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Episode-EXTRA12 『ルーム19・普通っぽく見えて結構変わっている彼女の場合②』


「いやぁ~、なつあつが終わるねぇ~」


「今時その謳い文句はおっさんでも言わねぇぞ」


「夏い暑が終わるよ~。あ~、今年もアホ二人と過ごしちゃったよ~」


「…知らなかったよ、あたしのダチ二人ともがおっさん未満だったなんてな」


 夏休み最終日。

 何故か何となく学校に来ていた私とイツメン二人は3人仲良く廊下に並んで窓を背にうなだれていた。

 まだギリギリ夏休みということあって、校舎内には人影はほぼ無く貸切状態みたいなものだ。


「つーか、あんたは本来なら初彼氏とやらと過ごすはずだったじゃん」


「まさか一月足らずでフラれるとはな…」


「フラれてないっ! フッたの!! 付き合って一月も経つのにキスの一つもさせないのかよっ、とか舐めたこと言ってきたからこっちからフッてやったの! というか、二人にはもうこの話は何回も言ったでしょうがっ!」


「あー、聞いた聞いた。その1か月間のあんたの愚痴はもう暗唱できるぐらい聞いたよ」


「もう、思い出したらまた腹立ってきたわ! ファーストキスなんて、何回もデートを重ねた後に夜景の見える観覧車の中でするのが当たり前でしょ」


「でたね、その一昔前の少女マンガ的思考」


「別にそんな当たり前はないと思うぞ。あたしが先週やったゲームでは付き合ったその日に初体験までいってたぞ」


「あんたが好きなエッチなゲームと現実を一緒にすんな! ぶっ飛ばすわよ!!」


 そうプンスカと私の左で怒るのは、大村おおむら真央まお

 ちっちゃめの可愛い系女子であり、私の幼馴染その①だ。

 

「…ふぅー、まあいいわ。これ以上話すとホントにイライラしちゃいそうだし。それであんた等はどうなの? 夏が終わりかけてるけど春は来そう?」


「冗談。お前ら二人とは違ってあたしはそもそも顔がよくないからな。仮に自分から春に向かって走ろうとも一向にやってこないだろ」


「そう? 下の上の中ぐらいはあるとおもうけど? 別にメッチャ不細工ではないでしょ、お世辞にも美人ではないけど」


「私的には中の下の上はあると思うな~。圭織って愛嬌あるしさ、そばかすも意外と似合ってるし。まぁ美人ではないかもだけど」


「う~ん、あんたらのその裏表の一切ない感じあたしホント好きだわ~。愛してるぜ~、一生ダチでいてくれよな~」


 そして私の右で楽観的に笑うのは、柏木かしわぎ圭織かおり

 メガネにそばかすがトレードマークの愛嬌ある系女子であり、私の幼馴染その②だ。


「つーことは残りは悠菜だな。お前はどうなの?」


「わたしぃ? 私も別に今はいっかなってスタンスよ」


「へぇ~、なんで?」


「まぁ、正直言うとそういう色恋沙汰に興味がないってわけでもないし、憧れがない訳でもないけどさ。真央の件を考えるとねぇ、やっぱ相手を選ぶ目をキチンと養ってからでいいかな~って」


「…なんか暗にアタシの男を見る目が無いって言われている様だけど」


「間違ってないだろ。あれ結局、お前と別れた後に即座に別の女に乗り換えてたぞ」


「…たしかに間違ってないわね。…ハッ、でも実際にはアタシには乗らせてすらないしぃ、そもそもほっぺにチュウすら許してないんだから、それでフラれてアタシよりも10ランクダウン位の女と付き合ってんだからざまぁみろって話よ!」


「うわっ…、幼馴染の下ネタとかきつっ…」


「…え? 下ネ――ッ!? 違う違う! 違うからね!! 乗るってのは別にそういうイヤラシイ意味じゃ――っていうかそんなことをエッチなゲームの話を昼間からしてるあんたになんか言われたくないわよっ!!」


 ギャーギャーと私を挟んで繰り広げられる幼馴染同士の微笑ましい小競り合い。

 それは紛れもなく私の大切な日常で、これもまた別に色恋に積極になろうとしない理由でもあった。

 ずーっとこの二人と男っ気のない馬鹿をやるのも悪くない。そう思わせてくれるほどに楽しい空間だった。


「で、結局悠菜も当分春は先ってかことか」


「うん、そうかな。――まぁでも、仮に私だけを一途に見てくれて私の全てに惚れてくれる性格よし顔よしで勉強できて運動できてお金持ちで優しくて面白い――そんな人が現れたらわからないけどね」


