表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第4章 café「R」〜料理覚書〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

183/218

《第183話》風呂吹き大根からの、おでん

 本日のランチは、あじのフライと、風呂吹き大根だった。

 のだが、洋食がメインのカフェだ。

 実は和食はあまりやすい。想定通り、風呂吹き大根があまった。

 アジフライは、衣をつけて冷凍しておくとして、風呂吹き大根は今日中にはけたい。


 ということで、おでんに昇進を決定。


 今日は、巧と瑞樹と九重が、3人で来店予定だ。

 リクエストは『あったかいもの』だったので、問題ない。

 風呂吹き大根の出汁をそのまま活用することに決め、そこへ、厚揚げ、ゆで卵、ロールキャベツ、トマト、ウィンナーを追加。


 これに合わせるワインは、ピノ・ノワールのワインだ。

 フランスのブルゴーニュがいいと、すでにセラーから出してある。


 あとは、野菜の天ぷらと、豆腐サラダ、ご飯も混ぜご飯の準備だけは整えてある。

 他にもつまめる肴を準備し、莉子は厨房を見回した。


「これだけしとけば、大丈夫でしょう」


 中休憩もほどほどに始まったディナータイム。

 今年は5名以上の予約は週末だけにしたため、平日の今日は少し気が楽だ。

 これから忘年会があるのか、その時間を埋めるのに使ってくれているのもわかり、師走の時期を接客から莉子は感じる。


 そうして現れた3人だが、ため息まじりだ。


「お疲れ様、みなさん。どうしたんですか、来店そうそう」


 あまりのぐったり感に、温かいお茶を先に出す始末。


「いやー、オレも瑞樹も、九重もそうなんだけどさ、もう付き合い長くて……クリスマスどうするっていう」

「あー」


 莉子は、テーブル席に3人を案内し、ふんふんと頷くが、


「お互いが楽しかったらいいんじゃないんですか?」

「そうはならないんだよ、莉子さーん」


 嘆くのは瑞樹だ。


「真穂は欲がないっていうか、あんまり言葉にしてくれないから、何してあげていいのかわかんないっていうか……」

「男性って大変なんですね」


 莉子は3人をなだめつつ、ワインを用意すると、カセットコロンロに火を付ける。


「鍋なのに、ワイン?」


 巧の声に、ちちち! と返す。

 ゆっくり運んできたのは、やはり、鍋である。

「じゃーん」と開いても、鍋だ。


「おでん……?」


 九重の声に、莉子はうなずいた。


「おでんです。大根はしみしみ。トマトなど洋風の食材にしましたので、粒マスタードでどうぞ。で、今日のワインは、フランス・ブルゴーニュのワインです。出汁の味とよくマッチするので、ぜひ」


 3人のグラスにワインを注ぎ、そして、おでんも最初だけ取り分けていく。


「めしあがれ。あ、今日はワイン、注ぎにこれるか難しいので、今日のホストは?」

「オレ」

「じゃ、巧くんがみんなのグラスにワインを注いでくださいね」

「はーい」


 男3人の鍋パーティを莉子は次の料理の準備をしながら見ていると、楽しそうだ。

 おでんの何から食べるか、とか、ワインとの相性を楽しんだり、お互いにグラスをアピールしたり……


 かき揚げができたため、天つゆといっしょに運んでいくと、ボトルは半分より下に減っている。


「どうですか、おでんとワイン?」


 莉子の質問に、瑞樹が親指を立てた。


「めっちゃうまい!」


 横に割り込む勢いでグラスを持ち上げたのは九重だ。


「和食とワインが合うって、すんごい感動です」

「だろ? 莉子さんすごいんだよ」


 さも自分のことのように褒めてくれるのは巧だ。


 莉子は3人に笑いながらも、料理を追加し、離れようとしたとき、瑞樹がから声がかかる。


「ね、莉子さん」

「あ、はい、なんですか?」

「莉子さんは、クリスマス、どう過ごすんですか?」


 やっぱり、きたか。

 莉子は思う。

 だが、その質問に答えるだけの予定が、実はない。

 今年は忙しい時期にあり、夜、いっしょに食事ができたら程度なのだ。

 答えになるかわからないが、正直に伝えることにした。


「その、クリスマスが今年、忙しいタイミングなので、食事ができたらする、程度で、予定は立ててないんです」

「え、それって連藤から?」

「どっちは難しいですが、先月の段階でスケジュール確認したら、お互いに忙しかったので」

「じゃあ、奈々美にも、仕事って言おうかな、オレ」


 思わず莉子のチョップが入る。


「めんどくさがらない」

「えー……いやさ、オレが決めると毎年同じだって言うし、頼むと私ばっかりっていうしさー」


 女子あるある、だ。

 これは、莉子も回答が難しい。


「……まだ料理あるんで、持ってきますね」

「「逃げた」」


 瑞樹と九重の声を背中に聞き、莉子は次の料理の準備にとりかかる。

 盛りつけをしながら、ふと思う。


 『ふたりの満足』は、それぞれにあるんだろうな、と。


 悩む時間も、いい時間だと、莉子は思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