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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第4章 café「R」〜料理覚書〜

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195/218

《第195話》ビールのおつまみに、鶏ささみとニラの中華炒め

 クローズが過ぎても居座っているのは三井と連藤だ。

 今日は積もる話があるようで、莉子は2人の邪魔をしないよう、そっと厨房へ入り、仕込みの準備にかかる。

 玉ねぎを剥いたり、切ったり、炒めたりとしていると、のっそり入ってきた人がいる。


「おい、莉子、つまみ」

「人に頼む態度ではないですね」

「いいから。ビールに合うやつ、頼むわ」


 思えば今日は2人ともにビールだった。

 莉子は冷蔵庫の中身を見て、ふんと唸る。


「鶏のささみと、ニラか……ピリ辛で炒めてみるかな」


 莉子はキリのいいところまで仕込みを終わらせ、調理にかかる。


 まず、ささみは筋を取って適当に切っていくが、大きめの方がジューシーに仕上がって美味しい。

 そこに塩と胡椒を強めにふり、みりんを入れて揉み込んでおく。

 フライパンを温め、ごま油を多めに注ぎ、熱くなったら、小麦をこまぶしたささみを投入。


 順次、焼き色をつけていく。

 コロコロと転がしていると、またのっそりと現れる。


「まだか?」

「あと5分もしないでできますよ」


 火が通れば早い料理なのだ。


 9割近く火が通ったのを確認し、そこへ豆板醤を投入。

 少し多めに入れてやろう。

 小さじ半分とレシピにはあったが、小さじ1は入れたと思う。


「……大丈夫大丈夫」


 いい香りがしてきたら、中華味のペーストを追加で入れて、焼いていく。

 味が馴染んだあたりで、3㎝ぐらいにぶつ切りにしたニラを投入し、さっと炒め合わせていく。

 最後に醤油を回し入れ、香ばしく水を飛ばせば、完成!


 皿に盛り付け、もう一工夫。

 ギャバンの四川赤山椒(花椒)入りをパラリとかけてみた。


「これで、もっと熱くなるでしょー。まじ、おいしそー」


 ふふふと笑うが、ここまで味見をしてきてなかったことに気づく。

 莉子はそっとひと口頬張った。


「……お、辛いっ! 熱っ! ……でも、おいしい……あー、これ、ランチメニューにできそう……顔から汗ひどーい……」


 さっそく皿を運んでいくと、待ってましたと箸を手に三井がこちらを見ている。


「そんなに楽しみだったんですか」


 莉子の声には呆れが大量に含まれていたのだが、三井は気づかないようだ。


「ったりまえよ。ビール追加な!」

「飲み過ぎじゃないです?」


 瓶ビールを手渡し「これで最後にしたらどうです?」ひと言足してみたが、聞く耳はないようだ。

 栓を抜いて美味しそうに飲み込んでいく。


 その間、連藤ができたての炒め物に箸を伸ばした。

 そっと、ひと口ふくみ、うんとうなずく。


「……これは、ビールが進むぞ」


 その一言に三井は大喜びだ。

 大きくささみとニラを頬張った。


 しゃきしゃきという音と共に、しっとりとした鶏ささみがふわっと広がる。

 そのあとに、辛味がじんわりと口の中に響いてくるが、山椒の辛さと唐辛子の辛さの届き方が違うため、舌がしびれ、喉が辛いという、広がりのある辛さが面白い。

 さらには目の当たりに汗がにじみだし、ビールがより欲しくなる1品なのは間違いない。


「莉子、これ、あいつに教えてやって」

「星川さんに? 簡単ですから、三井さんが作ればいいんですよ」

「俺も、そう思うぞ、三井」


 一瞬、空気が止まる。

 だが飲み込むビールは止まらないようだ。


「……莉子、もう1本」

「次で、ラストにしてくださいね?」


 空になった食器を適当に下げ、莉子は厨房へと戻るが、連藤は久しぶりにテンションが高い三井にあてられたのか、珍しく声をたてて笑っている。

 ふと、夜中の楽しい時間が久しぶりな気がして、莉子も厨房で仕込みの続きをしながら、笑ってしまう。


「こういう日も、たまにはいっか」


 2人の会話をラジオのかわりにしながら、莉子は作業を進めていく。

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