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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第2章 café「R」〜カフェから巡る四季〜

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《第75話》今日の夕飯は?

 カーテンを開けて見えたアスファルトはしっかりと湿り、所々に水溜まりがあったほどだが、開店時間を迎える頃には空は綺麗に晴れ、薄まった青空が広がっていた。

 この空を見るたび、秋が一歩一歩、近づいてきていると感じずにはいられない。

 日差しの雰囲気は秋のようだが、相変わらず強い熱気だ。

 これが残暑というものなのだろうが、空気の色味と日差しの熱のギャップが激しい差があるように感じてならない。

 そう思うのは三井も同じようで、


「いやぁ、今日はヤバかった。なんか詐欺みたいな天気だよな」


 真っ赤な夕陽が滲み、街灯が灯り始めた頃、カウンターに腰をかけた途端にそう切り出してくる。


「晴れではあるのでね、すんごい詐欺ではないけど、暑さは詐欺だね」


 莉子はそう答えながらグラスに水を入れて差し出した。

 三井はそれを飲みきると、


「今日はビールからいくわ」


「わかったよ」


 莉子は凍ったグラスをコースターに乗せ、滑らすと瓶のビールを隣においた。栓は抜かれ、その口にはライムが刺さっている。

 いつもの三井ならそのまま瓶で飲むのだが、今日は暑いだけあってかキンキンに冷えたビールが飲みたいようで、グラスにうまく泡を立てながら注ぐと、溶け始めたグラスに慌てて口をつけ、一気に飲み干した。


「莉子、もう一本」


「はいはい」


 同じように渡すと、それもグラスに注ぎ、今度はゆっくりと味わっていく。


「三井さん一人でなんて珍しいね」


 お通しを出しながら言うが、


「今日の夕飯、トンテキなんだろ?

 それ、食いたくて」


「……は…?」


「は? じゃねぇよ。連藤が言ってたんだよ、トンテキだって」


「それ、あんたに関係なくない……?」


「聞いたら食いたくなったんだから仕方がないだろ?

 あと1時間もしないで連藤も上ってくるから、俺の分もよろしく」


 さも当たり前のように言われたが、これはなんという仕打ちだろうか。

 確かに肉の余りが出たからそうしようと思い、ワインと合わせても美味しいかと思ってのメニューチョイスではあるのだが、まさかそこに三井が割り込んでくるとは莉子自身も想定していなかった。

 わけではない!

 何かしらの割り込みは想定済みだ。

 だが話を聞いての割り込みになるのは想定していなかった。たまたま来店をしてメニューを頼むことがあるだろうかとは予想していたが、話を聞いたから連藤よりも早く来て食べさせろという(一応、連藤が来たら出すことになるが)横柄さはどこの精神力から出てくるのだろう。

 莉子は彼のメンタルを心配しながら豚肉の準備に取り掛かった。

 厚い豚のトンカツ用のお肉に切りこみを入れていく。焼き上がりは足の指のようなそんなイメージだ。肉の筋を切り、肉が丸まるのを防ぐのである。それに塩胡椒をしておく。

 他のお客様のオーダーをこなしているうちに連藤も来店した。莉子は三井と同じように連藤にビールを出してやり、莉子は再び厨房へと潜る。

 下味をつけた豚肉に薄く小麦粉をまぶすと、フライパンを熱し、こんがりと焼いていく。

 その間にトンテキ用のソース作りだ。少し甘めが好みなので、砂糖は小さじ2、酒大さじ1、みりん大さじ1、酢大さじ1、醤油大さじ1と半分、ニンニクすりおろしと生姜のすりおろしを入れて混ぜておく。

 さらに皿に千切りキャベツにポテトサラダを添え、プチトマトを乗せた。

 8割豚肉が焼きあがったところで余分な脂をふき取ると、さきほど作っておいたタレを注ぎ、適度に煮詰め、仕上げに粗挽き胡椒とごま油を少々まわしかけたら完成だ。


 莉子は木のトレイに出来上がったトンテキ、なめこの味噌汁、白飯と漬物を配置すると、トレイから立ち上る香ばしいごまの風味が鼻先をかする。食欲をそそるいい匂いだ。


「はい、お待ちどうさま」


 連藤、三井、とトレイを運ぶと、二人ともに目が輝いたのがわかる。


「今日はトンテキと聞いていたから、その口になっていたんだ。

 さっそく食べてもいいだろうか?」


「どうぞ、召し上がれ」


「「いただきます」」


 二人の声が重なり、箸を掴むと、二人同時に肉にかぶりついた。そしてビールを飲み込む。

 二人の喉から「はぁ〜」という素敵なため息が漏れ、それは間違いなく料理とビールがマッチしたのだろう。


「今日はワインでもいいかと思っていたが、やっぱりビールもあなどれないな」


「だろ? やっぱ、こういう豪快な料理にはビールよっ」


 二人は声をはずませ会話に花を咲かせながら、料理のように豪快に食べていく。


「ご飯少なめによそったから、足りなかったら言ってね」


「莉子さん、ありがとう。定食タイプの夕食もなかなかいいものだな」


「お口にあったなら良かった」


 追加のビールを出したとき、


「莉子は和食も作れるんだな」



 ───三井から禁句が出た。



 莉子は青筋を立てながら、


「明日の夜、ここへ来てください。

 ……うまい出汁のきいた和食、食べさせてあげますよ…」



 明日の夜、一体、どんな和食を食べさせるのか!?

 次回、「出汁が命」

 乞うご期待!

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