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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第2章 café「R」〜カフェから巡る四季〜

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《第80話》材料が同じ料理って結構あるよね

「待たせて悪かった!」


 申し訳なさそうに手を合わせる巧の後ろには料理が広げられている。

 だが彼らにとって彼の謝罪よりも重要なのは、何の料理を作ったかだ。

 巧をかきわけるようにテーブルに3人は着くが、3人ともに料理に釘付けになった。



 6人掛けのダイニングテーブルに広がっていたのは、煮込みハンバーグだ。



 煮込みハンバーグ……


 煮込みハンバーグだと!?



「ぎゅ、牛肉の塊あっただろ!?」


 焦ったように声をあげたのは三井である。


「牛肉?

 これみてよぉ。めちゃ大変だったんだから」


 瑞樹がキッチンから出してきたのは、ひき肉が作れるミンチの機械である。

 横にハンドルがついていて、クルクルと回すとジョウロのような穴の空いた筒からにょろにょろと肉がつぶれてでてくるのだ。


「挽きたてがうまいって聞いたから肉から挽いてみた。豚と牛の割合もちゃんと考えて、豚2の牛8で作ってるから肉の歯ごたえと柔らかさがでたらいいかなぁ、なんて」


 解説をしてくれる巧を差し置き、アダルト3名は言葉にならない戸惑いを覚えていた。


「三井さん、どうする?」


「どうもしねぇよ」


「これは引き分けだな……」


 3人で小声で話す姿を訝しげながら、瑞樹は3人に席をすすめると、巧と2人で残りの料理も運んできた。


 ビーフシチューで使うかと踏んだセロリはタコと合わさり、炒め物に。

 牛肉のローストで使うかと思った香草類はサラダのドレッシングに使用するものだったようだ。


 各料理を確認しながら当てられなかった悔しさに心が満たされそうになるが、どれもいい匂いがし、そして盛り付けも大雑把ながらも素敵に演出されている。


「これ本当に2人で作ったんだよね?」


 念を押すように莉子が聞くと、少しふてくされたように巧が返事をする。


「だから今日は3人へのお礼で俺と瑞樹が作るっていったじゃん」


「すっごいよ、巧くんに瑞樹くん! どれもすっごく美味しそうっ」


 一人分ずつに盛り付けられた煮込みハンバーグには、人参のグラッセとフライドポテト、ブロッコリーが彩りで添えてある。さらにコンソメスープは細かく切った玉ねぎと人参があり、さらにボウルに盛り付けられたサラダは葉がメインにあるとはいえ、パプリカやトマトなどで彩りが足され、とても鮮やかで美味しそうだ。

