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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第4章 café「R」〜料理覚書〜

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191/218

《第191話》ちょっと豪華で簡単な、ベックオフ

 夕方をすぎて、「飲み会がしたい」と言い出したのは三井だ。

 予想以上に良い結果が出た案件があり、個人打ち上げを連藤と瑞樹としたいという。


「巧くんは?」

『あいつか? 一応、呼ぶか……。じゃ、よろしくな』


 メニューの内容もなにも話さず電話を切った三井に、スマホごしに睨む。

 だからといって、かけ直すのも面倒くさい……


「在庫処理にするか」


 食品庫へとやってきた莉子が見つけたのは、大量のジャガイモ、玉ねぎ、人参、キャベツ──


「こんなもんか。肉はなんかあるかな」


 冷蔵庫をみると、あるではないか!


「豚ヒレ! ……なんであんの?」


 思い返してみたが、たまたま安いよ、と仕入れたお肉なのを思い出す。

 副菜で使おうかと思っていたが、すっかり忘れていた。


「あぶねー……これ使おう」


 さて、では、どんな料理にしようか……

 悩む間も無く、莉子は土鍋を取り出した。


「めんどくせ。ベックオフにしよ」


 来店は定時ぐらいに上がるとすれば、あと1時間もないだろう。

 ジャガイモをごそごそと剥き始める。

 次に、玉ねぎ。人参もむくと、大雑把に切っていく。

 すべて輪切りにすると、土鍋に詰め始めた。


「ジャガイモが一番下。次、玉ねぎ、彩り人参に……肉、切ってないじゃん!」


 豚ヒレ肉は塩を強めに振り、これも同じぐらいの厚さに輪切りにしていく。


「マリネなんてしてらんねー」


 ───ベックオフとは、ヨーロッパのアルザス地方の郷土料理だ。

 牛肉、羊肉、豚肉など、複数のマリネしたお肉をメインに、ジャガイモはもちろん、玉ねぎ、セロリなど、色んな野菜といっしょにじっくりと火を入れて作る料理となる。

 ざっくり言うと、洋風肉じゃが。

 だが、決め手は白ワインだ。


 根菜類をしき、肉をのせ、その上にまた根菜類をのせる。

 顆粒コンソメをふりかけ、そこに白ワインをまんべんなくかけていく。


「……よし。あとは、火にかけておこ。様子見て弱火、と。タイマーどこだ?」


 じっくり蒸し煮にしていくだけだ。

 味付けもこれだけ。

 今回はヒレ肉なのもあり、ジャガイモが煮えたらオーケーとしている。

 牛肉のサーロインで作ると、牛の脂がいい出汁になるそうだ。

 だが、今回は豚ヒレ。

 淡白な味に、淡白なお肉だが、粒マスタードを用意。

 味変できれば、だいたいは美味しい。


「あとは、アルザスの白ワイン、冷やしておこうかな……」


 他にもカボチャのキッシュや、タコのマリネなど用意。

 テーブルセッティングを終え、コーヒーをひと口。

 店のドアベルが鳴る。


「莉子、準備できてるか?」

「もちろんです。在庫整理させていただきました」


 三井の落ち込む顔に笑いながら、キッチンではタイマーが鳴っている。

 ベックオフの出来上がりの時間が来たことを示すものだ。

 鍋底からひっくり返すように混ぜ、火の通りを確認。

 問題ない。ほっこりとしたジャガイモから、甘い匂いが漂ってくる。


 だが、まずは前菜用のタコのマリネや、ヤングコーンのサラダなどなど、簡単につまめるものと、シャンパンを注いで回る。

 今日は、三井、連藤、瑞樹、巧のいつもの4人だ。


「巧さんも、来れたんですね」


 莉子の声に、


「ったりまえ。三井、オレのことはぶこうとしてたけど、絶対無理だし」

「はぶこうとしてたんじゃねーの。お前の仕事が見えねーから、遠慮したんだよ」

「うそつけ」


 角が立ってきたところで、瑞樹が立ち上がる。


「今日は、本当にすんごい案件、達成できたね記念なので、楽しくみんなで飲みましょう。かんぱーい」


 無理やり始まった宴会だが、少しテーブルが落ち着いてきたところで、ベックオフの登場である。

 土鍋のまま出したのもあるが、インパクトがある。

 ワインに、土鍋、だからだ。


「炊き込みご飯とか出てきませんから。ベックオフです」


 莉子が鍋の蓋をはずすと、大きな湯気がテーブルに舞い上がった。

 そして、甘いジャガイモの香りと、ふわりと白ワインの香りもある。


「粒マスタードや塩など、つけて食べてください。あ、和からしも合います。ベックオフはアルザス地方の郷土料理なので、白ワインのアルザスも準備してます」


 取り分け、さらにグラスにワインも注いでいく。

 ふんわりと甘さを感じるジャガイモに、粒マスタードをつけて、白ワインを飲みこむ。

 ちょうど酸味が合わさり、ジャガイモの甘さも引き立って、やばい食べ物なのがわかる。


「これ、飲みすぎちゃうやつ……」


 瑞樹はつぶやくが、止められないようだ。

 食べては、飲み、食べては、飲みを繰り返す。


「莉子さん、今日のベックオフの肉、ヒレなんだな。柔らかくてさっぱりしてていいな」

「よかったです。あっさりしすぎって言われたらどうしようかなって」


 空のグラスに改めてワインを注いでいると、おもむろに肩を掴まれた。

 振り返ると、巧がいる。


「ほら、莉子さんも座って。もうお客さんいないし」

「おれの武勇伝、聞いてよ、莉子さ〜ん」


 座らされたせいで、酔っ払った瑞樹に絡まれるが、こういうバカ騒ぎは久しぶりだとも思う。

 莉子は、瑞樹の愚痴とも言える話を聞きつつ、改めて、グラスのワインを飲み込んだ。

いつもお読みくださり、ありがとうございます!

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