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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第2章 café「R」〜カフェから巡る四季〜

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《第99話》男だらけのクリスマス

「本日23日ではあるが、ここに忘年会兼、男のクリスマスを祝うことにする。

 各々、グラスは持ったな?

 では来年も楽しく過ごせるよう、乾杯!」


 三井の発声のもと、男だらけのクリスマスが始まった───


 今回は一年の振り返り、原点にかえる意味でメイン料理はビーフシチューだ。

 クリスマスメニューはどんな料理かと巧と瑞樹は大変楽しみにしていたようだが、三井と連藤から今年を振り返る意味でここのメインの料理を出して欲しいとなったのだった。

 他のメニューは海鮮のカルパッチョにマッシュポテト、さらにカプレーゼとマッシュルームのサラダ、ガーリックトーストになる。


 乾杯用のシャンパンを飲みながら食事が始まるが、やはりビーフシチューで間違いなかったようだ。


「思えばこのビーフシチューからだよねぇ」

 そうしみじみ言い出したのは瑞樹である。

 一口頬張るが「今日の肉、一段と大きい!」それだけで目が輝く彼は本当に可愛らしい。


「もうここに通い始めて1年半は余裕で過ぎてるけど、オーナーのこと莉子さんって呼び始めてから……半年はすぎてるか。なんかすっごく昔からの付き合いな気がする……」

 指折り数え、巧は感慨深げにシチューを啜った。やっぱうまい。口だけが動く。


「今年は雨が多い中、バーベキューができたのはかなりの成果だと、俺は思う」

 三井は満足げに頷くが「お前だけだ」連藤が端的に切った。


「莉子さんのおかげで色々な料理やワインも楽しめ、今年は食の1年になったと思う」

 そう微笑む連藤に莉子も頷いた。


「私も今年は色々な料理を作ったと思います。初めてハロウィンパーティとかしたし。

 夏の浴衣の花火も楽しかった!」


 莉子も同じく席に着き、ビーフシチューを頬張るが、夏の浴衣に反応してか、連藤の顔がパッと赤くなった。


「何考えてんの」

 莉子が突っ込むが、ただ顔を伏せ、手でいやいやと振るばかりだ。


 シャンパングラスが空になったのを見て、

「赤と白、あるけどどっち飲む?」


「「赤」」

 巧と三井の声が被る。


 やっぱなと目配せして拳を当て合うのを見ると、この2人は兄弟のようにも感じる。

 確かによくよく見ると色男の三井と、純粋な美男子の巧だ。

 目の保養になる筈なんだけどなぁ。莉子はセラーからワインを取り出しながら思う。


「瑞樹くん、ワイングラス、そこのピノ用のグラス、出して」


「これだなぁ」

 そういってグラスホルダーから外したグラスは底がボウルのように広く、大きい。

 飲み口の部分は底よりも小さめの円周だ。ボウルの中に香りが充満し、ワインが開きやすくなるのだ。


「ってことは、ピノ?」瑞樹が返すと、

「そのとおり。せっかくの忘年会なので、ピノにしてみました。

 マルサネのいいのが入ったので飲みましょう」

 莉子は語尾にハートマークをつけながら運んできた。


「ピノ・ノワールといえばブルゴーニュだからな」

 連藤も嬉しそうである。


「なんでピノっていったらブルゴーニュなの?」


「巧、そんなことも知らないの?」

 瑞樹が自慢げに鼻を鳴らし、説明を始める。


「ブルゴーニュの赤をくれっていえば、ピノしか出てこないんだよ?

 白って言ったらシャルドネね。

 基本単一でしかワインを造ってないんだって。

 それに巧でも知ってる、ロマネ・コンティがあるところだよ」


 へぇぇぇと関心顔の巧に、そのピノ・ノワールが注がれていく。

 色は美しいガーネットの色。輝きも宝石に負けないだろう。グラスの中で揺らすと煌めきが返ってくる。

 グラスを鼻にかぶせるように近づけると、いちごの酸味のあるベリーの匂い、さらにカシスの深いベリーの匂いが鼻腔をくすぐる。たまらず一口含むと、舌触りは滑らかで渋みは少なく、だがコクがあり、長い余韻が楽しめる素晴らしいワインだ。


