《第211話》ハイボールと唐揚げ②
並べられた料理は、それほど手の込んだ料理ではないかもしれない。
だが、今日は、『それがいい日』なのである。
巧は、まずはと並べられたウイスキーを眺めて唸る。
それは瑞樹もだ。
「巧、ウイスキーわかる?」
「わかんね」
「だよねぇ」
そのやりとりに肩をすくませたのは連藤だ。
「じゃあ、なぜ、莉子さんにハイボールなんて言ったんだ」
連藤はワイルドターキーを濃いめに炭酸水を注いでいく。
三井は昨日と同じようにニッカフロンティアをハイボールにするようだ。
巧と瑞樹は顔を見合わせ、もじもじと顔をそむけつつ、ぼそりと声を揃えた。
「「……たまたま動画みてたら、美味しそうで……」」
しぼんだ2人に笑いながら、莉子は肩を叩いてグラスを渡す。
「私もウイスキー初めてで、色々探すの楽しかったです。で、ヤスさんのおすすめは、ニッカフロンティア。このNって白で書いてあるウイスキーね」
それならと、巧と瑞樹はニッカフロンティアでハイボールを作っていく。
氷に落とすようにウイスキーを注いでいくが、その時から香りがあがってくる。
「なんか、ワインと全然違うね。巧はどう?」
「わかる。なんか、煙たい匂い、しねえ?」
「それはいろんなウイスキー混ぜてるからな。煙い原酒も混ぜてあるからな」
三井が得意げに付け足した。
「連藤のは?」
巧が連藤のハイボールを鼻に近づけた。
「なんか、濃い。瑞樹、嗅いでみ?」
「え? なに? わ……、濃い。すごい大人の飲み物の匂いがする……」
わいわいと作っている横で、莉子はバスカーの青だ。
炭酸を注ごうとカウンターに置いたとき、サッと取られてしまう。
「お、これ、なんかフルーツっぽい」
「巧、それほんとー? ……あ、あれ、ホントだ。なにこれ。2杯目はこれにしようかな」
莉子は瑞樹に渡ったグラスを奪い、炭酸を丁寧に注ぐと、
「今日は3種類のウイスキーがありますから、好きなようにたくさん召し上がってください。じゃ、乾杯しましょ」
巧に目配せすると、巧はえへんと喉を払う。
「じゃ、ハイボールじゃんじゃん飲もうぜ! 乾杯!」
「「「「「かんぱーい」」」」」
喉を鳴らしながら一気にハイボールを飲み干したのは、巧と瑞樹だ。
「……ぷはっ! ……ほー……これ、マジ飲みやすい」
「わかる。でも、ちょっとスモーキーな感じもあって、ウイスキー飲んでるって感じるのもいいね!」
「お、お前ら、良さがわかってんじゃねぇか」
すでに2杯目となったウイスキーハイボールだが、度数は気にしなければならない。
チェイサーとなる水も置いた莉子は、さっそくと生春巻きにパクついた。
食感もいい、甘酸っぱいソースもいい。
ハイボールの少しフルーティな雰囲気にも似合う気がする。
大皿に盛り付けてあるため、それぞれバイキング形式で料理を手元に運んでいくが、唐揚げの大きさに、連藤から声があがった。
「……大きすぎないか?」
となりにいた三井が連藤の皿に乗せたのだが、重さに驚いたようだ。
「今日はその唐揚げ、一人一枚ノルマです」
「……結構、重いな……」
「莉子、オレたち、そんなに若くねぇぞ」
「それがその唐揚げ、結構ぺろっと食べれちゃうんですよ」
巧と瑞樹も皿に唐揚げをのせ、なみなみ作ったハイボールを片手に頬張った。
「「んー!!!!」」
衣のサクサク感はもちろん、肉汁のすごさたるや!
お肉にしっかりとした味がついているのも、ハイボールに合うが、何より、肉の柔らかさが異常だ。
もう鶏肉の肉汁を飲んでいる感もあるほど。
「……めっちゃ、おいしいです、莉子さん!」
「これ、すごくいい……大満足っ!」
「それはよかった」
確かに、少し大ぶりの唐揚げをあげつつ、食べるのもできるが、莉子も飲みたい。
飲みたいなら、一斉に食べられるものがいい。
結果、大きな唐揚げで揚げればいいじゃない。となったわけだが、肉に切り込みが少ないのもあり、肉汁のまとまりがいいのである。
さらにじっくりと2度揚げしていることで、衣がしっかり固まり、尚且つ、肉汁が逃げないのもいい。
焼肉のタレで味つけているのもあり、ニンニクの風味はもちろん、ちょうどいい甘みが唐揚げを食べ続けさせる勢いになっている。
「連藤さん、切ります?」
「……いや、……ほ。……熱くて、いいな、これも」
まだまだ熱かったようだ。
ほほほと息を吐きながら、唐揚げを頬張り、冷えたハイボールで流し込む。
脂っこい味がハイボールの炭酸が洗い流してくれるのはもちろん、ぐっと強いアルコールが味の濃いものを食べさせてくるのもある。
気づけばあっと今に半分を食べ切ってしまった。
「……あとから胃にきそうだな、三井」
「お前もか、連藤。莉子は?」
「あたしは全然……はふ。食べれます」
鶏肉が好きな莉子にとって、鶏肉での胃もたれはご褒美なのだ。
それぞれの食べ方、飲み方で夜が更けて行く。
ハイボールという新しい飲み物に出会った今日、早めのお開きになりそうだ。
……みんな、ウイスキーの度数を甘くみすぎて、飲みすぎたのが原因だ。
やっぱり、こういう日もある。





