Episode-1 『初対面・関西弁JKの場合』
目が覚めたら目の前に美女が寝とった。
そして、よう見たらその美女は今話題の超人気清純派女優さんやった。
「えっ、…は?」
当然ながら意味不明すぎる現状に驚き過ぎてそんな声にならない声しか出ぇへん。
そして、そこからさらに数秒経過しようが理解が追いつくはずも全くないわけや。
だって、起きたら横に人気女優が寝とるんやもん。普通誰でもそうなるやろ。
「…なんやねん。どうなってんねん、これ」
思わず思ったまんまの声が出る。
昨日は別にかわったことをしてへんはず。
普通に部活やって、普通におとんとおかんと蕾美(妹)と飯食って、テレビ見て、風呂入って歯みがいて、そんまま十二時前くらいには寝てもうたはずや。
少なくとも東京もんの女優さんと同伴するなんて、けったいなことにはどうあがいてもならへん。
あれ、というか…そういやこの女優さん名前なんていうんやっけ?
あー、あっかん。完全にど忘れや。今週もドラマで見たんやけどなー…。
全然出てこーへんわ。
「あの…えっと、すんません。もしも~し」
でもそれはひとまず置いといて、現在進行形でぐっすり寝とる女優さんの肩をおっかなびっくり揺すってみる。
一人じゃ心細くてしゃーないし、とりあえず布団から体起こしてこの女優さんも起こすことにしたわけやけど、
「ん…うう、んんっ…」
「なっかなか起きひんな。って――うわっ、睫毛なっが! やっぱテレビで見るよか生で見た方が綺麗やな~。えらいべっぴんさんや、何食ったらこうなるんやろか?」
「ああ…、う、うん、あれ?」
とそこでようやっと開いた女優さんの瞼とうちの瞼が合う。
しかし、起きたら起きたでどうするべきかわからへんもんや。
う~ん、なにはともあれまずは挨拶やな。
「あっと、おはようございます」
「え? えっと、おは…よう? どこここ?」
「それがうちもさっぱりで…お姉さんは何か知ってはりますか?」
「……関西弁?」
「あっ、はい。一応関西在住ですけど…」
「関西在住? 何故に? 私普通に自分の家で寝た気がするんだけど…」
「うちもそんな感じです。よー、わかりません」
「むー、ならお手上げだね」
ふわーっと馬鹿でかい欠伸をしはる女優さん。
実際に話すとなんやえらい掴みずらい感じの人やな。変人ってやつやろか。なんや、芸能人って変わった人多いって聞くしなあ。
つーか、この人いつまで布団にくるまって寝たまんま喋んねん。それにあんま現状に動揺してへん様にも見えるし、マイペース過ぎやろ。
「というか、なにこの部屋?」
「ああ、それはうちも気になっとったとこです」
そう、うちと女優さんが布団並べて寝とるゆうんも十分過ぎる程にけったいな状況やけど、周り見渡すとこれまた異常な風景が広がってんねん。
周りは白の床、壁、天井。その他になんやキッチンっぽい場所とテレビとソファ。そして謎の扉が何個かある。でも、そこに生活臭は一切ない。全部が全部新品みたいにピッカピカ。
簡潔に言うとごっつい気持ち悪いわ、この部屋!!
なんやねん、マジで!? メッチャ怖いねんけど!
『この部屋を見た感想はどうだい?』
「むっ?」
「なっ、誰や!?」
そこで、突然部屋に響いた声にうちと人気女優さんが同時に声を上げる。
それと同時にさっきまで何もない壁だった場所にブワッと映像が映し出される。
そこに映し出されたんは、これまた真っ白な部屋。
この部屋と違うんは、そこの中央に変なお面付けたやつが偉そうにやたら豪華な椅子に座っとるって点や。
怪しさの見本みたいなやつやな…。
『やあ、初めまして。関西弁JK――音木紗凪、清純派女優――虹白夜』
せやっ、虹白夜や! やっと思い出したわ!
って、いやいや今はそれどころやない!
「なんや、お前誰やねん! 虹白さんはともかくなんでうちのことを知っとんねん! めっちゃ普通の学生やぞ!」
うちの言葉にお面は「フッ」と小さく笑い声をこぼす。
なんやこいつ。すいぶん余裕ぶった仕草するやんけ。
『まあそう逸ることはないだろう。まずは自己紹――』
「まず、マジでお前誰やねん! ほんで、ここどこやねん!」
『…うん、だからまずは自己紹介を――』
「つーか、自分何してるんかわかっとんのか! 誘拐やぞ誘拐! 大阪府警に電話したろか!」
『……いや、だから! まずはこっち――』
「ほんでなんでモニター越しで上から目線やねん、それにお面なんかしくさりやがって陰気なやっちゃな! つーか自分どこおんねん! 教えろや、そのドアの向こうか? 今からうちが行ってそのひん曲がった根性叩き直したるわ!!」
『………あー、もう!! うるさいうるさい!! なにお前!? なんなのお前!? 関西弁で捲し立てるな! こっちに喋らせろ!! そしてもっと怖がれよ! 驚けよ!!』
と、そこで一気にお面の口調が変化。
やりとり数回で大物感漂わせてた余裕が消えよった。しかも、女子高生に言い負かされる感じで。
マジなんやねん、コイツ…。
『「マジなんやねん、コイツ…」という顔をするな! 人間が神を憐れんだ目で見るな!』
「いやそう言われても………ん?」
今こいつ、なんて言うた?
