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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第2章 café「R」〜カフェから巡る四季〜

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《第85話》薄曇りの日はメキシカン! 後編

 コーヒーを飲みながら映画なんかを観てしまうのが、計画性のなさを物語っている。


 気づけば17時を過ぎているではないか。


「どおりで外も暗いですよね……」


 エンドロールを眺めながら我に帰ると、チリコンカンの様子を確認し、すぐにナチョスの準備にかかる。

 チップスを耐熱容器に並べると、その上に小さめのサイコロ状に切ったアボカドを散らし、さらにサルサソースをかけて、チーズをふりかける。


「一度レンチンしてから、オーブンだな……」


 ラップに手を伸ばしたとき、チャイムが鳴り響いた。


「早くない!?」


 莉子はインターホンを覗き、どうぞと声をかけて玄関まで降りていった。

 激しい足音がドア越しに鳴るが、連藤にとってはそれが莉子が迎えに来た合図になるのでちょうど良いい。


「連藤さん、お疲れ様」


 扉を開けながらそう言うと、カバンを差し出しながら連藤が答える。


「ああ、ただいま」


「おかえりなさい」


 莉子はカバンを抱えて階段を上りながら、思わず満面に笑顔を散らすが、リビングに着いてからさらに連藤のジャケットを取り上げつつ、急に足元が落ち着かなくなる。


「ソワソワしてるな」


 莉子の雰囲気を察してか、連藤が首を傾げてくる。


「トイレなら行ってきてくれ」


「いや、そうじゃなくて…実はまだ料理が完成してなくて」


「それなら俺も手伝うことにしよう」


「いや、連藤さん、疲れてるから、先にお風呂でも入る?」


「いいから」


 もう連藤のシャツは捲り上げられ、綺麗に整えられている。

 さらに色グラスの奥の眼球はキラリと光り、できることならなんでもやるぞ、というやる気が見える。


 本当に料理が好きなんだな…


 莉子は呆れたように笑いながら、連藤の手を取るとキッチンまで連れて行った。

 連藤は何かを探すように辺りを見渡すが、匂いで料理を確認しているのだ。


「鍋にかかっているのは出来上がっているんじゃないのか?」


「チリコンカンね。それは出来上がり。

 あとはナチョスをレンチンしてオーブンに。

 あとトルティーヤを焼けば問題ないかな」


「ではトルティーヤを焼こう」


「わかったよ」


 莉子は休ませておいた生地を運んできた。

 先ほどの倍ぐらいの大きさになっただろうか。

 それを適当にちぎり、打ち粉をしたまな板の上で伸ばしていく。

 その間に慣れた手つきでフライパンを取り出し、火にかけている連藤がいる。


「連藤さんはトルティーヤ作ったことある?」


「たぶん、ないな」


「私も初めて。

 もしうまくできなかったらパスタとかもあるから、切り替えようね」


「大丈夫だろ?」


 そういって激しく弾力のある生地を伸ばし、フライパンに乗せると、連藤はタイマーをセットした。


「だいたい3分程度だろ?」


「そだね」


 片面を焼き、ひっくり返してさらに2分ほど。なるだけ押さえつけて焦げ目をつけるといいらしい。

 が、とりあえず焼ければいい。

 その間にナチョスをオーブンまで進め、火にかけておく。


「トルティーヤ、けっこう焼くの時間かかるね」


「一枚ずつだからな。ホットプレートなら枚数は焼けるが、場所をとるしな」


 そう言いつつも、すべて焼き上げ、さらにナチョスも出来上がった。

 時刻を見ると19時過ぎ。

 時間もいい時間だ。


「よし、莉子さん、食べようか」


「今日はビールにしましょ!」


 よく冷やしておいたビールをグラスに注ぎ、テーブルにつくと、乾杯の合図と同時に二人ともにグラスに口をつけた。

 喉ごしのいい炭酸が喉を抜け、さらにホップの香りが鼻を抜けていく。


「やっぱ、ビールもおいしい」莉子がつぶやくと、


「ビールは間違いないな」連藤も同意する。


「だが俺はてっきりロゼワインにするかと思っていた」


「確かにロゼも考えたんだけど、けっこう辛い料理だからビールのほうが邪魔しなくていいかなぁって」


 そう言いながらチリコンカンを取り分け、莉子はそこにタバスコを振りかけた。

 そしてイースト菌で作ったトルティーヤにのせ、頬張ると、


 もうメキシコ!!!!!

 誰が言おうと、メキシコ!!!!!!


 豆の甘みとタバスコの酸味と辛味、見事な融合である。

 さらに薄いふんわりとしたパンのトルティーヤがまたおいしい。

 少し焦げ目があるからか、表面はパリッと、中はふわっとして食感も楽しめる。


「トルティーヤ、失敗してなくてよかったぁ」


「全く問題ない。

 意外と腹持ちも良さそうだ」


 連藤も莉子と同じようにタバスコを振りかけ、額に汗を浮かべながら頬張っている。


 チーズがまぶされたナチョスはスナックであるものの、サラダのような不思議な食べ物だ。

 これも酸味と辛味が相まって、ビールがすすんでしまう。

 特に手作りしたサルサソースが美味しい!

 アボカドのもったりとした味と絡んで、より旨味が増している気がする。


「こういう唐辛子ってなんで、こう、眉間と目の当たりが熱くなるんだろうね」


「たしかに。それに発汗作用もすごい。今日が肌寒い日だとは思えないな」


 お互いに辛さでヒーヒー言いながらも、食べることは止まらず。

 さらにビールも止まらない。

 秋用の特別なビールが出回るのだが、それがまたおいしいのである。

 コクと苦味がいつもと違う雰囲気で作られているので、今しか飲めない特別感もあり、美味しさは2倍!


「莉子さん、初めての割には上出来なんじゃないのか?」


「私もそう思う! また作るね」


 ビールで飲み込み、再び食いついくが、どうも連藤がこちらを眺めているようだ。


「なんか見える?」


「莉子さんがビールを飲む姿」


「私も連藤さんがビール飲んでるの見えるよ」


「莉子さんは面白いな」



「何が?」

 莉子はナチョスで余ったチップスでチリコンカンをすくい頬張るが、タバスコが足りないのか再びチリコンカンをすくったあと、そこにタバスコをかけて頬張り、悶えるように頭を振ってビールを飲み込んだ。


「……美味いわぁ」


「莉子さんといると、自然でいられる」


「私も連藤さんといると、楽しい」


 少し酔いがまわっているのか、莉子はむふふと笑い、またビールを口につけた。


「自然にはならないのか?」


「……どうなんだろ…

 でもやっぱり好きな人だから、あんまし変なことできないから、少しは緊張するかなぁ」


「なるほど」


 蓮藤も莉子の真似をしてか、チップスでチリコンカンをすくい、口に頬張った。

 スナックの食感と肉の旨味が合わさり、やはりビールがすすんでしまう。


「莉子さん、食事のあとはどうする?」


「そうだなぁ…

 コーヒー飲みながらラジオ聞く」


「それもいいな」


 久しぶりの2人の食卓。

 誰の邪魔もなく2人だけの時間がただ流れていく。

 たまに無言の時間もあるが、それもそれでいいのだ。

自分で作ったんですけど、携帯を忘れ、ベーキングパウダーなのか、イースト菌なのかわからなかったのは、本当のエピソードです。


間違えても美味しかったので、やってみていただけたらとても嬉しいですw

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