 そして、そう二人に向けてニカリと笑って見せた。


「「欲張り過ぎだ」」


 そんな私の『宝くじの一等当たらないかな~』の様な妄想に近い願望に二人の声が重なる。

 

 そして、私たちは三人そろって笑い合いながら、今度も結局三人揃って過ごすことになりそうな冬休みの予定についてメチャクチャ気が早いことを理解しつつ楽しく話したのだった。


***―――――


「…………え?」


 私が紡いだ疑問。

 それを投げかけられた春貴ちゃんは口からそう空虚な声を漏らす。

 それだけでもう答え合わせだった。99パーセントだった疑惑が100パーセントの確信に変わる。


「ごめんね、この前に春貴ちゃんがソファで寝ちゃったときに部屋まで運んだでしょ。――そのときに、さ…あのもう一つの部屋の中さ見ちゃったんだよね…」


「――そう…ですか」


 そう言って春貴ちゃんが目を伏せる。

 返ってきたのは、取り繕ったり言い訳したりはせずのただ肯定の言葉。


 あの時、私が軽い気持ちで入った部屋。

 その中には多くの絵が飾ってあった。そして、その全ての絵には私が描かれていた。

 はじめ見たときはこの全てはここに来てから描かれたものなのかとも思った。しかし、それにしては数が多すぎた。恐らくここに来てから描かれたものもいくつかはあるが、その大半はここに来る以前つまり現実の世界で描かれたもののはずだ。

 つまり、春貴ちゃんはここで出会う前から私のことを知っていた。


 最初はその理由も皆目見当がつかなかった。

 でも、その部屋中に飾られた絵を眺めているうちにそれの存在に気付いた。部屋の端に絵よりも更に大事そうに飾られたある二つの品。

 ――それを見たときに、ようやく私は、


「ふぅー」


 そこで不意に春貴ちゃんが気持ちを落ち着ける様にそう息を吐いた。

 そして、そのまま私と目を合わせる様に真っ直ぐにこちらを向いてきた。その瞳には何かを決意した様な光が浮かんでいた。


「すみません、高佐さん。ずっと黙っていて」


「ううん、別にいいよ」


「…それで気味が悪いと思うのは当然だと思いますし、私となんて話したくないかもしれませんが…、少しだけ聞いてほしい話があります」


「…いや、別にそんなことは思ってな――。っと、うん…やっぱりまずはこっちの意見は言わずに春貴ちゃんの話したいことを聞こうかな」

 

 そう反射的に否定しかけたが、凄く真剣な春貴ちゃんの言葉に私は途中で口を閉じた。

 言いたいことは勿論ある。でもそれは春貴ちゃんの話とやらを聞いた後でいい、そんな気がしたから。


「――ありがとうございます。高佐さんのおっしゃる様にこの約一年間の間、私は高佐さんにストーキング紛いのことをしてきました。高佐さんのSNSを毎日見たり、たまに下校する姿をチラッと気づかれない様に見たり、その二つの情報から想像して高佐さんの日常を想像して絵を描いたり…してました」


「ふむふむ」


「あと、高佐さんの模倣をしてみたりとか。高佐さんが食べたお店の商品を私も食べてみたり、高佐さんの通っている学校の制服を自作してみたりとか、あと高佐さんの好きな料理を練習してみたりとかも…してました」


「ほうほう」


「――本当にごめんなさい! あのっ、私からも百合神様にこの生活の打ち切りをお願いしますから! 

一刻も早くこんな気持ち悪い人間との生活終わりにしたいですよね!?」


「…うーん、あの…ちょっと落ち着こうか春貴ちゃん」


「はっ、は…い」


「あのさ質問してもいい?」


「はい、もちろん何でも答えます」


「じゃあ、まず一番大事な事。――あのさ、それってそんなブンブン頭下げて必死な顔をして謝るほどの…ことなのかな?」


「………はい?」


 私の問いに春貴ちゃんがさっきまでの泣きそうな顔とは打って変わってポカンとした表情を浮かべる。


「いや、『はい?』はこっちのセリフだよ、春貴ちゃん。なんか凄い真剣そうな決死って感じの顔してどんなとんでもないことを言うのか構えたけど。もぉ~、こっちは構え損だよ」


