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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第4章 café「R」〜料理覚書〜

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213/218

《第213話》 真空パックでローストビーフ

 重めの赤ワインに合う肉料理のトップ3は、


・ステーキ

・煮込みハンバーグ

・ローストビーフ


 だと、莉子は思っている。


 それもあってか、ローストビーフを作る回数は、他の人たちよりも多い自負がある。

 それこそ少し手の込んだ料理という意味で、記念日や誕生日、そしてクリスマスなどに作ることが多いのではないだろうか。


 莉子はどうかというと……


「……いい感じの肉料理浮かばないから、ローストビーフでいいか」


 これぐらいの手軽さで作っている。



 ローストビーフがなんとなく(・・・・・)難しいような気がするポイントは、


・普段使うことが少ない、塊肉を使う

・温度管理

・完成までに時間がかかる


 この3点だと思う。

 自炊界隈の目線でいうと、この3点のハードルは結構高めではないだろか。


 さらには、お肉は常温に、塩味をなじませるために半日置く、など、レシピに書いてあったら敬遠せざるを得ない!


 そんなに先が見えない料理など、作りたくない!!!!


 人間は目先の結果を優先しがちだ。

 特に『料理』は、短縮しやすく、『手軽に』終わらせたい枠に入ることがある。

 さらには、失敗すると、食べきれなかったり、体調を崩すことになってしまったり、自分の身へのデメリットが大きい。



 そんなローストビーフの工程を、一つでも、減らしたい!!!!



 よく作る莉子でも、


①肉をマリネ

②時間を置いて味をなじませる

③肉を常温に

④表面全部に焼き目をつける

⑤お湯に浸けて、温度が下がり切らないように注意しながら1時間程度放置


 5つの工程は、結構めんどうなものだ。

 そこで出てきたのは、料理器具のニューフェイス『真空パック装置』だ。


 今日は連藤の家に莉子が行く日となる。

 赤ワインを飲もうということになっているため、できるだけ手軽で、持ち運びがしやすいものがいい。

 タッパでもいいが、汁が溢れる、汚れ物が出る、など、デメリットも大きい。


 莉子は届いたばかりの真空パック装置のコンセントを刺す。

 すぐに電源が入るが、意外と大きい。

 手のひらぐらいの幅かと勝手に思っていたのだが、A4の用紙の長さぐらいある。


 まず、冷蔵庫から肉をだした莉子は、冷たいままの肉に、塩、胡椒、ローズマリー、ニンニクパウダーを振りいれ、オリーブオイルでこすり、なじませる。

 次に、真空パック用の袋にお肉を入れる。

 少し厚手の袋のため、少し入れづらいが、なんとかずるんと入ってくれた。


「この口を、挟めて、真空パック用のボタンを、押す、と」


 説明書をなぞり、読み上げ、莉子は確認すると、肉を入れたパックをセット。

 ちょうど黒い線があり、ここが熱くなって、パックを溶かし、閉じる役目をするようだ。

 カッチリと音がなるように蓋を閉めると、光るボタンに指を添える。


「……ぽちっと」


 押した途端、袋の空気がみるみる抜けていく。

 ものの数十秒で真空パックされたお肉が現れた。


「……すご」


 口コミで、1回の口閉じだと水が入ってきたと書かれていたので、今度は真空ではなく、ナイロン袋を溶かして止める機能を使う。

 なんとか2本目も無事に入れられたので、常温になるまで放置する。

 その間、肉がパックごとすっぽり入る鍋を探し、火にかけた。


 表面温度計で温度をはかり、肉の温度は25℃前後、お湯の温度も80℃を超えたところで、そのまま肉をぽちゃんと入れた。

 少し温度が下がるので、火にかけ、80℃を超えたところで鍋を火からおろし、放置だ。

 うまくできれば、家を出るタイミングで肉をとりだし、連藤さんの家で焼き色をつけて出せば完成だ。


 そう、この工程でローストビーフを作ると、①〜③を真空パック内で行え、そのままお湯へドボンとすればいい。よって、洗い物も少なくて済む。

 最初の工程では、少なからずフライパン、肉を転がす箸が最低でも使用しなければならない。

 でも真空パックならば、最後にフライパンで焼き色をつけるだけなので、鍋を片付けた後にフライパンが出てくる。

 これだけで視界に入る調理器具の量が少なく、心が安寧に包まれる──!


 あとはタコとブロッコリーのサラダ、またリクエストがあった飴色玉葱のキッシュ、春キャベツがあるといっていたので、それはソテーにしてステーキ風で出せばいい──


 莉子はひと通りの準備、そして、料理のイメージを固め、満足げに頷いた。

 ゴールが見えていれば、準備に漏れはないからだ。


「よーし、あとは片付けをすませて……」


 おしりのポケットに入れておいたスマホが震える。

 手を洗ってひょいっと取り上げれば、時間的には珍しい連藤からである。



 莉子さん、今日、少し遅くなりそうだ

 合鍵で入っててほしい



「……え……」


 莉子にとって、これはローストビーフより、かなりかなりハードルが高い。

 ローストビーフの出来栄えで緊張するよりも、あの部屋に自力で入らなければならないことに、莉子の胃が痛み始める──

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