《第185話》父のカレーを作ってみました
今日のランチメニューは、カレーライスだ。
理由は赤ワインのあまりが多かったのと、牛肉の細切れが安く手に入ったことが重なったからだ。
ひたすらに玉ねぎをスライスし、それを飴色になるまで炒めて炒めて炒めていく。
そこに適宜にきった牛肉を投入。
色が変わったところで、ワインをダバダバ入れていく。
あとは、カレールーを父親秘伝の割合でブレンドし、包丁で切り刻み、溶かし込む。
「あとは、フライドポテトと、ナスとしめじの素揚げ、でいいかな」
サラダを皿に盛りつけ、すぐに出せるように準備をしておく。
次に、コンソメスープだ。
カレーにスープはいらない?
あーあー聞こえない。
しかしながら、一子相伝のこのカレーは、けっこう辛い。
水よりも、ぬるい飲み物の方が、辛さがやわらぐのだ。
「キャベツたっぷりのコンソメスープ、完了。……他の温め直しとかしとくか……」
ご飯の炊き上がりも確認し、準備はオーケー。
一番最初の来店は、靖おじさんだ。
「莉子ちゃん、おはよう。まずは、コーヒー頼むね」
いつものカウンター席に座り、本を広げる。
昨日より、3ミリ進んだ本だが、楽しそうだ。
莉子はその横顔を眺めながら、コーヒーを落とし、差しだした。
「ありがと、莉子ちゃん。あ、今日のランチは、カレーにしようかな」
「はい。わかりました。食べたくなったら声かけてください」
他のお客を対応しつつ、11時30分をすぎた頃、ランチタイムできたサラリーマンが、カレーを注文。
サラダ、スープと、カレーライスにして出したとたん、店内がカレー臭に包まれるのがわかる。
他のお客様の鼻がひくついている。
カレーには、魔力があるな……
思いつつ、カレーを運び終えたとき、カウンターの靖が手を上げた。
「莉子ちゃん、たのむわ。もう我慢できん」
いつも12時と決まっている食事なのだが、カレーの匂いに胃が刺激されたよう。
うずうずとしながら、本をしまい、水を飲む姿に、笑ってしまう。
「すぐ、お持ちします」
湯気があがるカレーは、少し黒い。
理由は赤ワインを入れているからだ。
だが、しっかりとコクがでているのがわかる。
トッピングの野菜もツヤツヤといい塩梅でカレーに絡む。
ひとくち、頬張った。
「………ふぅ……これこれ」
すぐに額ににじみだす汗をタオルでぬぐいながら食べ続けている。
それを見るだけで、莉子のお腹もぐぅと鳴りそうだ。
「莉子さん、ただいま。あ、やっさんのカレーうまそー」
勢いよくカウンターに座ったのは、巧である。
瑞樹がよいしょとゆっくり座ると、ブイサインをしてくる。
「莉子さん、カレーふたつ」
「はいはい」
厨房内で準備をしていると、3人の声が聞こえてくる。
「これな、莉子ちゃんのお父さんと同じ味なんだよ」
「「へぇー」」
「もしかして、初めて食べるのか?」
「思えばそうかも。な、瑞樹」
「うん。カレーライスは初めてな気がする」
「カレーライスのランチは回数、少ないからな。運がいいな!」
まるで孫と話す祖父のような光景に、莉子の顔は緩んでしまうが、果たして靖に好評でも、ふたりに好評となるかどうか……
ドキドキしながら差しすと、さっそくひと口。
「から!」
スープを飲むのは瑞樹だ。
巧は無言で3口頬張り、
「莉子さん、おかわりってある?」
「あるけど……?」
「あ、おれも、もう1杯食べる」
瑞樹の言葉に、莉子は笑いそうになる。
このカレーのいいところは、あとにひかない辛さ。
辛味が苦手な瑞樹が食べ続けたいカレーなことに、嬉しくなる。
父さんの味、今も気に入ってくれる人がいるよ!
莉子はつい空を見ようと窓を見たとき、目が合った。
三井だ。後ろに、連藤もいる。
「いらっしゃい。カレー?」
「俺はその手には……のらないからな……莉子……」
「莉子さん、俺はカレーがいい」
三井は匂いとの攻防があるようだが、カレーに決定するのはわかっている。
父のカレーは、偉大なのだ。
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