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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第2章 café「R」〜カフェから巡る四季〜

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《第65話》探偵はカフェで打ち上げをする

 今日の最初の一杯は、ビールである。

 ネクタイを緩め、ベスト姿でビールを飲み込む連藤を莉子はじっと見つめ、小さくため息をついた。


 黄金色の液体が、これほど男らしさを強調してくるなんて……!


 連藤が直接ジョッキに口をつけ、ときおり眉をひそめてビールを飲み込む姿は、とても新鮮だ。

 いつものグラスの首を華麗に掴み、ワインを飲んでる姿とはまるで違う。

 キメの細かい泡が口の端につくとおもむろに親指で拭うその姿、それすらも激しく色気があり、なんでもっと早くにビール樽を導入しなかったのだろうと莉子は悔しくなる。

 見惚れる莉子の前に突き出されたジョッキをもぎ取ると、慣れた手つきでビールを再び注ぎ、三井に渡してやる。


「ビールもいいもんだなぁ」


 しみじみ言う三井に連藤も大きく頷いた。


「この爽快感はビールしか味わえないな」


「今日だけですけどね」


 本日貸切。そして立役者である木下と九重の希望により、今日は生ビールでの打ち上げなのだ。

 冷えたビールを足しながら、莉子も一気にジョッキを煽った。


「あぁ、のどごしがたまらん」


 誰にも聞こえないように言ったつもりだったが、三井は聞こえていたようだ。


「おい、おっさん、俺にビール」


「飲み過ぎじゃない?」

 莉子は言いながら注いでやるが、


「ビールは飲んでなんぼだろ」


 言っている意味が微妙にわかるのが酒飲みである証拠なのだろうか……

 莉子は首をひねりつつジョッキを手渡したとき、木下がビールを片手に九重の肩を叩いた。


「莉子さん、九重くんが本当によくやったので褒めてあげてください」


「九重くん、本当にありがとう」莉子がぺこりと頭をさげると、


「そんな大したことしてないですよ。代理のパソコンを見ただけです」


 連藤の動きがピタリと止まるが、


「あ、プログラムの部分だけなので、個人的な内容は一切見てないですから安心してください」


「九重は油断ならないからな」


 連藤が呟くが、彼はお構いなしのようだ。


「でもあんなプログラムが組み込まれてるなんて誰も思いませんよ」


 九重は苦い顔をしながら言うが、


「そのプログラムにはどうやって気づいたの?」


 莉子はパソコンがそれほど詳しくない。そのためどうのようにして気づいたのかが気になっていたのだ。


「それは私です」木下が手をあげた。


「簡単でした。連藤代理が会議で席を空けたときに、メンテと称して別部署のプログラマーが代理のデスクを使ったんです」


「でもメンテはいつも入るだろ?」三井が突っ込むと、


「確かにその人もメンテできたことはあったんですが、来る間隔が短かったのと、USBを差し込んでたんですよ」それも当たり前だろと今度は連藤がかぶせると、


「視線の動き方がおかしかったので」


「それで僕が駆り出されたんです。

 同じチームでもあるので、パソコンをいじってもおかしくないって理由で。

 僕が心優しいプログラマーだからよかったですが、他の人に頼んでいたら、代理の弱点にして脅してますよ?」


 彼が言うには最新のプログラムインストールを確認し、すぐにメールの送受信記録、通話記録を照らし合わせ、サーバー内で別な場所へと飛ばされていることを確認し、どのエリアに飛んでいるかを絞り、実行者をあぶり出す作業に入ったという。


