆっくりと新井谷さんが自身の顔に抑えつけた紙をヒラリと外した。新井谷さんの瞳が私の姿を捉え、私も何故だかその瞳に吸い込まれる様に目を合わせた。

 のだが、


「…………」


「――――」


 そこから数秒、メインルームを完全な静寂が支配した。

 

 …一応言っておくが、私は自己評価が高くはないし自分を美形だとも思わない。しかし、この新井谷涼子という女性の今までの私に対する言動からして、見た瞬間に「可愛い~~~~!!」だとか「キャア~~~~!!」的なド派手なリアクションが来ると予想していた。

 しかし、まさかの無言。


 謎の恥ずかしさが私を襲う。

 まだ「思ってたのと違う…」的な無言だったら「いや、あんたが着ろって言ったんでしょ!」とツッコめるからよかったけど、何と言うかジーッと食い入る様な瞳でまるで絵画とか彫刻とかを見るかのように見つめられているため私も何となく何も言えない。


「…………」


「――――」


 そして、更に数秒が経過。

 さすがに、これはそろそろいいかな。「なんか言えよ!」って言っても。

 そう思いかけた私だったが、


「――――いい」


「は!?」


 そこでようやく新井谷さんが重い腰を上げて、口を開いた。

 恐ろしく単純な二文字での賞賛の言葉。しかし私が驚いたのはそこではない。そのすんっごい感情の籠ってそうな「――――いい」と同時にツゥーっと新井谷さんの両目から涙が流れたのだ。

 

 …今さらだけどマジでヤベーやつだな、この人。

 感情の波が恐ろしい程に読み取れない。理解不能すぎる。

 というかそれなんの涙!? やっぱ感動とかそっち系!?


 そして、そんな新井谷さんの反応にもう完全にどう返せばいいかわからないでいた私だったが、


 ――カシャ!


 とそこで不意にシャッター音が響いた。しかし、それは首に下げたカメラからではない。

 見れば新井谷さんはどこからか取り出したスマホをいつの間にやら構えて、そのシャッターを切っていた。

 が、何故かそこで私よりも先にハッとした表情を浮かべると、


「あっ、ごめん! まだ撮影許可貰って無いのに勝手に撮っちゃった」


「…いや、それは別にいいですけど。なんでちょっと自分で驚いているんですか?」


「いや、身体が勝手に動いて気づいたらミチルちゃんに向けてスマホのカメラ押してた。完全に無意識だったね」


「…あと涙が綺麗に両目から一筋ずつ流れてますよ」


「涙? ――おーっと、ホントだ。こっちも全く気付かなかった。恐らくミチルちゃんのあまりの素晴らしさに涙腺が自然と緩んだんだろうね」


「よし、病院行ってこい」


 「ははっ」と楽しそうに笑って私の通院勧告を受け流す新井谷さん。

 そして、何故か自身の手を揉みながら私を上目使いで見つめながら「あの~」と再び口を開き始めた。


「次は一緒に写真撮ってもらっていいですか?」


「…なんですか、その街中でファンの芸能人に会ったみたいな小芝居。…はぁ~、もうっ。別に構いませんよ」


「やった~」


 まるで子どもの様にそう喜びを前面に出すと、新井谷さんがソファから立ち上がり私の隣まで歩いてくる。


「よっし、ミチルちゃん詰めて詰めて」


「? こんな感じですか? こういうこと慣れてないんでわかんないんですけど…」


 そして、そのまま新井谷さんが手を伸ばしスマホを前へと掲げる。

 俗にいう自撮りスタイルだ。そのまま私たち二人が映る様に調節するためにスマホのカメラレンズを前へはなく、画面側に切り替える。


「――――!?」


 が、その瞬間その画面に映し出された顔に思わず私は言葉を失った。

 

「じゃあ、いっくよ~」


 そんな私を余所に、新井谷さんの声と共にカシャとシャッター音が鳴る。

 「撮れた撮れた~」と上機嫌に写真を確認する新井谷さん。しかし、そこで「ん?」と彼女も私の異変に気付いたのか不思議そうにそう撮影したばかりの写真を見て声を漏らした。


「どうしたのこれ? なんかシャッター切った直前にハトが豆鉄砲を食らったみたいな顔になってるよ。まぁ、これはこれで凄い可愛いけど」


「………笑ってた?」


 その新井谷さんの反応に対し、私はまるで一人呟く様にそう口にした。

 

 ――そう新井谷さんがカメラを切り替えた瞬間、その画面に映っていた私は面倒そうな困ったようなそんな表情と同時にどこか楽しそうに小さな笑みを浮かべていたのだ。


「笑ってた?」


 私の呟きを新井谷さんが疑問調で繰り返す。


「――ええ、信じられないです…。新井谷さんと一緒に写真に写ろうとしていた私の表情。笑ってたんですよ、それも少し楽しそうに」


「………えーっと、よくわからないんだけど。とりあえず私って今、好きな子にすっごいディスられてる? 泣いていい?」


「あっ、それは別に新井谷さんが悪いとかじゃなくて私がほとんど笑わない人間ってだけで」


 あらぬ誤解を与えてしまった様なのでとりあえずそう弁解する。

 しかし、私のその言葉に「えっ?」と新井谷さんは驚いた様な声を上げた。


「いや、そんなイメージあんまりないけど。だって、この一ケか月だけでもそこそこ私ミチルちゃんの笑顔見てる自信あるよ」


 そして、さも当たり前のことを言うように新井谷さんはそう続けた。


「…はい?」


 思わず、心から信じられていない様なトーンのそんな声が口から漏れ出す。


「そりゃあ、まぁお腹抱えての大爆笑みたいなリアクションは見たことないけどさ。普通に楽しそうに笑うぐらいのことは何回もあったと思うけどな~。えっ、もしかして私の勘違い?」


