《第62話》探偵はカフェにいる 12:47現在
今回、連載回になります。
三井が来店中。
「莉子、今日、パスタランチな」
そう言いながらカウンターに腰を下ろしたのは三井である。
「ランチの時間に来るなんて珍しいね」
パスタランチとなったため、サラダとスープの準備にかかるが、莉子の顔色があまり良くない。
「莉子、どうした? 元気ないな」
「……三井さん、実は……」
カラトリー一式を揃え、水とサラダを出しながら彼女が話したことは、
「は? 連藤が、4日も顔を出してない?」
前代未聞の事態だ。
「行けなくなることがあれば、今まで連絡をくれてたんだけど、それも全くなくて……
私、嫌われたのかな……」
「莉子、はやまるなよ。
こういうときは、アイツに頼もうぜ」
水を一口含み、携帯を取り出すと、おもむろに番号を操作し通話を押した。
すぐに相手につながったようで、
「お、ああ、お疲れ。お前出てこれるだろ? カフェまで来い」
安心しろと言わんばかりの笑顔を向けて「パスタ、食っちまうわ」そういう三井の声に押され、莉子も気を取り直してパスタを準備し始めた。
今日はチーズ入りクリームパスタだ。エビやアサリも入り、魚介のダシがでた美味しいクリームである。
フェットチーネパスタによくからんで、大変美味しい出来であった。
その食後のコーヒーをすすったところで現れたのは、木下だ。
すぐさま三井の横に腰をかけると、
「莉子さんのお願いなら、何でもしますよ、私」
前のめりな木下を三井が抑えると、
「連藤んとこのプロジェクト、お前、直に入ってんだろ?」
「代理となんかあったんですか?」
木下は嬉しそうな悔しそうな微妙な表情を浮かべる。
「その…連絡がつかないんだ」
莉子が寂しそうに伝えると、木下も泣きそうな顔になってしまう。莉子の悲しい顔は見たくないのだ。そんな曇った顔にさせた代理が許せないと顔を上げた時、
「なわけだから、お前、何か知らねぇか?」三井の声に木下は目を光らせた。
「任せてください。
代理の邪魔をしているのは、おおよそ目星が付いています。
今夜、またここでお会いしましょう。
莉子さんが望むものを一式揃えてきます」
言い切ると、コーヒーも飲まずに席を立った。
「じゃ、俺も今晩ここに来れるように準備すっか」
ジャケットをひっつかんで、三井もまた出て行く。
莉子は二人の背中を目で追いながら、二人の力強さに気持ちが押され、少し前向きになった気がした。
今日も一度だけ、メールを入れておこう。
『こんにちは。体調とか崩してないですか? 何かあったら連絡くださいね』
これ以上に何が言えるだろう。
いつも連藤が莉子に対して送っている言葉だ。
これを返すしか今はできない。
莉子はそれをそのまま送信し、余計に携帯を眺めないように電源を落とした。
続きます。