「えっ…、えっ…!?」


 ポカン顔から困惑顔の春貴ちゃん。

 どうやら私のリアクションが予想外だったようだ。


「いや、だって。別に犯罪しているわけじゃないでしょ。というか、『ストーカーなの?』とか言ってごめんね。全然ストーカーではないじゃん」


「い…いやいやいや、なくはないんじゃないですか!? だって…私は」


「別に盗聴とか盗撮とかはしてないでしょ?」


「あっ、あたりまえじゃないですか! そんなことしませんよ!!」


「なんで?」


「なんでっ…て、それは…そんなことしたら高佐さんに害が及ぶじゃないですか!」


「ふふっ」


 その春貴ちゃんの当たり前じゃないですか、と言わんばかりの言葉に思わず吹き出してしまった。

 しかし、それを見て「どこで笑ったんですか?」と本当にわからなそうに春貴ちゃんはそう首を傾げる。


「いやいや、なんか可笑しくってさ。ごめんね、別に馬鹿にしてる訳じゃないの」


「はぁ」


「ふぅー。しかし、変わってるよね春貴ちゃん、何でそんなに私のことを?」


「それは――」


「多分、会ったのってあの一回だけだよね」


「――!?」


 そう言うと、春貴ちゃんが驚いた様に目を見開いた。

 うん、やっぱり私の勘違いじゃなかったみたいだね。


「――ごめんね、ここで目覚めて初めて会ったときに気付けなくて。私と春貴ちゃんって元の世界で会ったことあったんだね。ちょうど一年くらい前にさ」


「…はい」


「いやぁ~、春貴ちゃんの部屋であのとき私があげた傘とタオル見かけてようやく思い出せたよ。あれも大事にとっておいてくれたんだね」


「…はい、あれだけが私が…唯一高佐さんと話したときの記録でしたから。それに謝らないでください、高佐さんが私に気付かなかったとき、実は嬉しかったんです」


「嬉しかった?」


「はい、あの時の高佐さんが私のためにしてくれた行動はやっぱり当たり前で自然なものだったんだってわかったから。――そんな高佐さんに私は焦がれたんですから」


「…そっ、そっか」


「…そうなんです」


 それだけ言ってしばしの沈黙。

 ていうか、ホントに話したのあれだけだったんだね。

 それはそれで謎だ。あのとき春貴ちゃんと話した内容は何となく覚えてるけど、そんなに熱い思いを抱いてもらえるようなことを言った記憶は正直ない。

 う~む、不思議な話だ。


 ま、いっか。

 本題はこれからだ。


「それで質問なんだけど、もう一個いい?」


「はい、何個でも」


「ふぅー」


 やっぱり帰ってくる答えがわかっていても、こんなことを聞くのは緊張してしまう。

 でも、やっぱ気になるよね。だから聞こう。


「あのさ、それはつまり、――春貴ちゃんってさ私のこと好きってことでいいのかな?」


 そう決心してそう問いをぶつける。

 正直「…はい」、そんな少しためらいがちな返事が返ってくると思っていた。

 しかし、


「………はい!?」


 返ってきたのはまさかの肯定以外意味の「はい」だった。より明確にするならば驚嘆みたいな感じの「はい」だった。

 そして


「す、すすすすすっ、すす、好きっ!? いや、ええーーっと、いや、好き。好き? あっ…えーっと、えっ!? ええっ!? す――」


「ちょちょちょちょ、落ち着いて春貴ちゃん! 何言ってるか、わからなくなっちゃってるよ!」


 一瞬のうちに春貴ちゃんの顔が熱暴走を起こして、春貴ちゃんの脳がバグってしまった。

 ええっ、まさか無自覚だったの!? 

 なんか聞いた私も恥ずかしいんだけど! あー、私も顔熱くなってきた!! 

 

 二人してテーブル挟んで赤くなる私達。

 が、そこで、


「――すみません、五分ください」


 バッと春貴ちゃんが掌を私に向けて言ってきた。

 もちろん私としても一息つきたいので「うん」と二つ返事で了承する。


 そして、待つこと五分ほど。


「自分の気持ちに整理がつきました」


 と春貴ちゃんが顔を上げ、再び私と目を合わせてくる。

 そして、凄く真面目な顔で、


「――私はきっと、あなたが好きなんだと思います」


 そう言った。

 

 ――おおっ、生まれて初めて女の子に告白されてしまった。


「ど、どんなところが?」


 そして、つい反射的にそう私の口が問いかける。

 「そうですね」、そう春貴ちゃんは顎に手を当てほんの一瞬考えると、


「てきとうと思われる様な答えかもしれませんが、私はあなたの全てが好きです。もちろんキッカケはあの日の出会いでしたが、その後あなたの色々な面をを知るうちにこの好きという感情はどんどん大きくなっていったんだと思います」