 私のリアクションに不安になったのかどこか困惑した様に新井谷さんが首を傾げる。

 だが、安心して欲しい。私の方がずっと困惑している。

 

 笑ってた、私が? 自分が気づいていなかっただけで、この新井谷さんの共同生活の中で?


 振って湧いたその疑問に、私はジーッと黙り心の中で思考する。。

 そもそも笑顔とはいつ出るものか?

 それは当然わかっている。面白いとき、嬉しいとき、――そして楽しいとき。要はプラスな感情のときだ。


 元の世界で私は、不運により多くの不幸をその身に負ってきた。

 そしていつか、面白いとか嬉しいとか楽しいとかそうなプラスな感情と縁遠くなっていったのだろう。何事も悲観的に考え、日の当たる道から自分で逸れていった。

 だから、笑わなくなった。


 なら何故、ここで私は笑っているのか。

 それは一つしかないだろう。だからすぐ答えは出た。


 ――口ではあーだこうだ言いつつも、私は楽しんでいるのだ。個性的で変人でスケベで、そして底抜けに明るく面白いそんな新井谷涼子という一人の人間との共同生活を。


「――ふふっ」


「あっ、ほら! また笑った」


「今のは意識的に笑ったんですよ。本当に久しぶりにね」


 答えを得た瞬間に、心なしか凄く私の感情はスッキリしていた。

 そして、だからこそだろうか。

 普段なら恥ずかしくて絶対に言わないだろうに、気付いた今この瞬間に私は彼女に伝えたかった。自分の本心を。いつのまにやら、実はあなたとのこの生活を楽しんでいたということを。


「ねぇ、新井谷さん」


「ん?」


「あのですね。私、実は――」


「あっ、ちょっと待って」


 が、覚悟を決めてそれを伝えようとしたところで新井谷さんの方から制止がかかった。

 なに、せっかくいいタイミングなのに。


「ごめん、ミチルちゃん。今言うことでもないかもだけど、実はちょっといつものアレが結構溜まってて話を聞いたりする集中力が落ちてきてるんだよね」


「………は?」


「いや、ほら。よく思い出して、私今日の朝のぶんしてないじゃん。それに加えて、自分の趣味に合わせたミチルちゃんファッションを見た+そのセクシーな胸元を見た+さっき自撮りした時に肩とか腕とかあたったの三連コンボでもう結構限界なわけよ」


「…………は?」


「それで、なんかミチルちゃんちょっといい感じの話をしようとしてたじゃない。それをこの精神状態で聞くのはいかがなものかと思ったの。だからちょっと、精神を正常時に戻すためにトイレ行ってくるね――っと!?」


 言葉の勢いそのままにトイレへと向かおうとする新井谷さんの手を私は逃がさない様にグッと掴んだ。

 ――うん、そうだそうだ。こいつはこーいう奴だった。ちょっといい感じの雰囲気を感じ取った私が馬鹿だった。


「まぁ、もう慣れたことです。別に一々どうこうは言いません。だが、そのスマホは置いてけ」


「…いや、これが無いと作業効率が」


「――入ってるだろ」


「はい?」


「だっから、そのスマホにさっきの私の写真入ってるでしょうが! あんたの趣味嗜好に合わせた格好になった私の写真が!!」


 その私の指摘に新井谷さんの表情が「ギクッ」と擬音が出てきそなくらいの驚き顔に変化する。

 こいつ…、マジか…!?


「い、いやいやいやいやっ!! しないよ、そんなこと!? 完全にミチルちゃんの誤解だって!!」


「狼狽えると怪しさが増すだけです」


「いや、ホントさっきまでそんなこと考えてなかったって!」


「今は考えてるんですね?」


「いや…えっと、それはその…。…ほら、よく言うじゃん! 好きな子相手だと、そういうことできないって!」


「あなたはできるでしょ、変態ですし」


「―――――」


「―――――」


 そして、今日二度目のマイルームに降り立つ沈黙。

 さっきとは違う。恐ろしく下世話でくだらない議題ではあるけどね。


 そして数秒後。


「――――まぁ、できるかできないかで言えば…恐らくできるでしょうね」


 犯人が自供したので、私は無言でスマホの強制回収作業に移行した。


「いやでも、『できるできない』と『するしない』は別だって! しない、絶対しない! 私の清らかで一途な恋心を信じてミチルちゃん!!」


「ええ、信じてますよ。でもこの場では疑わしきは罰します!」


「ちょっ、うわっ!? そんな無理やり!? ミチルちゃんのえっち!!」


「変な声出すな! ぶっ飛ばしますよ!!」


 ――口元に楽しそうに笑みを浮かべながら。


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