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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第4章 café「R」〜料理覚書〜

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198/218

《第198話》鶏肉は実は刺身もあるんです

 『鳥刺し』というのをご存知だろうか。

 そう、鶏肉が生で食べられるのである。


 宮崎や鹿児島の郷土料理ともいえる鳥刺し。

 地元ではスーパーや居酒屋でも並んでいるという。


「……食べたい」


 莉子は思った。

 レバ刺しやユッケが食べられなくなってしばらく経つ。


 生のお肉が食べたい……!


 調べると、なんと冷凍通販をしていることに気がついたのだ。

 しかも、ふるさと納税!

 今流行りのふるさと納税で!!!


 そうして届いたのが、“鳥刺し1キロ”だ───




 莉子の部屋の食卓テーブルに並べた鳥刺しパック。

 それらを挟んで、連藤と莉子は見下ろしていた。

 どうみても肉だ。

 ピンクの肉だ。

 あれほど鳥には火を通せと言われているのに、この冷凍は生だ。

 とても美しい桃色と、皮目は焦げ目があり、“タタキ”と書かれているのにも納得。


「意外と量があるんだな」


 そう言ったのは連藤だった。

 手で撫でて、パックを確認しての一言だ。

 さらに、


「もも肉が皮目が炙られて、スライスされてるんだろ?」

「あなた、本当は目が見えてるんでしょ?」


 連藤は肩をすくめて否定する。


「昔、現地で食べた」

「その経験値から導き出す答えとしては、ちょっと的確すぎて、キモいです」

「キモい……」


 莉子は言いながらも冷蔵庫から日本酒を取り出してくる。

 今日は日本酒の日なのだ。

 今日の日本酒は華やかながらに辛味もあるものを選んだつもりだ。

 最近の日本酒はふくよかな味わいが多く、本当に飲みやすくなったと莉子は思う。

 香りも爽やかなものが多く、白ワインと表現してもいいほど。


「あ、連藤さん、実はこの中で1パック、溶かしてあ」

「一番、右側のパックだろ」

「……もう恐怖なんですけど」


 莉子はまだ溶けていないパックを冷凍庫に戻し、手早く盛り付けていく。

 大根のツマや大葉などを適宜にあしらい、鳥刺しを置いていく。


 連藤は淡々と日本酒の準備を進めてくれている。

 錫の酒器を棚からだし、手早く拭いて、テーブルに並べ、いつでも飲める準備が整った。


 莉子は盛り付け終えた鳥刺しを出し、事前に作っておいた筑前煮、ほうれん草の胡麻和え、冷奴とトマトとしめじのマリネ、〆用に豚汁とご飯は明日まで食べても問題ないように調整してある。


「連藤さん、鳥刺しって、専用のタレがあるんですね」


 莉子が小皿に注いでいくが、香りはニンニクが強め、醤油ベースのタレだ。

 いろいろな薬味が混ざっていて、タレだけでご飯が食べれそうだ。

 指につけて舐めてみたが、甘みもあり、美味しい。

 本当にこれだけでご飯が食べられる。


「濃いめのタレだが、淡白な鳥刺しと本当に合うと思う」


 連藤は嬉しそうに席につくと、手をさすり、早く食べたいとアピールされる。

 莉子はそれに笑いながらも、連藤のお猪口にお酒を注ぎ、自分の分も注ぐと、箸を取り上げた。


「さ、いただきますか!」

「いただこう」

「「いただきます」」


 声を揃えて食べ始めるが、やはり二人の箸が最初に伸びたのは、鳥刺しだ。

 連藤用に取り分け渡す。


「ありがとう、莉子さん」

「いえいえ。私もさっそく……」


 そっと箸でスライスされた肉をつまむと、ちょうど胸のあたりだろうか。

 肉質の厚い部分だ。

 持ち上げただけでわかる。

 生だ。

 ねっちょりとした、まるで鮮度のいいイカの刺身のような、そんな弾力がある。

 それをタレにつけ、一口。


「……ん……あ、意外と、皮の歯応えも……」


 甘めの薬味タレが混ざり、淡白な鶏肉がしっかりお刺身になっている。

 馬刺しとちがい、肉の旨みは少ないが、皮の食感がおいしい!


「あー……これ、すごくクセになる……」


 ふた切れ目を頬張った莉子に、連藤が大きく頷いた。


「この食感とタレの味がいいんだよ。日本酒もするする飲めてしまう」


 空になったお猪口にお酒を足しながら、莉子も日本酒を口に含んだ。


 合う。


 タレが合う。

 日本酒はいわば、香りのいいご飯!

 それに風味のいいタレと、肉の旨み、皮の旨みが合わさり、口の中が幸せでいっぱいだ。


「……おいしい……これ、地元だったら、冷凍じゃないの食べてるんですよね。いいなぁ」

「そうだな。やっぱり地元の方が、肉の食感が違った気がする」

「ですよね〜」

「だが、俺は莉子さんと一緒にこれが食べられてるのが嬉しい」

「えへへへ……私もです……へへへ……あ、胡麻和え食べます? 合いそうな気がします」


 一緒に出かけるタイミングがなくとも、同じものを美味しいと言える時間は、とても好きな時間だ。

 一人だったら、ただ美味しかったで終わるが、二人なら思い出になる。


 莉子はこの時間が大好きだ。

 少しでも味わいたいが、いかんせん今日の日本酒はとても美味しい。

 忘れないように、莉子はなるだけ気持ちを込めて、鳥刺しをゆっくり頬張ってみる。

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