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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第4章 café「R」〜料理覚書〜

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《第219話》シン・ステーキの焼き方

 つい先日、クリスマスがあったのもあり、店内は妙な忙しなさのなか、夜を迎えていた。

 そんな閉店間際に来店した連藤と三井は、いつものようにカウンターを陣取っている。

 珍しくスーパーの名前が入ったナイロン袋から、三井がなにか取り出した。


「莉子、これ、焼けるか?」


 そう言って三井から差し出されたのは、牛肉だ。


「赤みの牛肉ですね。しかも塊ですね……え? 今からこれ、食べるんですか?」


 パックに入った牛肉をまじまじと見つめる横で、連藤はワインを取り出している。


「たまたま営業の帰りにくじ引きをしたら当たってしまったんだ。それをアテに赤ワインを飲みたいんだが……」


 取り出した赤ワインは、スーパーに売っている安ワインだ。

 だが、それなりに吟味をしたようで、安旨ワインで知られるボトルになる。

 三井は牛肉を指差しながら、


「一応、和牛らしいんだが、そんなにサシもないし。俺じゃあ、上手く焼けないしな」


 三井はため息混じりにつぶやいた。

 最近、料理にハマっているらしく、先日ローストビーフを作ったといっていたのだが、これは焼きたいらしい。

 連藤も、頷きながら、


「400gもあるだろ? 食べるのは3人の方がいいと結論になった」

「でも、三井さん、星川さんとローストビーフにして食べればいいじゃないですか」

「あいつ、今、出張でいないのよ。そのまま実家に帰るだかで、年明けまで帰ってこねえの」

「なるほど」


 それならと、莉子は牛肉の処理にとりかかることにした。


「これ、結構焼き方楽ちんなんで、三井さん、覚えていったらいいですよ」


 少し前のめりな三井に見えるように、莉子は作業を進めていく。


「まず、スーパーの牛肉はドリップあるので、しっかりキッチンペーパーで拭き取ってくださいね。……で、一応和牛ですが、サシは少なめなので、気持ち強めの塩を振って、15分おきます」