「瑞樹くん、ワイン勉強してるの?」

 莉子が尋ねると、


「ちょっとね」

 そう言って瑞樹は笑い、

「莉子さんとこで飲んでて、めっちゃ美味しいから、今、優ちゃんと勉強してるんだぁ」

 少し鼻の下が伸びたのは見逃しておこう。


「しっかし、今年は莉子も大忙しだったんじゃないか?」

 ビーフシチューのおかわりだろう。莉子に皿を突き出した。


「はいはい……

 大忙しってどんな感じで?」


 テーブルの端に置いた寸胴からビーフシチューを掬い上げた。おたまの中は肉でいっぱいである。


「木下とか、いろいろ」


「ああ、いろいろ……

 うん、今年はいろいろあったね。

 ほんと、アノあと、結構あるね……」


 厄払い行こうかなぁ。ぼやきつつ、三井に皿を差し出した。

 隣の瑞樹も子犬のような上目遣いで皿を傾けた。

 莉子は微笑み返し、皿を取り上げ、シチューを注ぐ。


「あ、巧くんのお父さんに会えたのはビックリだったな」

 莉子はシチューをすすりしみじみ呟くが、


「俺もまさか親父が飯おごってくれるとは思ってなかったわー」


 巧はパンでシチューをすくい食べつつ、

「あ、親父が年明け、飯食いたいって言ってた」


 莉子の動きが固まる。

「どうせ海外で年越しするから、日本食が食べたいとかそういうことでしょ?」


「ご名答」

 巧はにやりと笑いつつ、自分でシチューをよそっている。好きな肉をかたっぱしから皿に乗せているのを見かねてか、三井が巧の頭を引っ叩いた。

 巧は睨むが三井が持ってきた皿に自分がよそった肉を転がすと満足げに頷くが、さらに2人の頭を莉子が引っ叩く。


「いい大人なんだから、肉を根こそぎ取らない!」


 莉子に取り分けられ、しょんぼり顔で2人は席へと戻る。


「連藤さん、ビーフシチュー食べますか?」


「お願いできるかな」


 莉子は連藤の皿を受け取り、意気揚々と肉をよそい始める。

 それを見て三井と巧から引っ叩たかれたのは、言うまでもない。


「年明けっていつからやってるの?」

 瑞樹が聞くが、


「うーん、気分」


 一同固まるが、

「元旦からやることもあるってこと?」

 巧が聞くと、


「そんな年もあったよ?」

 莉子はワインを飲み干し、サラダを口に含んだ時、


「今年の年末年始、営業はなしだ」

 連藤が言い切った。


 続けて、

「今年は俺と年越しになるからな」

 莉子の肩を抱き寄せ言った。


 一気に茹で上がった莉子を見て、なぜか3人は微笑ましい気持ちにに包まれる。

 三井は2人を見守る父親のようであり、巧と瑞樹は姉を見守る気持ちである。

 巧と瑞樹が連藤寄りではなく、莉子寄りなのは、多分胃袋を掴まれているからだろう。


「今年は三井との年越しではないからな。簡単なものだが、おせちでも作ろうかと思ってる。

 莉子さん、楽しみにしていてほしい」

 お蕎麦もあるからな。そう言う連藤は先ほどのピノ・ノワール並みの輝きが溢れている。さらににんまりと微笑む姿から、それほどまでに作るのが楽しみなのだろう。

 莉子は素直に御相伴にあずかることに決めると「楽しみにしてます」莉子が頭を連藤の肩に寄せた。

 一気に連藤の頬が赤く染まった。

 連藤の中でどこかのツボに入ったのだろうが、このタイミングで赤らめる意味がわからない。

 側の3人は連藤に対してなぜか冷めた目になる。


 天使がとおったのか、言葉が一度切れたとき、莉子が立ち上がった。


「さ、今日は忘年会兼クリスマスです。

 ケーキもあります。今、仕上げてきますね!」


 背を向けた莉子に、

「巧、瑞樹、手伝ってこい」

 三井の声に2人は素直に返事をし、仲良く3人で厨房へと潜っていく。


 シニア2人となったとき、連藤が先に口を開いた。


「三井、今年はいろいろと世話になった」


「そりゃ俺の方だ」


「三井が?」


「今年はお前と莉子のおかげで、結構楽しく過ごしたからな。

 お前の方こそ、急になんだよ」


「……まあ、色々あったからな」


「ああ! 元婚約者の急襲とかな、あったな」


「思い出させるな……」

 連藤は額に手を当てるが、三井はかまわず笑うだけだ。


「お前も笑うことが増えたからな、連藤。

 年越しがお前とじゃないのは少し寂しいが、巣立ちを見ている気分で嬉しいわ」


「世話になった」


 連藤が改めて言う。

 連藤の少し下げた頭を三井は小突くと、


「俺も世話になってる。また来年も頼む」


「もちろん」


 連藤と目が合う。

 そう思うだけだが、彼はしっかりと三井を見据え、微笑んだ。

 三井も笑い返したとき、厨房から3人の賑やかな声が響いてきた。


「最後の盛り付け、おれと巧でやったんだぁ!

 みてみて、可愛いでしょ?」


 フルーツと生クリームがたっぷり入ったロールケーキだ。

 それにさらにチョコ生クリームをかけ、フォークで木の幹のように線を描き、サンタの飾りを乗せれば出来上がりだ。


「さ、ケーキを食べてからが本番ですよ!」


 莉子はそう言うと、もう一本ワインを掲げた。


「今日はチョコに合う赤ワインも用意しているのです!

 これからが二次会ですよ!」



 カフェの夜はまだまだ続きそうだ。

 現在の時刻は21時。

 これから優と奈々美も合流するという。

 さらに九重も呼ぼうかと瑞樹は携帯をいじっている。


「食べ物に限界はあるので、あまり人は……」


 莉子がいうが聞こえないようである。

 仕方がないか。

 深呼吸をしてみた時、連藤が莉子を見つめ、


「俺も手伝うよ」


 そう言って優しく手を握った。

 その手を握り返して小さく笑うと、


「買い出し部隊を結成する!

 巧くん、瑞樹くん、夜中までやってるスーパーに行くぞ!」


「「アイアイサー!!」」


 賑やかな夜はまだまだ続く───

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