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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第4章 café「R」〜料理覚書〜

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《第190話》おにぎり

 おにぎり、というと、どんなものを想像するだろう?

 大抵の人は『おむすび』と『おにぎり』の違いなどわからないだろうし、現に、莉子もわからない。

 調べれば一目瞭然だが、ここでは、ご飯を塩でまぶして握って、海苔をまいたものを、おにぎり、とすることにする。


 第一に、莉子はおにぎりが嫌い()()()

 子どもの頃の夜ご飯、といえば、おにぎりだったからだ。

 食べ飽きた、と言ってもいい。

 色んな具を入れてくれたとしても、結局は、ご飯に包まれており、ゆっくり味わって食べるものでもない。


 いつもひとりでテレビを見ながら、冷めたおにぎりを頬張って過ごす、というのが幼少の頃の夕飯の思い出だ。

 少し大きくなると、ガスが使えるようになり、味噌汁を温めたり、ちょっとしたお肉を焼いたりと、メニューの幅が増え、母のおにぎりは食べなくなった──


「もういらないって思ってたけど、いざ食べられなくなると、寂しいよね」


 莉子がご飯をよそいながら、連藤に言う。

 連藤も同じだ。

 母を亡くし、もう、あの手料理が食べられない。


「明日は、俺がお昼、作るよ」

「急にどうしたんです? 明日はピザを頼もうって言ってたじゃないですか」

「いつも莉子さんに作ってもらってばかりだ。たまには作らないと、俺の手も鈍る」

「まーた、そんなこといって」

「明日は、俺がお昼を作る。約束したからな、莉子さんに」

「はいはい。じゃ、夕飯、冷めないうちに食べちゃいましょ」


 今日は、連藤の家でお泊まりの日だ。

 明日は莉子の定休日。連藤も合わせて休みにしてくれたため、のんびり過ごす予定を組んでいる。

 のんびり、といいつつも、ほとんどは連藤の家のいい音響で、映画を見るのである。

 音声ガイドのある作品をいっしょに見る予定なのだが、莉子はこの日を本当に楽しみにしていた。


「明日はなにを見るか決めてあるのか?」


 味噌汁をおいしそうにすする連藤に、莉子は胸を張る。


「ちゃんとリストアップしてきてます。まかせてください。どんなジャンルがきても、大丈夫ですから」



 そうして、翌日──


 のんびりと起きて、映画鑑賞会が始まる。

 映画を2本見終わったところで、もうお昼の時間だ。


「莉子さん、俺は昼の準備をする。好きな映画をみててくれ」

「手伝いますよ?」

「俺が、作りたい」

「わかりましたよ」


 莉子は持参したヘッドホンに切り替え、映画を見ていく。

 あまりに音が大きすぎるためだ。

 目の見えない連藤にとって、音は、料理をする上で大事な調理器具だ。


 ひとり、キャッキャしながら映画を楽しむ莉子の声を聞き、連藤は笑ってしまう。

 本当に楽しそうなのだ。

 そんな連藤が準備している昼食は、豚汁、玉子焼き、そして、おにぎりだ。

 具は定番の梅干しと、昆布の佃煮にした。

 どちらも莉子が好きな具だからだ。


 ご飯を器に入れ、塩をまぶした手で、具を包み込んでいく。

 表面を握り、中まで握らないように、しっかりと、そしてそっと、にぎっていく──


 連藤が、莉子の肩を叩く。


「うわぁ! びっくりした!」

「お昼、できたぞ」


 莉子は手早く一時停止を押し、ヘッドホンを投げると、食卓テーブルに振り返る。


「……あ! おにぎりだ!」

「昨日の話を聞いてたら作りたくなってな。おにぎり、冷めないうちに食べよう」


 莉子は転がるようにテーブルにつくと、手を合わせる。


「「いただきます」」


 味噌汁よりもおにぎりにかぶりついた莉子は、連藤のあいた手を握る。


「やっぱり、おにぎり、好きだな」


 よかった。そう答えた連藤だが、莉子の声が、すこし震えていたのは、聞かなかったことにする。

いつも、読んでいただきありがとうございます!

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