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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第4章 café「R」〜料理覚書〜

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200/218

《第200話》お手軽赤ワインとペペロンチーノトマト味

 今日は営業を終える少し前に、巧から電話が来た。


『莉子さん、ごめん! あったかいパスタが食べたい!』


 しょうがないな、と閉店準備を整え待っていると、クローズを出したのを待ってたかのように、タクシーが1台停車した。

 巧と瑞樹だ。


「莉子さん、マジでごめん。どうしても、あったかいご飯食べたくて」

「本当、すみません。定食屋じゃなくて、莉子さんのご飯が食べたかったんだぁ」


 それぞれ交互に謝りながら、どうしても食べたかったんだ、と言われると、しょうがないな、と思うもの。

 お店に通し、店の扉に鍵を閉めて、カウンターにだけ灯りを残す。


「あったかいパスタ、とのことだったので、トマト味ペペロンチーノにします」

「「なにそれ」」

「ペペロンチーノにトマトペーストぶっこむんです。地味ですが、うまいです」


 先に、安物だけど味わいはなかなかな赤ワインと、モザサラダを出した。

 ゆで卵を白身と黄身でわけ、ザルでこまかくこして、ふりかけたサラダだ。

 今日はブロッコリーとじゃがいも、エビが一口大に切られ、マヨネーズであえられている。

 そこにミモザの花のように、茹で玉子が散らされてある。


 その間に、莉子はペペロンチーノの要領で作っていく。

 お湯の塩加減は、味噌汁より濃い程度の塩だ。

 3リットルなら、42gぐらいの塩加減。水に対して1.4%の塩加減である。

 そこにニンニクをたっぷり投入。

 2人の明日のことは気にしない。

 いい香りが立ってきたところで、唐辛子を入れ、火にかけていく。

 そこに、トマトペーストと茹でるお湯を加える。

 莉子の場合は、たまたま常備してあったトマトピューレだ。

 本当はペーストの方が味が濃く、美味しいのだが、ないのなら、ピューレで我慢するしかない。

 加えると、トマトにしっかり火を入れながら、煮詰めていく。

 これの便利なところが煮詰まり過ぎればお湯を足せばいいことだ。ただ、この塩味のお湯が味の決め手になるため、気をつけて足していく。


 パスタを茹でている間には、2人のサラダはすっからかんだ。

 莉子は追加でランチのクリームコロッケを揚げて出してから、パスタの仕上げにかかる。


 1分ほど早く上げたパスタをトマトソースに絡めていく。

 1分早く上げた、ということは、1分はフライパンで煮詰める、ということでもある。


 莉子は手際よくソースをパスタに絡め、一度味見をする。

 塩加減が少し足りなく感じたため、塩を足し、辛味はあとからのぼってくるので、問題なさそうだ。


 オーブンで温めておいた皿にパスタを盛り付け、2人の前へと差し出した。


「トマト味のペペロンチーノです。ガッツリニンニク入ってるんで、明日はどうにかしてね」


 一瞬、巧と瑞樹は視線をあわせるが、眉をつりあげ、まあいいか。と無言で言い合う。

 2人はすぐにフォークを持ち、くるりとパスタをからめ、頬張った。


「……あー、これだよー、これー」


 瑞樹が言うと、巧も頷く。


「ちょっと手が込んでるんだけど、懐かしい感じの味……これ、莉子さんにしか出せないやつー……」


 2人は少し辛めのそれを美味しそうに食べていく。

 一瞬、瑞樹は、


「ペスカトーレってパスタもこんな感じ?」


 顔を上げるが、莉子はグラスをふきあげながら、


「あれ、エビとか具材はいってますよね。これ、具なしなんで……ごめん」


 小さく謝るが、瑞樹は首を振る。


「ちがう、ちがう! めっちゃシンプルで食べやすいし、ガツン! って来る感じ、めっちゃ求めてたし」

「だよな、瑞樹! はぁ……やっぱさ、莉子さんのご飯たべないと、元気出ないよなぁ」


 ちゅるんとパスタを啜り、2人は頷く。


「こう、体に染みるよね」

「わかるわ、それ。染みる!」

「染みるってなんですか?」


 莉子は笑うが2人は真剣だ。


「莉子さんって料理作るとき、どう思ってます?」


 瑞樹の質問に、莉子は一瞬止まった。

 何を思って作っているのか、っていうことだ。


「……えー……元気、出してほしいなって。そんな感じのことですかね。ここはオフィス街だから、やっぱり午後からの仕事って大変だし」


「「やっぱりー」」


 巧と瑞樹の言葉がかぶる。


「な、莉子さんのご飯たべると、元気出るもんな」

「うん。マジで、元気出る!」


 興奮気味に話す2人に莉子は笑うが、2人は至極まともだと言いたげだ。


「だから、オレたちは莉子さんの料理じゃなきゃ、元気でないってわけ」

「そうそう! 今日は本当に、莉子さん、ありがと! 明日もめっちゃ忙しくて。これでなんとか週末まで生き残れそう!」


 2人は2杯目のワインを飲みながら、残りのパスタを食べていく。

 何か追加で作るべきかと見張っていると、


「瑞樹、デザート、食べたくね?」

「あー、食べたいかも。莉子さん、なんかあったりします?」

「あるのは、アイスくらいだけど」


「「じゃ、それで!」」


 デザートに決まった。

 ミニパフェを用意してあげようと、莉子は自分の分も作っていく。


 今日は思ったよりも早く店が閉められそうだ。

 莉子は少し驚きながらも、デザートの準備をすすめていくが、最後の料理がデザートなのは久しぶりだ。


 おいしくなーれ。おいしくなーれ。

 げんきになーれ。げんきになーれ。


 チョコシロップをかけながら、莉子は魔法をかけるのだった。

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