Episode-PLUS1 『ふとした笑顔・リビドーの申し子の場合』
「ふっふっふっふっふ」
ついに、ついに、この日がやってきた!
この空間にやってきて一か月と少し。目覚めた日を便宜的に四月一日とすれば、現実時間だと今日は五月三日。
そう、待ちに待った五月三日だ。
…まぁ、実際に今日この日が楽しみになったのはあの件の後だからぶっちゃけそんな待ってはいないけどね!
でも、感覚的には結構待った気がするのだから待ちに待ったと言ってもそこまで過言ではないだろう。
「よし」
そんな私は今、お風呂場の脱衣場にいた。
と言っても別にこれからお風呂に入るわけじゃない。朝ごはんを食べ終えた後の歯磨きと顔を洗うためにここに来ていただけだ。
そして、肝心な私の将来の伴侶ことミチルちゃんはキッチンで朝ごはんの後片付け中という訳だ。
ミチルちゃんが朝ごはんの後片付けを始めたのは、私がこの脱衣場に来たのとほぼ同じくらい。ということはそろそろ片付けは終わる時間なはずだ。
――これで準備は整った。
自然と私の口元に笑みが浮かぶ。
ふっふふ~ん♪ 楽しみだな♪
「ミッチルちゃ~ん!」
そして、高いテンションそのままに私は脱衣場からメインルームに出ていった。
予想通り、ミチルちゃんはちょうどキッチンペーパーで手を拭いているところだった。そして、彼女は脱衣場から出てきた私を見つめ、「はぁー…」といつも通り呆れ交じりの溜め息をついた。
ちなみに私のあの情熱的な告白以降もミチルちゃんの私に対する態度はまっっったくというほど変わっていない。これは意外と凄いことだと思う。普通はどんなに鈍感系主人公であっても告白後は自然と意識しちゃうものですよ。
それなのにミチルちゃんはも~。つれないな~。でもそんなところも好き~。
これが惚れた弱みというやつなのだろうか。そんな素っ気ない対応すらも今の私には愛おしくて仕方なく見えるのだ。
「今日もまたテンション高いですね」
「もちろん! いつも元気を心掛けてはいるけど、今日は特に元気だよ」
「へぇ」
「…理由聞かないの?」
「聞いて欲しそうだったんで聞かないです」
「ふっふっふっ、聞かないんだったらこっちから教えるまでだよ」
相変わらずの塩対応。が、そんなことで一々折れる程に私もヤワじゃない。
バババッ、とそのままミチルちゃんとの距離を詰めて「どうぞどうぞ」ととりあえずテーブルへと誘導する。
「――はいはい、わかりましたよ」
ミチルちゃんもそんな私の性格はこの一か月でご承知なのでしぶしぶと言った様子で言われるがままに席へと着く。そして、その対面に私も腰を下ろした。
よし、あとは告げるだけだ。――いや、その前に前置きを一つしておこうか。
「ミチルちゃん、人それぞれフェチってあるじゃん?」
「…テーブルに座らせての開口一番がそれとは、またすっ飛ばしてますね」
「いや、真面目な話よ。このフェチってのはいわば強化パーツの様なものだと私は思うの」
「とりあえず真面目な話になったら起こしてください」
「もう真面目な話に入ってますよ~」
軽快なやり取りをしながら進む会話。
それがちぐはぐでありながら、凄い楽しい。それは当然、相手がミチルちゃんだからだろう。やっぱり恋は良いね。改めてそう思う。
「でだよ。私はミチルちゃんが好き、大好き、愛してる。これは揺るぎない事実」
「――っ。よくそこまで恥ずかしげもなくハッキリと言えますね」
「愛を叫ぶことのどこにも恥ずかしいことなんてないよ。ミチルちゃんも私と両想いになったときにわかるはずさ」
「あー、じゃあ一生わからないパターンですね」
と、今日もガードカッチカチのミチルちゃん。
しかし私は見逃さなかった。好意を伝えたとき、照れがその表情に一瞬だけ現れたのを。つまり完全に脈無しではないのだ。
だって嫌い人にそんなこと言われたら、困惑とか嫌悪の感情がまず最初に出るだろうしね。
