《第193話》川は皮から 海は身から
頂き物のほっけを、莉子は焼いていた。
そのため、今日合わせるお酒は日本酒だ。
それをいっしょに叩くのは、やはり、連藤である。
もう店は閉まっており、ドアも閉められ、クローズも出てる。
今日はゆっくりと2人で、晩酌を楽しめそうだ。
「たまにはいいな、日本酒も」
連藤は嬉しそうに、クリームチーズの醤油漬けをつまみに、お猪口を運んでいる。
「今、ホッケ焼けますらね……と」
グリルを眺めながら、莉子は鼻歌のようにつぶやいた。
「……川は皮から〜……海は身から〜……と」
カウンターの下のオーブンで調理していたため、ひょっこり頭をだし、自分のお猪口に手を伸ばしたとき、連藤が驚いた顔をしている。
「莉子さん、今の歌はなんだ?」
「歌?」
「かわは、かわからーというやつ」
「あー。これは、母がよく言ってて」
焼き上がったホッケを皿にのせ、大根おろしを別のお碗にたっぷりと用意する。
「魚を焼くときの、面ですね。理由はしりませんが、川魚は、皮から。海魚は身から焼くのがいいそうです。……はい、召し上がれ」
差し出されたホッケの湯気に、連藤は嬉しそうに微笑む。
「いい脂の匂いがする」
「ばあちゃんが送ってくれたホッケだから、絶対おいしいよ」
莉子の嬉しそうな声に、連藤は大きくホッケを頬張った。
大根おろしの風味と、ホッケの上質な脂がよく合う。
適度に莉子がかけただろう醤油が、いい甘味を引き出してくる。
そこにすかさず、白米が差し出される。
「やっぱ魚のときは、ご飯でしょ」
莉子はすでに頬張ってるようで、もごもごしながら、美味しい美味しいと繰り返している。
「ばあちゃん、サイコー……!」
連藤も莉子の真似をして、ホッケをご飯に上手にのせ、ひと口。
「……うまい」
さらに日本酒を流すと、また、旨味が増す気がする。
「……はぁ」
「どうしたんですか、ため息なんて」
莉子の慌て方が面白く、つい、演技をそのまましておきたいが、美味しいものを食べているのに、嬉しい顔ができないのはつまらない。
なので、連藤は素直に白状した。
「あまりにおいしくて、日本人に生まれてよかった、と思ったんだ」
「なるほど!」
莉子はあいたお猪口に酒を注ぎつつ、連藤の手を握る。
「たくさん、生まれてよかった、つくっていきましょ! 今日はホッケ! サイコー!」
莉子の手を握り返すと、いつもより、手が熱いかもしれない。
ふふふと、楽しげに笑う声から、莉子はすでに酔っ払っているようだ。
──かわいい!!!!
連藤は、莉子さんサイコー! と、心のなかで叫びつつ、冷めないうちにホッケに箸をのばすのだった。
いつも、ありがとうございますっ
ぜひ、お魚と日本酒、最強なので、合わせてみてください!