 程よく温めたパンもあるし、炒め物はセロリとタコの以外に、ジャーマンポテトとインゲン豆のソテーがある。食材のバランスもいいのではないだろうか。


「では、冷めないうちにいただかないか?」


 連藤が声をかけると、待ってましたとばかりに巧が立ち上がった。


「改めて、

 いっつもオレたちに美味しいご飯と相談とか、協力してくれてありがとう。

 これからも頼るので、今日はゆっくり楽しんで!」


 2人が用意してくれたシャンパンを飲み込み、食事が開始した。



 ちゃんと作り方を見て作成したらしく、どれもきっちりとした味が楽しめる。

 どれも美味しく、手本になるような料理の味付けだ。

 まだ慣れない2人だからこそ、基本に忠実に作成したのだろう。2人らしいと微笑ましくなる。

 きっと三井のようなタイプならどれかの料理に自己流アレンジを加え、破壊的な味を作り出すのではないだろうか。。。


 だが、ひき肉を塊肉から作成したにしてもこれほどまでの時間はかからないだろう。


 一体、何があったのだろう。

 そう思ったのは莉子だけではなかったようだ。


 連藤は小さく頷くと、


「巧、瑞樹、本当にありがとう。どれも美味しい出来になっている」


 連藤のそのコメントに歓声をあげんばかりの喜びようだ。


「ちょっと感動じゃね?」


「本当だよね、巧! 頑張った甲斐があったねー」


「だが今回の料理にしては結構時間がかかったようだが、何かあったのか?」


 連藤が何気なくも尋ねると、


「ああ、デミグラスソースを一から作ってて」


 巧がハンバーグを口に頬張り瑞樹を見やる。バトンタッチという意味らしい。


「そそ、煮詰めるのが大変だったね。

 意外と時間食っちゃって、焦っても出来上がらないし」


 思い入れのある煮込みハンバーグを瑞樹も頬張り、じっくりと味わう。

 赤ワインの風味とバターのコクが素人の自分たちが作ったとは思えないほどの出来だ。


 だがそれで判明した。


 飽くまで想像だが、まず時間のかかるデミグラスソースを作ってから、次に肉を挽いて準備をし、玉ねぎを切って炒めたあと、ハンバーグのタネを作って、煮込んでいく。

 煮込み終わってからサラダを作り、ソテーを作り、と、一品ずつ仕上げていった結果、膨大な時間がかかったようだ。

 料理が慣れてくれば、時間短縮にどの工程を並行して進めようかなど考えられるが、まだまだ2人は初心者だ。

 一品一品確実に仕上げていったのだから、それも大切なことであり、間違いのない作成方法だろう。


「そそ、ご飯も炊いてあるから、パン嫌な人はご飯で」


 瑞樹はいいながらパンを取り上げ、それに釣られて莉子もパンに手を伸ばした。


「このパン、どこの?」


 ひとつちぎって口に放り込むと、そこから香ばしさと一緒に麦の甘さが口に広がる。


「あ、これ、Fホテルのパン」


「あー、あのホテルな」

 三井と連藤は、どうりでという顔つきで頷いているが、莉子にとっては目が飛び出るほどの話だ。

 庶民ではなかなか宿泊できないプレジデントなホテルで作られているパンである。

 パンだけ買いにいくのも庶民の自分でははばかられるのに、つらりと言いのけたではないか。


 確かに旨い……!


「初めて食べたかも、このパン」


「すぐ売り切れになるからな、ここのパンは」


 言いながらも1個ペロリと平らげ、2個目に三井は手を伸ばす。


「意外と取り置きもできるから便利ではある。

 ここはラウンジと併設していてケーキも食べられるから、莉子さん、今度一緒に行こうか、パンを買いに」


「そんなとこに買い物に行ける服がないよ」


 焦って叫ぶ莉子に一同は笑うが、笑い事ではない。どんな格好をすればいいかわからないのだから仕方がない。


「上下スウェットみたいな格好はやばいかもしれないけど、

 莉子さんのいつもの格好なら問題ないよ?」


 瑞樹がフォローしてくれるが、そんなお高いホテルなんて、どんな顔して入ればいいのだろう。

 その日が来たら腹を決めようと莉子は思い直し、2個目のパンとタコとセロリの炒め物を皿に取って食べ始める。


「タコとセロリって合うよね。すっごい美味しい」


 莉子はしゃきしゃきとした歯ごたえと音を楽しみながら微笑むと巧が胸を張って言い切った。


「これはオレが一人暮らしのときに会得した料理。マジで得意料理だから」


「確かに。一時期巧の部屋に行ったら、セロリ臭やばかったもんね」


「ハマってたんだから仕方ないだろ?」


 ガーリックの風味と唐辛子のピリッとした刺激がワインのおつまみにちょうどいいし、何より、あとを引く旨さがある。

 

 料理のコツから、メニューの組み方、材料の選び方など、話は尽きないところだが、追加の飲み物を取りにキッチンに向かった三井が突然叫んだ。


「お前ら、しっかり片付けろよ!!!!!!!」


 莉子はなんとなく鼻で笑い、用意してくれた赤ワインを飲み込むと、


「私も片付けは手伝うから。

 アイスワイン持ってきたから、片付けたらみんなで飲もう?

 今は料理、ゆっくり楽しもうよ」


 キッチンに向かって声をかけると、三井は渋々ながら戻ってきて、冷蔵庫にしまってあった缶ビールのプルタブを開けた。


「……あんなになるとは…」


 タコをつまみ、ビールを飲み込むが、よっぽどだったようだ。


「俺も初めの頃は片付けが下手だったから、キッチンの荒れ具合はイメージがつく。

 こればかりは慣れだからな」


「三井、慣れだって。仕方ないんだって。

 あとで完璧にしとくからさ」


 あっけらかんと放った巧の言葉に三井は睨むが、


「料理旨いから、勘弁してやる」


 三井の言葉が優しく響いた。


 ふと、窓を見やると、カーテンのない窓に美しい夜景が広がっている。

 すでに夜は来ていたようだ。


 そう、夜はこれからなのだ!


 まだまだ5人の宴会は終わらない───

 

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