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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第2章 café「R」〜カフェから巡る四季〜

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《第28話》厨二病発症

莉子と連藤さんのお話。

だけどいつもとシチュエーションが違う!

 踏み込んだ先は地獄だった───


 つま先の土は黒く濁り、激しい雨に削られ出来た小さく細い川は、赤黒く、死屍累々を繋いでいく。

 視界の端まで肢体が転がり、溢れた臓物がここが爆撃されたのだと報告してくる。


「リコ、魔力はどの程度残っている」


 黒いゴーグルをかけ、遠くを見据えたまま彼は言った。


「ほどほどはありますが……

 まさか、レンドウ少佐、前線へ赴くのでありますか?」


 後方の状況を確認していた彼女だが、少佐のほうへ振り返った。


「当たり前だ。

 陽動作戦に駆り出された挙句、ここが潰されてるんじゃ意味がない。

 前線を押し戻す」


 黒い軍服にバッジが数多に胸にはめられ、鈍く濡れている。

 それは数々の功績を讃える輝きであり、彼の存在理由でもある。


「しかし少佐、我々の部隊も私たち以外残ってはないではありませんか」


 どこに押せる勝機が残ってるんだか。

 彼女はぼやき、足元に転がる腕を蹴った。

 腕は意外と遠くまで飛んでいく。

 なかなかいい具合に蹴り上げたらしい。

 つま先に濡れた血と肉を土になすりつけながら、


「で、何を呼ぶんです?」


「少しは頭を使ったらどうだ」


 彼はため息を大きく吐き出した。

 息が白く濁る。


 雨は止むことがない。

 黒い灰色の雲が厚く深く空に張り巡らされている。


「今日は冷えるな」


 戦略と全く関係のないことを彼は言いだす。

 今度は彼女が息を吐いた。


「呼ぶのぐらい教えてくれてもいいと思いますが、

 少佐こそ、魔力、残ってるんですか?」


「当たり前だろ。

 俺を誰だと思ってる」



 視力を引き換えに、悪魔と契約した男────



 ポケットから懐中時計を取り出すと、彼は見えない目で時間を確認した。


「──では、ここで悪魔とランチとしようじゃないか」


 つり上がった唇が赤く滲む。

 薄い唇が切れ、血がにじんでいるのだ。

 色白の肌に妖艶に彩っている。

 白く剥き出した歯は尖り、まるで獣ようである。


「リコ、遅れるなよ」


 少佐が呟くと、腰ベルトに差し込まれたナイフを取り出した。

 長さは手のひらほどだ。

 幾何学文字が描かれたナイフをおもむろに左手に突きさす。

 糸のような血が剣先を伝って落ちていくが、地面に落ちることなく、地面を滑るように、生き物のように這いながら、魔法円を創り上げていく。

 これは術者を悪魔から守る結界となるのだ。

 リコもそれに続き、自らの手首を縦に割いた。

 赤い肉が割かれ、白い筋肉も浮いてくる。

 そのままナイフで、地面と腕をつなげる。


「リコ、」


「いけます」


 少佐が天を仰いだ。


「偉大なるルシファー皇帝よ、主の御名によりて命ずる。

 公爵ハウレスを主の側に、

 侯爵サブノックを敵の側に、遣わすべしっ」


 少佐の魔法円が黄金に焼け始めるが詠唱はさらに続いた。

 リコの声も少佐に続き放たれる。


「「我は偉大なる力、以下の名において命ずる。

 エロイム、アリエル、ジェホヴァム、アクラ、タグラ、マトゥン、オアリオス、アルモアズィン、アリオス、メムブロト、ヴァリオス、ピトゥナ、マジョドス、サルフェ、ガボツァ、サラマンドレ、タボツ、ギングア、ジャンナ、エティツナムス、ザリアトナトミクスの名において!」」


 青い立て髪の馬が駆け抜けていく。

 そこにまたがるのはライオンの頭をした鋼鉄の鎧をまとう兵士である。

 さらに少佐の横には赤く燃える目が印象的な男が立っていた。

 黒いマントは鼻先まで覆い、マントの中から残忍なにおいが漂ってくる。


 少佐がライオン頭の兵士に命じた。


「侯爵サブノックよ、

 前線まで赴き、敵兵士の身体に蛆を這わせ、

 この土地を汚した者の痛みを与えよ!

 呻き嘆き、生きる地獄を味あわせよ。

 対価はこの土地の生き血と肉、また新たな敵の血肉を与える」


 あまり従順ではなさそうだが、こちらには赤い目の公爵ハウレスがいる。

 ハウレスは術者を守る力があるのだ。

 そう簡単には手出しはできない。


 サブノックが馬の腹を蹴ると、小さく嘶き、走り出す。

 空を駆ける姿はまさに疾風の如く、そして、青い炎のようだ。


「公爵ハウレスよ、

 ここに砦を築き、我が陣地とする。

 そして、この土地に沈んだ仲間の血を糧とし、

 敵の身体を塵に返せ!」


「御意」


 ハウレスの低い声が響いた。

 まるで地鳴りのような声だ。

 たった一言なのに腹の奥が冷えている。


 ハウレスは両手を地面にかざすと、瞬く間に砦を築き上げた。

 粉々に散らされたあの砦が、見事に戻ってきたのである。


 すぐにハウレスは目を見開き、地面を蹴りあげた。


 彼の足は豹の蹄である。


 踏みしめた地面は大きく窪み、はるか天井まで跳躍していく。

 何か呟くと遠くの場所から火柱が上がる。

 彼の力なのだろう。

 圧倒的な火力だ。


「悪魔はこう使わないとな」


 白くゆがんだ口元が、悪魔と同じだ───




 そう気付いた時、

 彼女は身震いし、身体を起こした────


「……さむっ」


 莉子はベッドの下にまるまった布団を取り上げ、自分の身体にかけ直す。


「なんか嫌な夢みたなぁ。

 ハリーポッターと戦争モノ、一気に見るんじゃなかった……

 なに、あれ、詠唱とか……

 まじ恥ずかしいーーー!!!」


 莉子はベッドの横にある棚から寝酒用のワインを取り出した。

 あのポートワインである。

 小さなグラスも一緒にしまわれているため、それも取り出し、注ぎいれた。


 一気にあおる。


 熱い味が喉を走っていく。


 一気に顔が熱くなっていく────



「よし、もっかい寝よ」


 彼女は大きく深呼吸した。

 鼻から抜けるポートワインの樽の香りが心地よい。



 軍服姿の連藤さんもカッコよかったなぁ……

 にやけながらも、再び視界が暗くなった。

ワイン少なめ、ファンタジー多めで書いてみました。

ちょっとストレス発散。

ご一読いただけた方、本当にありがとうございます。

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