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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第4章 café「R」〜料理覚書〜

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205/218

《第205話》玉葱地獄編 残弾ゼロ!鶏もも肉の玉葱煮

 あれから定休日には大量の玉葱とチャツネにして、冷凍したり、それこそメニューでカレーを出したりと、あの手この手で大量に玉葱が届いてから2週間が経つ──


 コーヒーを片手に野菜をしまってある保存庫を莉子は覗いた。


「やっぱり、まだ1袋、あるよね……」


 目をこすって見直しても、やっぱり玉葱はそこにある。

 莉子は大きなため息をつきつつ、芽が出始めないうちにと、明日のランチで消費する方法を考えてみるが、もう、玉葱料理の残弾はゼロだ……


「……はぁ〜……」


 まだ月初。仕入れの予算に余裕はあるが、良いものばかりを使ってられない。

 もう奥の手を使おう。


「……お世話になってます。アールですぅ、はい……えっと、鶏もも肉、お願いしたくてぇ……」


 莉子は鶏モモ肉の発注を追加で行った。




 ──翌日。


 莉子は大きなボウルに玉葱を次々に放り込むと、流しへと急ぐ。

 今日のランチは、鶏モモ肉の玉葱煮になる。

 これにバゲットとスパイシーなフライドポテト、ブロッコリーとトマトとエビのサラダを添えて完成だ。


 玉葱はくし切りにしていく。

 豚と玉葱を煮たときはスライスだったため、少しだけでも見た目に変化をだしたい。


「いたいよ……いたい……いたいよぉ……」


 どうにか全部切り終えると、次は鶏もも肉の筋や小さな骨、端の余分な皮など処理しつつ、大きく半分へ。これを一人分とし、盛り付けるイメージだ。

 処理をした肉に対し、1%程度の塩を揉み込み、少し放置。

 その間に、サラダの仕込みやビーフシチューの添え野菜など準備を整えていく。


「よし。やってきますか」


 大きなフライパンにオリーブオイルを注ぎ、鶏肉の皮側を焼いていく。

 こんがり焼き色がつくように抑えつつ、ついたお肉は裏返し、表面を白くする程度に焼き取り出していく。

 一通り焼き終わったときには、フライパンにたっぷりの脂が染み出ている。

 そこにみじん切りしておいたニンニクを入れ、玉葱も炒めていく。

 少し焦げ目がついたほうが後から旨味にもなるため、すこし手を止め、動かさないように見張りつつ、しんなり具合を確認。


「……よし」


 半透明になったところで焼き色をつけた鶏肉をもどし、日本酒をじゃぶりと注ぎ、蓋をして煮ていく。焦がさないように弱火でじっくりだ。

 水分がなくなれば簡単に焦げるため、なくないように時折水も足さなければ今回は難しいかも。

 莉子はバタバタと準備を進めつつ、フライパンをゆすり、とろ火に変えて。

 届いたパンを切るうちに、アラームが鳴る。

 もう開店の時間だ。




 今日は少し風が強いかもしれない。

 こういう日のランチはゆっくり始まる。

 莉子の予想どおり、人はまばらに、入っては出ていって、入ってを繰り返す。

 こういう日はジャズの音楽もゆったり聴きながら料理の提供ができて、気分がいい。

 そんな上機嫌をぶち壊す勢いで三井がやってくる。


「莉子ー、飯ー」

「いらっしゃい。あと、あんたの奥さんじゃない」


 ついこぼれた莉子の声を拾ったのは連藤だ。


「すまない、莉子さん。午前中のプレゼンがかなり濃厚だったものだから」

「あ、連藤さん、三井さんがゴツくて見えませんでした。こちらへどうぞ」


 手を取りカウンターへ進める莉子に三井がため息をつく。


「俺も客だけど」

「どうでしょう」


 水を運んでいくと、三井はどうにも物思いに耽りっぱなしだ。

 莉子は声をかけるタイミングを見つけられず、他のテーブルを片付けに歩いていく。

 一旦、空いた席の食器を下げて戻ってくるも、まだ三井の顔は険しいままだ。


「……なんか、あったんですか」


 莉子の声に、「んあ」と三井は声をだす。

 かなり真剣に考えていたようだ。


「んー、まー」


 濁されたなら深追いはしない主義だ。


「ランチ、どうしますか? 今日は鶏の玉葱煮があります」


 声をかけると、連藤の手が上がる。


「俺は鶏で」

「三井さんは?」

「俺は……同じので」


 やっぱり、どうにもおかしい。

 莉子は鶏肉を温め直しながら、ふんふんと考える。

 いや、考えても答えはでない。

 なにも聞いていないし、なにも言われてもいない。

 仕事関係なのか、それともプライベートなのかもわからないのだ。


 二つトレイを準備し、料理を並べていく。オーブンで温めたバゲットをのせて、颯爽とカウンターに行けば、腕を枕に寝そべる三井がいる。

 大雑把にトレイを置くと、莉子は三井の腕をゆすった。


「ちょっと、大丈夫です?」


 小さく見ついた手を上がるが、顔は上がらない。


「ちょ、……三井さん?」


 焦る莉子をよそに、連藤はさっそくと鶏肉を頬張っている。


「すごく柔らかくておいしいよ、莉子さん。この前の豚の鶏肉版みたいだが、玉葱の切り方がちがうから、食べ応えが出て良い。……本当に、鶏肉がほろほろしてて、いくらでも食べれそうだ」

「え、いや、ちょ、あの、連藤さ、え、あ」


 しどろもどろになる莉子だが、連藤は変わらぬ顔で言い切った。


「今日のプレゼンの相手、元カノだったようでな。年上もいけたんだな……」

「うっさい」


 見れば顔が真っ赤だ。


「……え、恥じらい?」

「うるさいって。……ありゃ、若気の至りで……その……」


 どうにも拭えない過去と対峙しているようだ。

 三井にもそんな心があったとは。

 春は新しい人との出会いもあるし、別れもある。

 過去との出会いも、また春らしいのかもしれない。

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