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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第4章 café「R」〜料理覚書〜

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《第189話》オイルフォンデュ

 今日は早々にクローズを出し、女子会である。

 メンバーは、星川、奈々美、優と、今日は初めて参加の九重の彼女、真穂である。


「莉子ちゃん、いつもありがとね!」


 言いながら差し入れを持ってきたのは、星川だ。


「三井くんから、これ渡せば機嫌良くなるっていうから」

「……お、アメリカワインですね! わーありがとうございます。みんなで飲みましょうっ」


 席についた真穂だがソワソワしている。


「私、会費だからと、持ち寄りもなく……」

「あ、気にしないで! あたしも持ってきてない!」


 言い切ったのは優だ。

 うんうんと頷くのは奈々美である。


「じゃ、今度の女子会のとき、3人で差し入れしよ」

「いいね、それ!」

「私もいいんですか?」

「いいっていいって!」


 その会話に不服なのが、星川だ。


「なんか、シニアは仲間はずれね」

「しょうがない。私と星川さんは、ちょっと世代が違います」


 ふたりで慰め合いながら、莉子は小さなオイルポットを用意する。

 そして、それぞれに長めの串を渡すと、


「今日は、オイルフォンデュです」


 すでに温められたオリーブオイルには、ローズマリーが浮いている。


「食材は、マッシュルーム、じゃがいも、かぼちゃ、ブロッコリー、長芋、トマトとか、あと、豚ヒレ肉に、鶏肉、牛肉、ウィンナーもあります。好きな食材を皿にとって、その串にさして、オイルで揚げて召し上がってください。オイルはガーリックと塩で多少香りと味を足してますが、塩やマスタードなど、お好みでどうぞ」


 フライドガーリックが並んでいる理由は、香りをつけたためだ。

 焦げないうちにローズマリーを取り出すが、シンプルに、いい香りのオイルができた。


「串揚げじゃないのが、莉子さんって感じ」


 星川は笑いながら、長芋やウィンナーを皿にとっていく。

 小皿が各3枚ずつ与えられているのは、塩やマスタード、ケチャップなど、味変ができるようにだ。

 さっそくと何を刺そうか迷うメンバーのなか、莉子はマッシュルームをさすと、オイルに差し込んだ。


「串の取手には、名前が貼ってありますから、このまま置いておいても問題なしです」


 莉子は塩で食べるつもりなのか、皿に岩塩をごりごり卸していく。

 莉子に続いて、かぼちゃ、鶏肉、ウィンナー、長芋が油へと落とされる。

 じゅん! と音はなるが、すぐに落ち着く。

 オイルポットは温度調整をしなくとも、設定された温度を保ってくれる。

 ゆっくりと火が入れられていくため、おつまみの生ハムやチーズをつまみ、シャンパングラスをそれぞれに揺らしていく。


「はぁ……」


 大きなため息をついたのは、真穂だ。


「どうしましたか、真穂さん?」


 今日は女子会のため、料理を運ぶ回数が少なく、どっかりと椅子に座っていたのだが、真横でため息をつかれてしまっては、どうにかしなければならない。


「いえ。その。私なんかが、ここにきていいのかなって……」

「なんでです? この女子会は、私が好きに開いている会です。お気になさらずです」

「そうよ、真穂ちゃん。ここはね、彼氏の愚痴とか、仕事の愚痴を、ぶわーーーって吐き出す場なんだから」


 星川はもう酔っているのか、頬が赤い。

 聞けば、徹夜明けといっていたが、今日は乱れそうだ。


「真穂ちゃんの彼氏って、九重くんだもんね。なんか、思いやってくれそう」


 そう言うのは、優だ。

 羨ましいと、頬にデカデカと書いてある。


「えー? どっちかっていうと、九重くんと瑞樹くんは、おんなじ属性じゃないです?」


 莉子の言葉に、大きく首を振る。


「瑞樹くんは、いざってときの決断が、優柔不断。九重くんは、そこらへん、ビシッと決めそうだもん」

「でも、九重は、その、意外と自分勝手だから、私のためっていっても、ちょっと、違うこと、あります」


 真穂ちゃんの長文セリフに、一同心が踊る。

 少し緊張がほぐれたのだろうか。

 いや、ついしゃべってしまったようで、耳まで赤い。


「ねー、みんな聞いてよ。あの三井くんが、この前、ザンギ作ってくれたのよ! すごくない?」

「「すごすぎ」」


 声を揃えて感動するのは、奈々美と優だ。

 それに補足として伝えるのは莉子の役目だ。


「その、三井さんって彼氏さんがいるんですけど、まー、イケメンクズでして、料理できないのに、わーわー言うので、連藤さん主導で、三井さんにザンギを作らせた経緯があります」

「そうなんですね」


 真穂は頷きつつ、串にさしたかぼちゃを頬張った。

 熱かったようで、はふはふと口が踊る。


「莉子ちゃんも、驚いたわよね、あの出来」

「ええ。焦げもなく、素晴らしいザンギでしたよ」


 同意をしつつ、莉子はグラスに酒を注いでいく。

 追加のポテトサラダを差し出しながら、思えば、真穂は料理が得意だ。


「真穂さんって、いっつも九重さんに何作るんですか?」


 莉子の質問に、うーんと唸ると、にこりと笑う。


「うちはいつも安売りでご飯を作るので、これといったものは……」

「「「いい奥さん!」」」


 なぜ、3人がこれほど食いつくいたのかはわからないが、とても素晴らしい金銭感覚であり、料理もなんでもできるのがそれだけでわかる。


「料理かぁ……全然作れないからなぁ……こんなんじゃ、同棲なんて、夢のまた夢だヨォ」


 優の泣き言に、奈々美が肩を叩いて慰めるが、


「え、同棲、してないんですか?」


 意外な驚きが返ってきた。

 もちろん、真穂だ。


「同棲、してるの……?」


 優の声に、小さく頷く。


「まじかーーーーー!」


 優は自分だけ遅れている気になるようで、ぐずぐすと泣き出す始末。

 だが、真穂はけろりと言う。


「私たち、一回、同棲解消しようかって、話してます」


 あまりの急展開に、追いつけない。

 串にさした食材もからからにあがっている。


「私が別な銀行に転勤になって、今の場所じゃちょっと生活が難しくって。だから、一回、離れて暮らしてって」

「……なんて、アグレッシブにフリー」


 莉子の呟きに、皆同意だ。

 確かに同棲をしていても、住む場所を変えても問題ない。

 『絶対』同じ家に住まなければならない理由はないのだ。


「それぞれに、いい距離って、あるのかもね」


 星川の声に、全員が頷くが、もうボトルが空だ。


「次は、何飲みます? 赤、白?」


 莉子が言うと、みんな白がいいという。

 莉子は冷やしてあるワインをとりに、厨房へと向かうが、歩きながら思う。


 本当に、それぞれの距離感だ。

 カップルだから、こうだ。なんて、ものはもうないのかもしれない。

 家族だからこそ得られる幸せもあるし、カップルだからこそ得られる幸せもあるのだと思う。


 なんとなく、カップルの形がいい意味で柔らかくなった夜。

 深酒が進んでいく。

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