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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第4章 café「R」〜料理覚書〜

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《第178話》鶏肉の焼き方

 今日のディナーは、チキンソテーがメインだ。

 すでにフライパンにはマリネされた鶏モモが、じわじわと音を立てて焼かれている。


 今日は連藤と三井が来ている。

 残業もなかった今日、ゆっくりと夕食が食べたいと来店だ。


「今日のチキンソテーはどんなのかな」


 連藤は楽しそうに白ワインを飲み干した。

 前菜として出した生ハムのサラダと、ホタテのグリルをおいしそうに食べている。

 莉子は空いたグラスにワインを注ぎながら、


「鶏皮が美味しいチキンソテーです」

「オレ、もう食いてぇ。もう、15分は焼いてんじゃねーの?」

「これ、弱火で肉が焼けるまでなんで。もうちょっとかかります。今、ゴルゴンゾーラのペンネ、出しますね」


 三井の言ったとおり、今回のチキンソテーは時間がかかる。

 適当に焼き目をつけ、オーブンで焼いても美味しいのだが、皮面をずっと焼き続けると、鶏皮がパリッパリのサックサクに仕上がり、お肉もしっとり焼きあがるのだ。

 だが、本当に時間がかかる。ちょっと厚めの鶏肉にしたのも、よくなかったかもしれない。

 思いながらも、莉子は手際よくパスタを出すと、塩気と風味がいいゴルゴンゾーラで、ワインが進みだす。


「莉子さんは、食べないのか?」


 連藤がペンネを頬張り、微笑んでいる。

 莉子は店内を見回し、連藤の手をなでた。


「今日はまだお客様が多いので。おふたりが食べ終えた頃かな」

「そうか……」


 残念そうに俯いた連藤だが、莉子は接客へとカウンターを出て行った。


「あますなら、オレが食うぞ」

「違う。俺は、莉子さんと、食べたかったんだ」

「うぜぇ」

「それより、三井、最近太ったんじゃないのか?」

「……え」


 絶句する三井に、連藤は笑う。


「声の質が少し変わった。太ったからだろうな」


 慌ててお腹の肉をつまんだ三井だが、それほどの変化はないようにも感じる。


「そんなにかわってねぇぞ?」

「なら、内臓のほうについたんじゃないのか」

「や、やめろよ」


 言いつつも、思い当たる節もあるようで、スケジュール帳を眺めだす。


「最近、ジムは?」

「女とのデートで忙しくてな……。はぁ。明日からでもジム行くかぁ」


 今日が飲み納め。そう言って、さらにワインが飲み干された。

 莉子はすかさず新しいワインを開けて、ふたりに注ぎ、他のテーブルをまわりつつ、メインの盛りつけに取りかかった。

 ベビーリーフと、トマトを添え、フライドポテトを乗せる。

 しっかり肉が焼けているのを確認し、肉の面を下にすると、黄金色の鶏皮が現れる。


「おー、いい感じ」


 莉子は肉の面を少し強火で火を入れてから、皿にのせ、バルサミコをくるくるとかける。

 横にマスタードと、岩塩をそえて、ふたりの前に差しだした。


「はい、チキンソテー。ガーリックトーストもあるので、そちらも召し上がれ」


 さっそくとナイフでチキンソテーにナイフがはいる。

 さっくりという音と、感触に、連藤は驚いきながらも嬉しそうだ。


「いい、焼き加減だな」

「でしょ? 私の今のお気に入りの焼き方です」

「お! うま! バルサミコいいな。ワインくれ」

「はいはい」


 注ぎつつ、莉子も飲みつつ、再び接客へと動きだす。


「今日も忙しそうだな、莉子さんは」


 連藤は足音を聞きつつ、チキンを頬張る。

 マスタードが効いたのか、少し眉間にシワがよる。


「暇よりはいいだろ」

「そうだがな……」

「何が不満だよ」

「不満ではない。が、寂しいと思うことがある」

「へぇ」


 三井はそれ以上言わなかったが、連藤が莉子と描きたい画がわかったからだ。

 それは、ごくごくありふれた普通の画だ。

 そう想像したとき、三井は笑っていた。


「なんだ、笑って」

「いや、お前がそんなこと考えるんだなって。変わったな、お前も」

「そうか? ……そうか」


 連藤は二度言葉を繰り返し、噛みしめる。


「変わるもの、悪くないな」

「確かにな。……あ、莉子、マスタード追加でくれよ」

「あ、はーい」


 莉子は器用に会計をすましながら、マスタードを出してくる。

 忙しく夜が更けていく───

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