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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第2章 café「R」〜カフェから巡る四季〜

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《第53話》心を入れ替えて

木下さん、来店

 今日は灰色の雲がかかり、今にも雨粒が落ちそうだが、今の所持ちこたえているようだ。

 そんな日に現れたのは、あの木下である。


「莉子さん、こんにちは」


「はい、いらっしゃい。

 今日は中に入ってきたんだ」


「もう言わないでください」


 顔を赤くも青くもすることから、大変反省していることがわかる。

 莉子がよく立つ場所ではなく、少し離れたカウンターに彼女は腰を下ろした。


「ランチ、なんにします?」莉子が水を運び、おしぼりを渡すと、


「ビーフシチューいただきたいです」はにかんだ笑顔で答えた。


「では、飲み物は?」


「食後にコーヒーで」


 どこかで聞いたことのある流れだが、気にしないでおこう。

 すぐにサラダを用意し、次にビーフシチューとパン。そして食事の流れを見ながらコーヒーの準備を整えておく。今日はこんな天気だからか客入りがあまりよくない。

 食後のコーヒーは、豆から入れてあげようと思う。


 ひとり、ふたりと、店を後にしていく。

 

 まだ路面が乾いているので雨は降っていないのだろう。

 ちらりと見ると、木下の皿がきれいにパンで拭われていた。


「今、コーヒーいれるね」


 木下だけとなった店内にコーヒーの香りが漂い始める。

 木下は挽かれた豆の香りを嗅いで驚いていた。コーヒーは苦く、渋いものと思っていた。なのにここの挽きたての豆の香りは、甘く黒蜜のようだ。


「コーヒーなのに、甘い匂いがする」


 思わず呟いた木下の声に莉子は思わず顔をほころばせた。


「この豆ね、乾燥のさせ方が特殊なんだって。だから甘い匂いするみたい。

 いい匂いでしょ?」


 そう話している間にコーヒーが入れ終わり、カップが木下の前へと置かれた。


「はい、食後のコーヒーです。ミルクは使う?」


「はい、砂糖もください」


 カップの横にミルクと砂糖を置くと、莉子も一服と、カウンター内にある椅子を引っ張り出し、そこに腰掛けコーヒーをすすり始めた。


「うちのビーフシチュー、初めてでしょ? どうでした?」


 コーヒーカップを手の中で温めるように持ち、莉子は木下を見上げた。

 カウンターの中に入るため少し高い位置にいるのだが、座ってしまうと少し低いのだ。


「すっごく美味しかったです。

 連藤先輩に、絶対食べろって言われて今日、来たんです」


「そっか」返事をしながら笑っている。絶対食べろとはなんという脅迫だろう。


「でも美味しかったならよかった」


 莉子は安心したように、息をゆっくりと吐き出していく。それはコーヒーの湯気を吐き出すような、そんな仕草だ。

 もし彼女の口から吐き出された息の形が見えるのなら、ほんわかとした丸い物体になるだろう。

 だがこの仕草は端から見ると金魚のモノマネにも見えてくる。


「莉子さん、」


 不意の声掛けに驚きながら、見やると、


「私、莉子さんが好きです」


「はい」


「でも、莉子さんは私のこと、眼中ないです。

 だから、連藤先輩の次の友達になりたいんです。

 それで、莉子さんの嫌いなことを教えてもらいたくて」


「頭いいね、あなた」莉子は感心したように頷く。

 好きなことはわかりやすく、重なりやすいが、嫌いなものは個人で違うためここを抑えることが人付き合いでもポイントになるもの。


「しかし嫌いなことか……

 人が傷つくことをするのは絶対にダメ。

 あとは、人参かなぁ」


「……人参?」


「うん、煮込んだ人参が大嫌いで。

 だけど連藤さんさ、いっつも人参入れるの。私が嫌いなの知ってて入れるの。

 すごく嫌っ」


 眉間にしわを寄せてしかめっ面をするほどに嫌らしい。

 それを見て木下も噴出すほどだ。


「木下さんは、何が嫌いなの?」


「私は、私の話を聞いてくれない人かな……」


「ちょっと深いね……」


 二人でコーヒーの啜る音が響く。


「したら私はなるだけ木下さんの話は聞くようにします。

 木下さんは?」


「人参に気をつけるのと、傷つけることはしません」


「よし!」


 莉子は小さくガトーショコラを切り取ると、


「食後にデザートも欲しくない?」


 自分用と木下用に皿に盛り付け、座る木下のところへ置いた。


「なんで私を避けることはしないんですか?」


「別に女の人が好きなだけでしょ?

 それだけだもん」


「やっぱり、莉子さんのこと、好きだなぁ……

 ね、莉子さん、一度試してみません?

 私とべ」


「それ以上言うなら、出禁にするぞ」


「……すみませんでした」


「ケーキ食べたら、出てけよ」


 目を細めて眉をひそめる顔つきは、まさしく、憤怒である。


「そんな莉子さんも、好きっ」


 顔半分が口ではないかと言うほどの笑顔を浮かべ、彼女は言った。


「そりゃ、どーも」莉子はケーキを頬張り、ため息と一緒に飲み込んだ。

コーヒーしかでてこなくてごめんなさい

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