《第194話》クリスマスに、カニの香箱をつくる
セコカニ、というのをご存知だろうか。
北陸でとれるカニなのだが、ズワイガニの雌のことをいう。
通常のズワイガニと比べると小柄で、足も細く、食べる場所が少ないイメージだが、冬のセコカニには美味しい箇所がある。
それは、内子と、外子、と呼ばれる卵の部分だ。
内子は卵巣で、外子が卵なのだが、食感が違う。
また、カニ味噌が豊富なのも特徴のひとつと言える。
莉子はそんな高級食材など縁遠かったのだが、ランチタイムにそのカニが詰まった発泡スチロールを三井が運んできた。
「イブだし、カニ食おうぜ。いやー、お歳暮でもらってさ」
「あの、ここに持ってくれば、なんとでもなると思ってません?」
「違うの?」
三井の頭にチョップを入れて、すぐに取り掛かったのは、ググること。
「この小ぶりのカニはなんてカニなんです?」
「セコカニ。あれ、寿司屋で香箱っていったら、これだろ」
「知りませんよ」
連藤はコーヒーで一服していたのだが、三井の強引さに改めて、ため息をつく。
「三井、ここはカフェだ。カニをさばけっていうのは、おかしいだろ」
「莉子に食わすって」
「そういうことじゃない。全く……」
莉子はふむふむと検索をしながら、動画を確認すると、頷いた。
「……わかりました。なら、日本酒も用意してきてください。今晩、香箱、どうにか作ってみせますよ」
──とはいったものの。
「めんどくさい……」
カニが小さいため、内子、外子を外すまではいい。
細い足から身を取りだし、さらに盛り付けて……という作業は、カニの量もあり、気づけば17時。
中休みを設けていたのだが、ディナータイムまでかかるとは、今日は貸切だと莉子は決める。
早々に貸し切りカードをドアにかけ、さらに盛り付けをすすめながら、他に何を準備すべきか悩む。
だが、そういうときは、天ぷらを揚げておけばだいたい問題ない。
あとは、簡単な混ぜご飯も準備しておけばいいだろう。
ようやくと盛り付け終え、片付けたところで来店だ。
「莉子、できたか?」
開口一番の三井の声に、莉子は睨む。
「どんだけ大変だったか、耳元でずぅーっと話してあげたいです」
「莉子ちゃんごめんね! これ、日本酒」
ささっと出てきた星川が渡してくれたのは、純米酒だ。
「おー、味わいながらいけますね」
おちょこなど用意しつつ、クリスマスというのに、日本の旬のもので過ごすことになるとは意外な状況だ。
だが、しっかりと連藤がケーキを用意していて、そこだけはクリスマスっぽくもある。
「今日は、大人組で、クリスマスといこうや」
三井の発声で始まったイブ会は4人で始まった。
さっそくと出した香箱は大変好評だった。
「莉子ちゃん、全部これ、やったの?」
「はい。カニさんが10匹もいると、死にました」
「莉子、店並だな!」
「ここ、店ですからね!!!!」
「莉子さん、ちゃんと綺麗にできててすばらしい」
「どうやって見てるかわかんないんですけど、連藤さん、ありがとうございます」
ほどほど食べ進めたところで、莉子は自分の分をキープしつつ、天ぷらを揚げに立ち上がる。
「俺も手伝うよ」
「いいですよ、連藤さん」
「いいや。二人きりの時間を邪魔されてるからな」
日本酒はやはり、旬の海鮮ものにあう。
旨みを堪能しながら、夜がふけていく。





