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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第2章 café「R」〜カフェから巡る四季〜

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《第77話》本日、臨時休業

 目が覚めてカーテンを開いたときにそう決めた。

『今日は臨時休業にしよう』と。


 というのもアスファルトを割らんばかりの大雨と川のようになった地面を見れば、誰でもそう思うのではないだろうか。

 だが会社のある人たちは出勤しているようで、現に連藤も出社をしたようだ。

 三井が送り迎えをしてくれる、とのことなので足に関しては問題ないが、こんな日まで仕事に行かなければならないのも会社員の性なのだろう。

 莉子は店舗に下り、自分用にコーヒーを淹れ始めた。

 なぜ下に降りたかというと、壁一面の窓から外を眺めたいからだ。

 ザラザラと地面を叩く音と、浮き上がった水たまり、白くぼやけた景色───

 これだけ激しい音がすると思い出がつながることはなく、ただ日頃の嫌なことをざあざあと洗い流してくれる気がする。


「しっかし、酷いな」


 莉子はつぶやきながらコーヒーをすすった。

 やっぱりネルで淹れるコーヒーは美味しいと思い、商品にしようか考えてみるが、雨の音が邪魔してか考えがうまくまとまらない。

 携帯からは『非常に強い雨が接近中』と流れてくるし、川に近いここだと色々思うこともある。

 避難勧告はまだでていないので、貴重品だけリュックに詰めておこうか。

 莉子はコーヒーを飲みきってから立ち上がった。


 適当なリュックを手に取ると、通帳、印鑑などの貴重品を先に詰め込んでみるが、他に何が必要なのだろう。

 こういうときのグーグル先生である。


 避難勧告 持ち物 でググるとあっという間に出てくるではないか。

 まず先に詰めた貴重品は濡れる可能性があるのでジップロックに詰めておくといいことと、次に保存食と水。さらにラジオや衣類関係を詰め込むといいらしい。


 まずはじめに貴重品をジップロックに詰めたあと、500mlのペットボトルを2本と乾パン缶詰を2個。あとは使い捨て歯ブラシ、ウエットテッシュ、トレットペーパー1個、体を拭くシートを1つ、マスクに常備薬(鎮痛剤、風邪薬、消毒液、バンドエイド)と、タオル、下着類、あと寝袋も必要だ。最近の寝袋は小さくてとても軽い。

 莉子は濡らしたらまずいものをナイロン袋につつみながらリュックに詰めていくが、リュックがはち切れそうだ。ここに書いてあるラジオとかは持っていないので、携帯の充電器と携帯バッテリーを準備し、ひとまず安心かな、というところで携帯が鳴った。


「あ、はい」


 携帯に出た名前は連藤である。


『莉子さん、大丈夫か?』


「ええ、外にも出てないので」


『勧告は出ていないが、そこは河川敷の側になる。

 今から迎えに行くから俺の部屋に泊まったらいい』


『おい、莉子、今日と明日休みだから連藤の部屋でワイン飲もうぜ!』


 三井の声もする。


『そういうわけだから、すぐに到着するが荷物をある程度まとめておいてほしい』


「わかりましたー」


 確かに準備は万端なのだが、有無も言わさず決定事項とは困ったものだ。

 

 だが安心してほしい。

 このカフェが流されても、ちゃんと水害保険に入っているので問題はないのだ!


 しかし自分が流されたら意味がない。

 だいたい台風の時はコロッケというのが定番である。

 だけど、ワインとコロッケかぁ…


 ───クリームコロッケなら合うハズ。


 ぴったりピースがハマったところで、白ワインをセラーから取り出したとき、大きな水飛沫が上がった。三井と連藤が到着したようだ。連藤に連絡を入れ、カフェの入り口前にぴったりとつけてもらうと、素早く飛び出し後部座席へ転がり込んだ。


 が、もうびっしょりである。


「莉子、早いな準備」


 再び走り出した車だが道路が冠水ぎみなのか高い水しぶきがあがり、まるで水上を走っているかのようだ。


「ああ、氾濫してもおかしくないから荷物まとめてたんだ」


「さすが莉子さんだな。貴重品などは問題ないな」


「うん、大丈夫」


「で、今晩何にするんだ?

 右手にワイン持ってるしな」


「運転席からよく見えるね……

 今日はクリームコロッケにしようかと思って」


「ああ、たまにはいいな」


「でしょ?

 台風の日はコロッケって決まってるから」


 莉子は言うが、2人はピンと来ていないようだ。

 それでもなんと言おうと、台風の日はコロッケなのである!


「さ、家に着いたらクリームコロッケの準備しますね」


 フロントガラスには激しい雨粒が落ち続け、前も見づらい状況であるが、この車内の3人は終始にこやかだ。

 熱々のクリームコロッケとワインの調和を想像しながら、激しい嵐の中を颯爽と進んで行く。


 豪雨の日こそ、食事を楽しむのことが大事な気がした莉子だった。

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