神?
聞き間違いやろか…?
そう思うて隣を見たら女優さんも「神?」とポカンとした顔をしとる。
うちの聞き間違いちゃうみたいやな。
………………。
なるほど。
「…えーっと、あれやな、さっきはちょっと言い過ぎたわ。…なんや悩んでることとかあるんならうちでよかったら相談くらいのるで」
『腫れ物に触るみたいな感じ止めろ! それになんださっきの間は! 貴様さては疑ってるな、私が神であるということを』
「いや疑ってるいうか…、どう思いはります?」
少々うちでは手に負えん様な気がしたから、女優さんに年上の意見を求める。
いやだって、神や言われたらもうどうしよもあらへんやん。
だって、神やもん。ゴッドやで。言っちゃ悪いけど絶対あいつ神ちゃうやろ。
「なんの神かとかを聞いてみたら」
「なんの神か、ですか?」
「うん。例えばギリシャ神話のゼウスは天空の神だったり、七福神の恵比寿は福の神だったり。本当に神様ならなにか担当があると思う」
「なるほど、女優さんは物知りですね」
「…ちょっと顔が近い」
「あっ、すんません」
自然と距離感が近くなってしまい、慌てて離れる。
完全に友達と話してる感じになってもうた。
『ふむ、今のは中々眼福だな。だが、いい加減こそこそ話は止めてくれないか。いない者として扱われては神とて傷つくぞ』
「なんで、最初の口調に戻ってんねん。今さら取り繕ってももう手遅れやろ」
『うっせ! お前マジもうちょっとこの状況と私に遠慮しろ! グイグイ来るな、泣くぞ! ――あっ、決めた! 泣いてやろ! 次なんかツッコミいれたら、もうお前がドン引きしようともここで大泣きしてやっかんな!!』
子どもか!
もう完全に確信したわ、こいつ絶対神ちゃうわ。
もしこいつが神やったら、うちの近所に住んでる親戚のがきんちょも神でええわ。
実際に口に出して言うてホントに泣かれてもしゃーないから心の中だけでしか言わへんけどやな。
まあ、そう言うても現状こいつの機嫌を損ねるのは得策ちゃう。
うちら二人をこんな場所に気付かれずに誘拐する何らかの技術や資金や力を持っとるのは事実やしな。
うちが一人で好き勝手物言いして、女優さんに迷惑かけるわけにもいかへんし。
ならまずは、
「あー、なんや。冷静に考えたらいきなりうちらをこんなこの世の物とは思えへん部屋に移動させられるんやからあんたが人ならざる者――つまり神ってのも不自然やないな~」
『―――ふっ、ようやくそこに気付いたか。そうこんな所業が神以外にできるはずなどないのだ。まあ、いきなりこんな状況に陥れば混乱するのもわかる。いいだろう、許してやる。わかればよいのだ』
さっきの狼狽が嘘のように上機嫌に笑う自称神。
ちょっろいわー。
わかっとったけど、こいつアホやな。将来誰かになんかでっかいこと騙されそうで心配になってくるわ。
まぁ、これで何はともあれ、機嫌が回復したところで女優さんのアドバイスを実行する準備が整ったわけや。
「なあ、一つ聞いてええか?」
『ああ、かまわんぞ』
「おおきに。でや、ほんまに神やとしたら、自分なんの神なんよ?」
さて、どう答えるつもりや。
まあ、焦ってあたふたするのが目に見えとるけど。
『ふっ、ふふふっ』
が、うちの予想とは違い自称神は待ってましたとばかりに笑う。
なっ、なんやこいつ…!
急にまた大物風を吹かせ始めよった。
まさか本当に――
『いいだろう、教えてやる。私は、私の正体は――』
その溜めるような言い方にゴクッと思わず生唾を飲み込んでまう。
そして自称神はメッチャ胸を張るように、
『女の子同士の初々しい恋と愛を司る神。つまり、――百合神だ』
「「………………」」
うちと女優さんがポカーンと無言になる。
理由は…、言わんでもわかるやろ。
そして、今日三度目だけどこれだけはあえて言うわ。
こいつ、絶対に神とちゃうやろ!!