「まぁ、それは追々わかって貰うとして今回の話に戻るよ」
そんなミチルちゃんの照れ隠し(私の願望)に微笑ましく答えながら私は脱線しかけた話を元の線路へと戻していく。
「私はミチルちゃんという人間が好き。内面も外面もね」
「――そりゃどうも」
「でね、そこに私の趣味嗜好――さっき言ったところのフェチを更に付け加えたらもうとんでもないことになると思うの」
「おっと、話が急転直下ですね。雲行きが怪しくなってきましたよ」
「というわけで、ミチルちゃん。はい、これ」
完全に嫌な予感を感じ取ったような表情を浮かべるミチルちゃんへと、私はあらかじめ朝にこのテーブルの下に置いておいた紙袋を手渡した。
昨日、じっく~りと時間をかけて吟味した新井谷涼子セレクションの衣類たちがその中には入っているのだ。
しかし、
「いや、なんですかそれ?」
ミチルちゃんは「は?」という一文字で表せるような表情を浮かべたままにその紙袋を受け取ろうとはしない。
「私が昨日百合神様の協力を得ながら見繕った私のフェチに合わせたミチルちゃんのお着替えだよ。単刀直入に言うと――それに着替えてください、お願いします!」
「…理由は?」
「私が見たいから♪」
「却下、話になりません」
私の思いも虚しく、その座りながらできる限界ぐらいに頭を下げたお願いは取りつく島もない程に一蹴されてしまった。
しかし、それは想定内の失敗だ。これですんなりと「はいそうですか。さっそく喜んで着ますね!」と納得するほどにミチルちゃんがちょろい女の子じゃないのは知っている。
その失敗を成功に変えるための切り札こそが、五月三日なのだ。
「――誕生日」
「はい?」
ポツリと私が発した言葉を聞き返す様にそうミチルちゃんが言う。
「今日五月三日は私の誕生日なの~」
「…で?」
「だから誕生日プレゼントってことでお願いお願い!」
「――っ」
そう、つまり私の切り札とは誕生日という祝い事を背にした情に訴えかける作戦というわけだ。
そして流石は優しいミチルちゃん。案の定、再びその表情が揺らぐ。
――勝機。それを見て、私の直感が「もう一押しでいける!」と告げた。
ならば――!
「はい…?」
椅子から立ち上がり、そのまま地面に寝転がる。
そして、
「見たい~、見たい~! ミチルちゃんがその格好してるの見たい~!!」
「……………」
そう自らの願望を口にしながら左右にゴロンゴロンと転がる。
ふっふっふ、見よ! これが恥も外聞も捨てた私の本気の思いの伝え方!!
その決死の願いの末に、
「…いやでも、やらしい下着とか私着るの嫌なんですけど」
「いやいや、そんなもの入ってないよ! 私を何だと思ってるの、ミチルちゃん!? 私、プラトニックな関係の進展を目標としてるし!」
「どの口が言ってるんですか?」
「この口だよ、この口。いやホントそういうエロティックな感じではないから! 神様に誓って、百合神様に誓って!」
「本当ですか…。もうっ…」
そう言うとミチルちゃんが「はーっ」と諦めたかのようにため息を吐いた。
そして、
「知らない仲じゃないいい年した大人にそんな見るに堪えない行為をされ続けられても困りますしね。それに…まぁ、誕生日は実際めでたい事ではありますし」
「…ということは?」
「まったく…。着替えればいいんでしょ、着替えれば」
「やったー!!」
私はミチルちゃんから根負けを勝ち取ったのだった。
そして、
あ~! 楽しみだな~!!
私はそんな感情を隠しもしない様な満ち足りた表情で、私のプレゼントした紙袋を手に自身のプライベートルームへと消えていったミチルちゃんの背中を見送った。
Episode-○○:room50を中心とした本筋のストーリー
Episode-EXTRA:room50以外の部屋の紹介ストーリー
Episode-PLUS:EXTRAで紹介した部屋の追加ストーリー
という風な感じになっています。




