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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第4章 café「R」〜料理覚書〜

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174/218

《第174話》お手軽鶏ハムは電子レンジで

 莉子はブチ切れていた。


「あと、一品。あと、一品でいいから!」


 三井のせいである。


「閉店後に来て、これだけ食べて、あと一品ってなに!?」


 カウンターに並べられた汚れた皿は、中華料理がはいっていたのがわかる。

 麻婆豆腐に、エビチリはもちろん、春巻きに、餃子、レバニラ炒めと品数は豊富だ。

 チャーハンもワンタンスープも胃袋におさめたのに、まだ必要とはどういうことか。

 莉子の顔はひきつっている。

 が、理由もわかっている。


 やけ食い、というやつだ。


 珍しく、仕事で失敗したらしい。

 というか、初めて聞いたかもしれない。

 ただ、ストレスは飲食で発散するのは知っていたが、今回はかなり、大食い。むしろ、過食。


「あとで吐くとかないですよね!? 吐かれたら、マジでキレるから」

「もうキレてんだろ。それに、俺は、大食い」


 大食い。

 言葉が頭にはまらない。


「……初めて聞きましたけど」

「よく大食いするやつあんだろ。アレと似た感じぐらいは、食える」

「うそだー」

「なら、これだけ食ってんのは?」


 確かに、麻婆豆腐は3人前はあったし、餃子は2人前、春巻きは10本、エビチリは少なめかもしれないが、チャーハンは2合のご飯で作っていた。


「……たしかに。いや、あたしが見えないカウンターの下に、巧くんたちがいるとか」

「いねーよ!」


 カウンターから出てみたが、店内には三井しかいない。

 今日は連藤は出張に出ているのだ。

 少し前に3人でテレビ電話をしたばかりだ。いや、連藤に慰めてもらったのだ。

 おかげで少し落ち着いた三井だが、あと一品のコールである。


「この瓶ビール、かたしたいんだよ。あと一品頼むって!」


 持ち上げると、冷えた瓶ビールだが、開けたばかりだ。

 いつ開けたのか覚えていないが、三井がきっと勝手に開けたのだろう。


「……割増料金もらうんで」

「わかったって!」


 莉子はカウンターの下にある冷蔵庫の中から、鶏の胸肉を取り出した。

 そこに岩塩を砕いた細かな塩をまぶし、適当なハーブをまとわせる。

 それをタッパに入れ、白ワインを適量注ぐ。

 蓋に水蒸気を逃がす穴が付いているのを開けておき、電子レンジへ。


「……700Wで、1分半、ぐらい? いっとく?」

「お前、それ、料理かよ」

「ふざっけんなよ! 一品作ってんだから、だまってて」


 莉子の叫びに、しゅんと広い肩幅を縮めた三井だが、電子レンジが気になる。

 ぐるぐると回るタッパが見えるが、あれじゃあ、ただの鶏だ。


 メロディが鳴ったのを聞いて、蓋を開けた莉子は、肉を裏返した。

 つついてみて、


「3分ぐらいいっとくか」


 そのまま電子レンジをかけていく。

 再び蓋を開けて、肉をつつき、


「いいかな。ほんとはこれで、30分ぐらい置いておくといいんだけど、めんどうだから、出すね」


 莉子はアチアチ言いながら切っていく。


「はい、即席鶏ハム」


 ビールに合わせてか、あらびきコショウがふりかけられる。


「醤油とか、バルサミコとか合うと思う」


 そういう莉子は胡椒だけでそれをつまむと、ビールを流し込んでいく。


「……かー。うまい。今日の出来、サイコー。超しっとり。でも冷めるとパサパサなるね。ぱぱっと食べて、帰れよ、傷心男」

「なんか、うまく料理に丸め込まれた気がするな……」


 鶏ハムを一口頬張り、ビールを飲み込んだ三井だが、閉店を下げているドアがノックされた。

 星川だ。


「夜更けに、ひとりあぶないですよ?」


 莉子が出迎えると、星川は笑う。


「大丈夫、タクシーできたし。あいつ、やけ食いしてんでしょ?」

「お見通しですね」

「まあね。付き合い長いもの。……ほら、莉子ちゃんに迷惑だから、帰るわよ」


 ぐうっとビールを飲み干した三井は、カウンターに万札を数枚叩き置いた。


「莉子、ありがと。……すっきりしたわ」

「そりゃよかった。あ、この即席鶏ハム、残ってるから、お二人でどうぞ。中華スープとかもいいし、明日の朝のお粥とかに入れても美味しいので」


 素早くタッパに戻し、手渡すと星川は楽しそうに受け取った。


「明日の朝、お粥いいかもね、三井くん」

「うっさい」

「帰ろっか」

「へいへい」


 二人の何気ないやりとりが、莉子は少し嬉しくなる、そんな夜中だが、莉子にはまだ片付けがある。

 ぬるいビールを飲み干し、戸締りを確認すると、片付けにとりかかった。

※鶏ハムはご家庭の電子レンジで簡単にできますが、火の通し加減は、しっかりと確認してください。

※鶏肉は生で食べると、食中毒になる可能性が高いお肉の一つです。

※肉の厚みは均等にした方が火の入りが一定で、扱いやすいです。

 タッパによっては、切った方がやりやすいと思います。

 が、私はいつも1枚をべとんと入れて、ちん!ってしてます……

 味付けも自由です。日本酒のときもあるし、白ワインのときもあるし、みりんのときもあります。

 なんでも酒をいれとけば、うまいです。

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