《第196話》定休日は春キャベツトースト
野菜を食べなさい。
連藤の口癖と言ってもいい。
だが、莉子なりに食べている、つもりだ。
なのだが、連藤にすると、食べていないらしい。
「……たしかに休みになると、1日2食も食べないからかな……」
今日は夜から来ると言うので、野菜たっぷりの鍋にしようと言われている。
鍋はこの前の石狩鍋が気に入ったようで、もう一回私と食べるそうだ。
連藤なりに味付けを考えているそうで、材料だけ準備を任されている。
莉子は昼の時報をテレビから聞いた。
コーヒーしか入っていない胃はすでに空っぽだ。
「何食べよ……」
春キャベツが冷蔵庫から見つかったので、これをトーストにすることに決めた。
某YouTuberのお兄さんのメニューを思い出したからだ。
まず、春キャベツを千切りに。芯はなるだけ薄く切っておく。
切り刻んだキャベツにマヨネーズ、黒胡椒、動画ではロースハムだったが、あいにく冷蔵庫になかったため、ツナ缶で代用だ。
砂糖と味の素、塩を入れると美味しいというが、莉子は味の素のみ追加。他を入れなかった理由は、特にない。めんどうだった、というのが答えになるだろう。
最後に、六枚切りのパンにバターを薄く塗り、キャベツを乗せ、あとはトーストすれば完成だ。
250℃で5分を基準に、火を入れていく──
コーヒーを落としている間に、トースターがチンとなる。
皿にそれを乗せると、山積みだったキャベツが、半分に減っている。
「おいしそう……」
焼きあがったものを四等分し、皿に盛りつけ、テーブルにつく。
コーヒーをすすり、ひと口頬張った。
キャベツのしんなり感と、芯のシャキっとした歯ごたえ、なにより、トーストのサクサク感!
「……へぇ」
食感のコントラストの面白さはもちろん、シンプルながらにいくらでも食べれる味付けはお見事。
ついつい頬張ってしまうし、あれだけのキャベツがこれ程に食べやすくなるとは……!
「……毎日これでもいいかも」
普段ならこれだけの量を食べようと思うと、アゴが痛んでくる。人類が見つけた火の力は素晴らしい。
連藤からメールだ。
『ちゃんと食べてるいるだろうか』
不安げなメールに、
『しっかり食べてますよ
春キャベツのトーストです
レシピ、お教えしますね』
この返信で、連藤は納得するのを莉子は知っている。
やはり目が見えない分、食べている写真など添えても意味がない。
実際作ったというレシピがあるだけ、説得力が高まるのだ。
第一に、莉子も作ったものだとアーダコーダと伝えられるが、作っていないものはメールにも書きづらいのもある。
すぐに返信が来た。
『今日は少し遅くなりそうだ
19時くらいだ
飲まないで待ってて欲しい』
莉子はコーヒーでパンを飲み込み、冷蔵庫を見やる。
これからの予定を読まれてる……!
ポテトチップ(野菜)を片手にビールを2本だけ飲む予定だったのだ。
『ちゃんと待ってますから』
莉子は返信したあと、すぐに立ち上がった。
「……私にはまだ、ノンアルビールが残っている……!」
やはり映画を観るのにビールがないのは寂しいのである。
休日は休日らしく!
莉子の楽しい定休日は、また始まったばかりだ。





