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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第4章 café「R」〜料理覚書〜

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182/218

《第182話》今日は豚汁定食

 天気予報士が言う。『明日は、冬将軍が来る日です』と。

 冷え込みも厳しく、風も強いという予報に、莉子は即座に翌日のランチを豚汁に決めた。


 ボードに『今日のランチ豚汁定食』と書き込むと、準備をしていく。

 本当なら、昨日のうちに作っておき、味を馴染ませるのがいいのだが、そんな時間がなかった……。


「よーし、早起きしたし、がんばるぞー。多めに作って、私のご飯にもするぞー」


 自分で声に出さないと動かないほど、厨房は冷えている。

 意味もなくフライヤーに火を入れておき、鍋に水を沸かしておくが、いつ使うかは、ちょっとわからない。


 すぐに取りかかったのは大根だ。

 銀杏切りにした大根を下茹でしておく。

 理由は、単純に大根臭いのが苦手なのだ。

 そのあとは、白菜、にんじん、玉ねぎ、つきこんにゃくはお湯をかけてから適当に切り、あげもお湯をかけて適当に切っておく。あとはじゃがいもと、長ネギ、最後にごぼうと、厚めの豚バラをたっぷり切っておく。


「よし。やるか」


 大きな寸胴にごま油をたらし、そこにごぼうを炒めていく。

 香りが立ってきたら、豚バラを炒めて脂がにじんできたところで、じゃがいも、玉ねぎ、にんじんに油をまわしていく。

 てらっとしたところで水を張り、出汁の素と、白菜とつきこんにゃくを投入。

 あとは、火が通るのを待ちながら、灰汁をとっていけばいい。


「あ、大根……」


 煮え始めたところで、忘れていた大根を入れ、酒、みりん、味噌をいれて煮込んでいく。

 具沢山すぎて、ほぼ、味噌煮になっているが、かまわない。

 仕上げに生姜とネギを忘れないように、そばに設置しておく。


 鍋がことことしている間に、サバの竜田揚げを作っておくにした。

 下味さえつけておけば、片栗粉をつけてあげればいい。


「あとは……にんじんのツナ和えつくっておこ……」


 ──そうしている間に、ランチタイムだ。

 今日は正午ぴったりに三井と連藤が来店である。


「今日、豚汁定食か。って、白米かよ」

「炊き込みまで、手がまわんなかった」

「文句を言うなら、ビーフシチューにしたらどうだ、三井。ご飯にもあうぞ」

「いや、食うけど。食うけど!」


 強風がひどい今日、客足も遅れ気味だが、少しずつ席がうまりはじめていく。

 みな、来店時には手をこすり、定食を出せば、一番最初に豚汁に箸がのびていく。


「莉子さん、今日の豚汁、いいコクがある。大根もとろっとしてる。おいしいよ」


 連藤の声に、莉子は安心したように笑う。


「連藤さんによろこんでもらえるだけで、元気がでます」


 お冷を足しに三井のグラスに水を注ぐと、


「竜田揚げ、焦げてねぇか?」

「食べる前に言わないでください。下味つけた魚は、だいたいそんな色に揚がるんで」

「なんか、俺にだけ、冷たくね?」

「褒めないからですよ」


 他のテーブルに回りながら、オーダーをこなす莉子の足音を聞く連藤は三井を肘でつく。


「なんで、素直に『うまい』っていわない」

「莉子には、なんか言いづらいんだよ」

「なんだ、それ。星川にもそうなのか?」

「うるさいなぁ……」


 だが思うところがあるようで、黙って豚汁をすすると、大きな口でご飯を頬張る。

 また豚汁を飲み込む。


「……やっぱ、難しいな……」


 うわべだけの関係で、吐くように褒めることができるのに、いざ伝えなければならない言葉がでない自分に、三井は唸る。


「がんばれ」


 連藤のがんばれが投げやりじゃないのが、また悔しい。

 そんないつもの昼下がりは続いていく。

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