「そっ、そう」


「はい。今になって思えば、高佐さんの絵を描いていたのも少しでもあなたと一緒にいたかったから、高佐さんの好きな料理を練習したりしたのもあなたに食べて欲しかったから。私のこの一年間は勿論私のためでもありますが、それ以上にあなたのためのものだったのかもしれません」


 そう数分前とは違いスラスラと述べた。きっとこの五分間で色々と覚悟を決めたのだろう。

 ――いや、スラスラって言うのはちょっと違うかもしれない。

 だって、言葉はそう淀みなく出てきているけどそれを話す春貴ちゃんの顔は真っ赤だから。当たり前だ、客観的に見れば春貴ちゃんは今、好きな人に自分の思いのたけを全てぶつけているのだから。

 

 だから、私も精一杯真面目に応えなければならない。その想いに。


「春貴ちゃん、ちょっとだけ時間貰っていい」


 私も春貴ちゃんに習って、そう気持ちを定める時間を貰う。

 そして、考える。

 私にとって春貴ちゃんとは――上之宮春貴とはなんなのか。出会ったのは一年前だけど、交流したのは一か月にも満たない、そんな同い年の少女を私はどう思っているのか。


 と言っても残念ながら私は春貴ちゃんと違って頭はそこまでよくないし、勉強も同様だ。

 そんな簡単には、


「…?」

 

 が、そこで私の脳裏に不意にある日の記憶がよみがえった。

 夏の暑さが峠を越え、季節が秋に移る一歩手前のあの日の放課後。三人で珍しく恋バナまがいの話をしていた時のこと――そのとき私が言った言葉を。


「…ははっ」


 思わずそこで思い出し笑いをしてしまう。

 そして、不思議そうな顔の春貴ちゃんに「ごめんね、ちょっと思い出し笑い」と弁解すると、今度は私の方から春貴ちゃんの目をまっすぐに見つめる。

 その時には、不思議ともう心は決まっていた。


「あのさ、大体半年前位に幼馴染二人とさ、あることを話していたんだ」


「大村さんと柏木さんですか?」


「おー、それも知ってるんだ」


「すみません、高佐さんを調べているうちにその二人についても興味が湧いてしまって。いや、勿論興味というのは高佐さんの友人としてです」


「うん、わかってるよ」


 そう言って私は笑う。

 そして、


「そのときさ、圭織に『恋人作らないの?』とか聞かれたんだ。それに対して。私たしかこんなこと言ったんだよ」


「?」


「『まぁでも、仮に私だけを一途に見てくれて私の全てに惚れてくれる性格よし顔よしで勉強できて運動できてお金持ちで優しくて面白い――そんな人が現れたらわからないけどね』ってさ。まぁこの発言はメッチャ二人にイジられたから憶えてるんだけどね」


「そう、なんですね」


「うん。まぁ、私自身もそんな人が現れるとは夢にも思ってなかったよ。ほんの冗談とか軽口のたぐいのつもりだった」


「はい?」


「――でもさ、まさか本当に現れるとは思わなかったよ」


「? えっとそれって――」


「うん。まぁ、ありっちゃありかな~って感じ。正直言って恋愛経験無いから恋愛的な方面なのかはわからんけど、少なくとも春貴ちゃんのことは人間的に好きだしね。それにここまで人から思われることなんて一生に一度あるかないかだろうしさ」


「…えっ? えっ、えっ!? えええええっ!?」


「とういう訳で、その好意はありがたく受け入れさせてもらいます。一応、お試し期間って感じかもだけど、これからは恋人・・としてよろしくね、春貴ちゃん」


 そう恐らく私が今までの人生で見た中で一番驚いている人の手を取って、そう返事を告げた。


 『人助け、これすなわち因果応報の先駆けなり』


 一年前、私は雨の中一人佇む女の子を助けて、傘とタオルをあげた。

 そして、その女の子が一年の時を経て何の因果か私の恋人になりました。

 

今回は初めて百合の花園以前から面識のある二人が主役でした。

しかし、それ故に話が長くなりすぎたのは少し反省です。それに加え、お気づきの方も多いかもしれませんがEXTRAが回を追うごとに文章量が増えていっています。この辺は冗長になり過ぎない様に今後少々気をつけていきたいところです…。

ちなみに次から物語は本編に戻って宿泊学習二日目が開幕です!よろしくお願いします!

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