《第199話》新玉ねぎで一品!
春めいてきたのもあり、日中は少なからず温かい。
新しいことを始める人も増えるし、新しい場所に身をおく人も多い。
そんな時期だが、変わらない人たちもいる。
三井と連藤だ。
「莉子ぉー、なんか1品ぁー」
今日はロゼワインでスパイシーな料理。
というリクエストがあり、グリーンカレーやら、トムヤンクンやらと、手作り&市販の素を使って料理を出していたのだが、まだ食い足りないと言い出した。
「まだロゼワインが残っているしな。何ができるだろう?」
ボトルを掲げ、重さを感じてつぶやいた連藤に、莉子はキッと睨む。
やめておけといったのに、3本目のロゼを開けたからだ!
莉子は言いたくなるのをぐっと飲み込み、冷蔵庫の中身を思い出す。
「……あー、新玉があるので、それで1品作りますね」
莉子はロゼの入ったグラスを持ったまま厨房にはいると、野菜室から新玉ねぎを2つ取りだした。
玉ねぎの頭とお尻を切り落とし、皮を向いて、十字に切り込みを入れる。
さらにバターを一欠片乗せて、ラップをふんわりかけてからレンジにかける。
大きさにもよるが5分~7分で完成するのが、この丸ごと新玉ねぎ焼きだ。
オーブンで火を入れるのなら20分ぐらいは見たほうがいい。
莉子はいつも電子レンジを3分ほどかけてから、オリーブオイルと塩をまぶして、アルミホイルで包み、オーブンで焼いていくが、今日はその時間はないと判断。
「ちゃんとできるかなぁ……」
合図があるまでぬるくなったロゼを飲みながら莉子は待つ。
「私の分も作ればよかったな」
眺めているうちに、時間が減り、メロディーが流れてくる。
莉子はさっとラップを外し、菜箸でつついてみた。
「おー……いい感じのしゃきトロ」
玉ねぎをひっくり返して、バターを両面になじませて、改めて盛り付け直し、乾燥パセリを散らせば、それっぽい1品だ。
莉子は2人の前に熱々を運び、となりに醤油差しを添える。
「はい、新玉ねぎの丸ごと焼き。醤油はお好みでどーぞ」
三井はさっそくと箸を刺し、ぺろりと1枚、むいていく。
「おー、とろとろとしゃきっとしたのと、いい感じ」
連藤の分は莉子が適宜に切り、皿にとって差し出すと、1枚、箸でつまみあげた。
2人は醤油をかけずに、そのまま玉ねぎを口に含んでいく。
「「……甘い」」
新玉ねぎの魅力だ。
甘みが強い!
そして、水分がたっぷり含んでいて、ジューシーなのである。
「うまいぞ、これ」
「莉子さん、これなら1玉、簡単に食べれるな」
有塩バターを使ったのがよかったのか、醤油はいらなそうだ。
ほんのりとしたバターの塩味と玉ねぎの甘みでロゼがするすると進んでいく。
莉子はそんな2人を眺めて、ナッツを口に放り込みつつ、店内の時計は夜の11時を回っている。
今日はこれでお開きになりそうだ。
〆の甘みに、新玉ねぎもいいな。
莉子は頭の中に、メモをした。





