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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第2章 café「R」〜カフェから巡る四季〜

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《第39話》脂は流せばいいのです

今日は巧と瑞樹が来店中。

 今日は曇り空。

 一度も青空が出ることはなかった。

 灰色の厚い雲が覆ったまま、じっとそこに居座り続けている。

 おかげで気温もそれほど上がらず、いつもはシャツにジーンズの莉子だが、カーディガンなんかを羽織らないといけなくなる。

 客待ちのときはいいが、人が入り始めると今度これがまた暑くなるという悪循環。

 それでもエアコンを入れなくて済むだけましなのかもしれない。


「オーナー、バドちょうだい!」


 そう入ってきたのは最近通ってくれているサラリーマンのお兄さん二人組である。


「いらっしゃい。今持ってくね」


 慣れた手つきで栓を抜き、凍ったグラスを準備すると、お通しのポテトサラダを小鉢に乗せて、テーブルへと運んでいく。

 お通しは曜日で決めている。

 下記の通りだ。


 月曜日はプリッツェル。

 火曜日は定休日。

 水曜日はポテトチップス。

 木曜日はキノコのガーリック炒め。

 金曜日はポップコーン

 土曜日はポテトサラダ。

 日曜日はカプレーゼ。


 一番お客の入る金曜日の夜は、掴んで出せるポップコーン!

 どこのお菓子だと思われるかもしれないが、ちゃんと厳選したポップコーンを安く仕入れて提供しているのである。味も塩だけでなく、バター塩や明太マヨネーズなど、お酒のお供になるものを選んでいるのだから、文句は言わないでほしい。

 

 そんな今日はポテトサラダの日なので、土曜日となる。


 現在、莉子の中で悩みがあるのだ。


 夜のお料理で一品追加できないか、と。


 ただ、これ以上手広くやりたくはないし、飽くまでドリンクと軽いものだけを出していきたいのはあるのだが、実は焼き鳥が意外に出るのである。

 ワインにも合うものなので、余計なのかもしれないが。

 もう一品焼き物があれば、お客様にも格好がつくかなぁと思い始めているところなのだ。


「オーナー、バド2つ。

 あと、焼き鳥と枝豆、2つずつちょうだい」


 ビールを外せばいいのだろうか……


 オーダーを受けつつも、答えが出ない。


「ただいまー」


 そう入って来たのは、巧と瑞樹だ。


「はい、おかえり。

 何にする?」


 二人はカウンターを陣取るとおもむろに上着を脱ぎ始め、


「とりあえず、カヴァちょうだい」巧が笑顔でそう言った。


 カヴァはスペインのスパークリングワインである。シャンパンと同じ作り方で作られているため、手頃な価格で美味しいシャンパンが飲みたい気分の時はもってこいだ。

 泡はシルキーというよりは、強めの炭酸のものが多い。

 なので暑い日の最初の一杯には、喉越し含め、楽しめるワインの一つになる。

 彼ら二人にとっては定番のドリンクとなったようだ。


「莉子さんも一緒に飲もう」


 瑞樹の優しい申し出にグラスを3つ取り出した。

 布を当てて、コルクをひねりあげると、鈍い音と一緒にコルクが外れ、そして炭酸の踊る音が溢れてくる。


「スパークリングワインのこの瞬間が私好きなんだよね〜」


 そう言いながら3つのグラスに注いぎ終えると、


「はい、お疲れ様」


 莉子の声に合わせて二人はグラスを鳴らした。

 二人にもポテトサラダを出し、焼き鳥が出来上がったので枝豆と一緒に運んでいく。

 それを二人は視線で追いながら戻ってきた莉子に、


「もう少しあっさりしたのってないの?」


 と、言われましても。


 というところなのだ……

 あっさりしたのというと、枝豆ぐらいなのである。


 莉子は無言で頷き、一旦、奥の厨房へと潜っていく。


 そこで発見したのは今日のランチの残りの手羽先である。

 今日はそれを唐揚げ風にして出したのだ。

 酒、生姜、ニンニク、塩胡椒で下味をつけた手羽先を運んできた莉子だが、


「今日のランチでこれ揚げたんだけど、揚げたのじゃ、あっさりじゃないよね」


「うん、そんな感じじゃないんだよねー」瑞樹はさらりと言ってのける。


「したら焼いてみるか」


 莉子はつぶやき、フライパンを火にかけた。


「ねぇ莉子さん、それ、カヴァに合う?

 白ワインの方がいいんじゃない?」


 心配そうな瑞樹に莉子は驚いた顔を見せた。


「カヴァは万能なんですよ。

 脂さえ流してくれるスッキリさっぱりなドリンクは、スパークリングワインしかないでしょう。

 この鶏皮もパリパリに焼くつもりではいますが、皮と肉の間の脂は落ちきれません。

 それをカヴァはスッキリ後味にしてくれると、私は予想するのです」


 予想かよ!

 二人に突っ込まれるがお構いなしに焼いていく。


 まずは皮目からじっくりと5分ほど。

 裏返して3分ぐらい。

 さらに皮目にして、オーブンに5分入れる。

 

 するとどうだろう、見事な皮のパリパリ具合と肉のジューシーな弾力!


「はい、焼きたてどうぞぉ」


 莉子自身にも1本残し、二人には残りを与えてみる。

 どうだろう。

 若い彼らには、この味はどう映る───


 莉子は一口頬張った。すぐに肉汁が滲みでて、脂の甘さと漬け込んだ塩の味が舌へと流れてくる。

 さらに肉を噛み締めると、そこからも味が湧き出てくるようだ。

 鶏肉の淡白な味でありながらも、旨味が感じられるのは塩の効果があるのかもしれない。

 また鶏肉は臭みがあるものが多い。

 だが日本酒と生姜、ニンニクのおかげでその臭みも消え、繊維も柔らかくなっているようで、肉が骨からほぐれていく。焼き加減も問題ない。

 小さく頷き、カヴァを飲み込んだ時、さらに頷いた。

 やはりカヴァは強い。

 口の中一杯に広がっていた脂の膜がしっかりと流されていく。

 肉の旨味がそのままに、脂だけが流れていくよう───


 莉子はグラスを揺らしながら、手羽先はそれほど高価な食材ではないし、昼夜回せる食材であるなら、この料理は夜に持ってきてもいいかもしれない。考えをまとめあげ、ふと顔を上げた。


 そこにいたのは、貪り喰う二人の姿だった───


「莉子さん、めっちゃうま」


 巧は指を舐めつつ、次の手羽先へと手を伸ばす。


「これ、カヴァにも合うけど、何にでも合うんじゃない?

 あっさりだけど、この皮のパリパリ感がめちゃいい!」


 瑞樹は嬉しそうに骨をしゃぶっている。


「したらこれ、夜の定番にするわ」


 よーし! と声を上げる二人だが、思惑はわかっている。


「今日はおかわりないから」


 莉子が言い切ると、まるでお預けをくらった犬のように二人がしぼんでいく。


「だって手羽先がないもん。

 来週には用意できてるから、楽しみにしてて」


 スパークリングワインを注ぎ足してやるが、二人の食べる速度は先ほどの3倍は遅くなっただろうか。

 どうやら二人とも、好きな料理は最後までとっておきたいタイプのようだ。

鶏肉って本当に万能ですよね。

豚肉より頻度があります、我が家。


安いからね!!!

鶏ムネ大好き!!!

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