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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第2章 café「R」〜カフェから巡る四季〜

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《第81話》朝は冷えるが昼は暑い

 だんだんと肌寒くなる今日この頃。

 カーディガンをはおり、カフェ前の枯葉の掃除をしてみるが、動くと暑く、止まると寒い、この微妙な季節に莉子はイライラしていた。

 だが目の前に広がる銀杏並木の美しさは目を見張るものがある。

 まだ全体に黄色は広がっていないものの、徐々に色を染めていく過程も美しいものだ。

 朝露に濡れた葉に日差しがかかり、煌めくの波がとても鮮やかで、思わず莉子は頬を緩めた。


 だが、これらが一斉に葉を落とすときが地獄だ。


 ここの銀杏はメスの木ではないため、ギンナンはならない。それだけでも救いだと思うのだが、こう視界の奥までの銀杏の葉の始末をしなければならないかと思うと、毎回それだけが憂鬱になるポイントだ。

 だがまだ幸いなことに地獄は訪れていない。

 莉子は早々と落とされた落ち葉をかきあつめ、袋に詰めて資源ごみへと出しに行き、カフェへと戻るとランチの準備に取り掛かった。


 今日は朝冷えたこともあり、温かなスープを準備しようと決めると、冷蔵庫を開けてみた。

 一番最初にトマトが目に入ったので、このトマトと卵で中華スープにしようと決め、それに合わせてメインの料理は春雨春巻きに決定。小鉢はきゅうりと鶏ささみの中華和えとし、それらに合わせて材料を取り出していく。


 まずはスープの準備である。

 鍋に火をかけ、鶏ガラスープの素を入れる。その間にトマトをさいの目に切り、彩りにワカメをもどしておいた。スープが煮立ったところでトマトを入れ火が通ったのを確認したら、塩とコショウで味を見て片栗粉でとろみを少しつけ、あとは出すときに卵を落として火を入れて、お椀によそってからごま油とわかめとネギを散らせば完成だ。

 次に春雨春巻きだが、まずは春巻きを戻し、人参、椎茸、筍、ぶた肉を千切りにしておく。

 フライパンに油を引き、ぶた肉の色が変わったところで千切りにした野菜を入れ、火が通ったら春雨と少量の水を加え、調味料も入れてしまう。調味料は砂糖、醤油、オイスターソース、酒に中華だし、塩・コショウで完璧。少し煮立たせて丁度いい水分量になったところで片栗粉を入れてとろみをつけておく。

 それをバッドの中に入れ冷やしておき、オーダーが入ってから巻いて揚げていこう。


 と、準備をしたが、意外と提供までに時間がかかりそうだ。

 この中華セットは限定10セットにし、時間がかかるということをオーダーの際に伝えることにする。


 ビーフシチューも温め終わり、パスタセット用のミートソースも温め終えた。

 麺を茹でる鍋も火にかけてあり、さらにフライヤーの油もいい温度に調節できている。

 小鉢の盛り付けも終え、デザートの準備も整えた。


 あとはお客を待つのみだ!



 11時30分を過ぎたあたりからお客が入り始め、やはり男性客にはこの中華セットは人気がある。

 ボリュームがあるように感じるのかもしれない。

 多少の時間をかけても問題のないお客様が選んでくれて本当に助かる! と思っていたところに現れたのは三井と巧のペアである。


「莉子、中華セット」


「あ、オレも」


 カウンターに腰を下ろすなりそう言われるが、莉子は水を出しながら、


「いらっしゃい。

 中華セットだけど、これから揚げたりするから時間かかってもいい?」


「時間かかるのかよぉ」


 やはり、三井から不満の声がもれる。


「はい。今巻いて揚げますので」


「オレは問題ないから、莉子さんお願い」


「したら俺は会議に遅れるって言っとくか……」


「は?」莉子が引きつった笑顔を向ける。


「なんだよ。会議に遅れるだけじゃねぇか」


「普通はメニューを変えて時間に間に合わすもんじゃないの?」


「いいんだよ、別に。

 この会議俺いなくても回るし。

 ……この際だからゆっくり食うかな」


 にやりと笑い、どこかへ電話をかけ始めるが、莉子はよくわからないと首を振り、2人の中華セットを作り始めた。


 他のオーダーも入っていたため、やはり提供までに20分ほど時間がかかってしまったが、2人ともに苦でもなかったようだ。何やら真剣な表情で会話を進めていたところもあり、今出していいか一瞬戸惑ったほどである。


「はい、中華セットになります」

 料理を出し終え、話があるだろうとすぐに背を向けるが呼び止められた。


「莉子、」


「なに、真剣な顔して」答えると、巧が今度は口を開いた。


「……ハロウィンって、どう過ごすべきだと思う?」


「は?」


「は? じゃねぇよ。

 俺の3番目がハロウィンだから会おうねって言われて、意味がわからなくてよ。

 歳が巧ぐらいだから丁度いいかと聞いたんだが、巧もわからんっていうし」


「奈々美からもハロウィンの日、何する? って言われて、何をするんだろうって思ってて」


「女しかわからねぇことじゃねぇかと思ってさ」


「それを真剣に話してたわけ?」


「「当たり前だろ」」


 莉子は瞬きを幾度となくしてみるが、現実は変わらない。

 ハロウィンに翻弄されている男が2人、目の前に座っているだけだ。


「三井さんの場合は、ただのイベント好きなだけでしょ?

 イベントだから会おう的な。

 奈々美さんは、何する? っていうから、コスプレを何する? ってことなのかなぁ?

 なんかハロウィンのイベントでたりするの?」


「いや、全く」


「結構クラブとかそういうところではイベントやってたりするから、そういうことなのかなぁ……」


 莉子も首を傾げてみるが、答えはでない。

 でも、ハロウィンかぁ……

 莉子は心の中で唱えてみて、


「うちのカフェでも何かやろうかな……」


 小さく呟いたとき、2人の男の目が輝いた。


「「ぜひ、やろう!!!」」


 この2人はハロウィンにどんな幻想をいただいているのだろう。

 エロい格好をするのがハロウィンではないのだ。

 おどろおどろしい格好をするのがハロウィンなのである。

 だがそれ以上に問題を解決できないと読んだ2人は、ここのカフェイベントに彼女を呼んで、どうにか回避しようという魂胆なのかもしれない。

 読んだ通り、早速とメッセージを打ち込み、飛ばしている。


「はやっ。奈々美から連絡来たわ。

 そういうイベント出てみたかったから店探してたんだって。莉子さんとこなら問題ないから予定空けとくってさ」


「俺の彼女もぜひだってさ。この日は3番とデート、と……」


 問題を解決したと思ったのか、止まっていた箸を動かし始めたが、そこに莉子がとどめを刺した。


「ハロウィンだから、あんたたちも何か変な格好しなきゃダメだよ?」


 再び箸が止まったのは言うまでもない。


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