「15分も!?」

「そんなにすぐ焼けないです、塊肉は」


 莉子は、口の開いていたスパークリングワインと、今日のランチで余ったポテトサラダを差し出した。

 これで待っていろ、という意思表示だ。

 二人に注いで渡すと、嬉しそうに乾杯し、ポテトサラダをつまみにしだす。


「今年もなんだかんだと忙しかったなぁ」

「だが、案件もまとまったし、それなりだろ。これで年を越せるよ」


 プチ忘年会が始まったのを横で聞きながら、莉子はさらに作業を進めていく。

 塩を振ったことでまた肉からドリップがでてくる。

 それを丁寧に拭き取って、次はフライパンの用意だ。


 テフロンのフライパンに少し多めの油を入れ、温まらないうちに肉を乗せる。

 そのとき、再度塩をかるく振った面を油にひたした。


「お、莉子、そんなに塩振っていいのかよ」

「一応和牛なので、塩は多めに。もっとサシが入ってたら、もっと強めに振っていいですよ」


 乗せた肉の上は、新たに塩が振られていない。

 その面にも塩を振り、中火で火にかけていく。


「ぜんぜん、弱火じゃねぇか」


 三井の言葉に莉子は笑った。


「だって、コールドスタートですからね。だんだんお肉を温めていくように焼いていきます」


 若干白くなった程度でひっくり返し、また白くなった程度でひっくり返す……を4面で行っていく。


「片面10秒であっためたら、もう片方も10秒っていうように、均等に火が入るようにやってくださいね」


 すぐに油跳ねが激しくなる。

 肉から水が出ているせいなのだが、三井の顔は渋い。


「こんなに跳ねるのか」

「しょうがないですね、この焼き方なら」


 ここから徐々に油の温度を上げていく。

 ここから揚げ焼きの工程に入る。


「この表面をメイラードさせるっていうんですかね。こんがりガリガリの表面になるのが、最終目標です」


 ある程度の焼き色がついた段階で、莉子はバットに網をのせると、そこに肉を取り出した。


「焼いた時間と同じ時間休ませます。焦がさないようにしてくださいね。今回は6分ぐらいですかねぇ」


 さらにアルミホイルをかけておく。


「軽くぎゅっと覆う感じで、6分置いておきます。で、このフライパンの油は捨てます。ソースも作れますが、今日はめんどうなんで、作りません」

「作れよ!」

「作りません。もう閉店時間ですので」


 莉子の意思は強い。

 冷蔵庫から取り出したのは、市販のステーキソースだ。

 そのソースを器に入れて、フライパンを洗いにいく。


「結構面倒だな」


 莉子は、その言葉を聞き逃さなかった。


「面倒ですが、まだ、楽チンな方なんでっ!」


 洗われたフライパンをきちんと拭いて、改めて少し多めの油をしいて、ここでは火をつける。


「今度は熱くしてから焼いていきます。焦がさないように、カリカリのいい感じの美味しい表面にしていきますよ」


 再び激しい油跳ねのなか、火を入れていく。


「弾力を見て、……まだ火が入ってないですね。跳ね返りが弱いので。ぷよぷよしてます。これがもっとコロンと丸くなるように焼いていきます」


 だいたい3分ぐらいだろうか。

 ころりとした可愛らしい肉の塊に変化していく。


「ここで、もう一度休ませます」

「何回休むんだよ、その肉」

「これがラストです。3分程度焼いたんで、同じ時間休ませます」


 その間に皿を温め、昼のあまりの葉野菜を添えておく。

 そこで3分のタイマーが鳴った。


「では、仕上げの焼きです」


 同じフライパンで、少し強めの火にし、焼き色をしっかりとつけていく。


「絶対焦がしちゃダメです。強めで、ささっと焼きますが、ガリっとした表面にしたいだけなので、揚げるイメージで」


 言いながら仕上げの火入れはあっという間だ。

 コロンとした見た目から、少し強そうなバリッとした肉の塊に変化する。


「これを切って、出しますが、先にソースね」


 器に入れておいたソースに、肉を休ませていたバットに落ちた肉汁を注いだ。

 それをぐるりと混ぜて、完成のようだ。


「肉の旨みがあるので、これでぜんぜん味変わりますよ」


 そして、莉子は塊肉に包丁を入れていく。

 切った断面は美しいピンク色だ。

 均等な色は、火入れも均等に入ったことを示している。


「なんか、ローストビーフみたいだな」

「近いと思います。でも、何時間も放置とかしないでいいので。少し手間はかかりますが、簡単で美味しいですよ」


 莉子は切った肉を皿に盛り付け、二人の間に差し出した。


「さ、冷めないうちにどうぞ」


 連藤は一連の焼き方をイメージしていたようで、一枚肉を皿に取ると、


「莉子さん、わさび、あるかな」

「ありますよ。いいですね、わさびも」


 連藤はわさびで一口、頬張った。

 三井は簡易ソースに肉を浸し、頬張る。


「……うまい。莉子さん、この焼き方もいいな」

「そうでしょ」

「なんだこれ? 皮ができてて、中の肉はやわらかいんだな……」

「サシがなくとも、和牛の強さですね。美味しいですよね」


 莉子は瞬く間に閉店させると、小ぶりの椀にご飯をもり、一切れを少し小さめに切ると、ご飯に乗せた。

 そこにわさびをのせ、醤油をかけて、かっこんでいく。


「……はぁ……夜更けのステーキ丼って、背徳感マシマシですね……」


 さらに口いっぱいのご飯を、連藤が持ち込んだワインで流し込んでいく。


「お前が一番食ってんじゃねぇのか?」


 三井の声に、莉子は無視をする。


「美味しく焼いてくれたんだ、いいじゃないか」


 宥める連藤に、三井は食いぎみでいった。


「当てたのは俺だし!」

「小さい男ですね……」

「聞こえたぞ、莉子!」

「肉が冷めるぞ、三井。ほら、食べた方がいい」


 3人の夜は、淡々と更けていく。

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