「状況的に高城チーフの動きとも一致していたし、黒幕と睨んで動いたので今回早期解決に向かいました」


 木下はビールを飲み干し言うと、もう一杯とジョッキを突き出した。

 莉子はすかさず注ぎ、木下の前へ滑らせ置くと、木下は待ってましたとばかりに口をつけた。


「しっかし連藤、お前モテ期きてるなぁ」三井が茶化すように言うが、


「どうしてだろうな」心底不機嫌な口調で声をこぼす。


「彼女できると余裕がでて、モテるって言いますよねぇ」九重が付け足した。


「でも、木下さん、よく他部署の遊び相手とか見つけましたね?」九重が尋ねると、


「あぁ、これでも誰が誰のことが好きとか、よくわかるんだ。逆もよくわかるけど。

 それで山張ったら、当たったってだけ。

 バーのやつは、たまたま私の行きつけで高城チーフが男引っ掛けてただけだけど」


「世間は狭いからね」


 莉子はしみじみとビールを飲みながら言ったとき、チン! と莉子を呼ぶ音がする。


「焼きあがった!」


 莉子は駆け足で厨房へと向かい、鍋つかみのミトンをはめて持って来たのは、スペアリブだ。


「マーマレードで漬け込んだので、甘しょっぱい味がビールに合いますよぉ」


 今日がビール祭りになると見込んでの仕込みだ。

 マーマレードと醤油にニンニクとみりんを少々加えたものにスペアリブを漬け込んだだけなのだが、これがまた肉がほろほろとして美味しいのである。


「あとはベイクドポテトもあるので、一緒にどうぞ」


 大皿に盛り付けてはあるが、莉子がよそいわけてやり、皆それぞれに口をつけていく。


「莉子さん、本当に美味しいです。

 彼女と来るのが楽しみになりました」


 九重は目を細め、頬が落ちるのではというほどとろけそうな表情を浮かべ噛み締めている。

 木下もお肉料理ははじめてではないだろうか。

 一瞬目をみはると、再びかぶりつき、すぐに2本目へと手を伸ばした。

 三井と連藤は慣れたもので、一口噛み締め、ビールを飲み込み、再びかぶりついて、ビールを飲んでいる。

 これが、年齢というものなのだろうか。

 落ち着き方がまるで違う。

 莉子もひとつもらい、頬張ってみる。今日の出来は90点はつけたいところだ。


「他にもサラダとかもあるけど、食べる?」莉子はおしぼりを新たに渡しながらいうが、


「お肉とお芋と枝豆で十分ビールが進みますよ」


 木下が指を舐めながら言うが、


「シメはあるのか?」


 連藤がそう言うので、


「今日はあっさり醤油ラーメンを準備してます。生麺のタレは即席。出汁は鶏ガラです」


 莉子が言うと、三井と連藤は眉間に手を当て悩み始める。

 次のスペアリブに行こうかどうか悩んでいるのだ。


「食べたらいいじゃないですか」


 九重は簡単に言うが、2人はそうはいかないようだ。若さが憎くなる瞬間だ。


「ま、明日は休みなんですし、ゆっくりしてってください」


 莉子は言いながら、キャベツの塩タレ和えを小鉢で出した。箸休めにしてもらうためだ。


「莉子、ビールも全然いけるんじゃねぇのか?」


「定番になってもいいな」


 2人は満足げに言うが、


「ビールは今日だけ、です。

 こういった貸切とかではない限り、絶対に置きませんからね」


 言い切り、ビールを飲み干すと、自分用に再び注ぎ足した。


「莉子さんって、意外と融通きかないんですねぇ」


 莉子はそう言う九重の鼻を突き、豚の鼻にすると、


「九重くん、勘違いしないで。

 ここのカフェはあくまでコーヒーを飲むところだから。

 ワインは趣味で、ディナーも予約制。

 なので、ビールは置きません」


 何度も頷いた九重に満足したのか、莉子は指を離してやる。


 すると連藤が改めてグラスを掲げた。


「本当にいいチーム、いいメンバーに恵まれたと思う。

 これからもよろしく頼む。

 莉子さんも、俺たちのチームにいてくれて、本当にありがとう」


 莉子は歯を見せ笑顔を浮かばせると、カチリと連藤のグラスを鳴らした。

 それに習って三井、木下、九重とグラスを鳴らしていく。


「莉子さん、ただいまー」

 そう言って現れたのは巧と瑞樹だ。


「おれたちにもビールちょうだい!」


 改めて全員で乾杯をするが、今日は若いメンバーが多い。

 明るく騒ぐ彼らを眺めながら、三井、連藤、莉子の3人は、ビールからワインに切り替え、のんびりとグラスを傾けていく。

 だが、それを放って置いてくれないのが若いメンバーである。


「そこ3人、何、まったりしてるの?

 人生の先輩なんだから、九重が彼女のことで悩んでるんだからアドバイス頂戴よ」


 瑞樹が三井の腕を掴み、引っ張っていった。


「連藤さんも人生の先輩なんですから、聞いて来たら?」


 莉子が言うが、


「俺は今まで会えなかった莉子さんとの時間を埋めたい」


 隣に腰掛けている莉子の手を連藤が握る。


「…し、しょうがないですね……」


 小声になった莉子の手が熱くなる。

 それが可愛らしく、連藤は莉子の手を自分の腿にのせて、ゆっくり撫でながらグラスに口をつけた。

 莉子の手は離れたがっていたが、連藤はしっかりと掴みそこから離さない。

 そのうち莉子は諦めたのか、ズボンの布をつまんで、じっとしている。


「……やはり、調教って大事なんだな」


 耳元で言われた言葉に思わず連藤に振り返るが、連藤は涼しい顔だ。

 莉子はただ顔を真っ赤にし、ワインを飲み干した。

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