《第171話》丸鶏を焼きます、平日に。あと、ザジギソースも添えるよ!
莉子は冷凍庫から、化石とも言える丸鶏を取り出した。
明日は定休日だ。
しっかり下準備をして、明日は少し贅沢してみてもいいかもしれない。
「……けど、これ、食べれる……?」
莉子は購入した日を確認するが、思わず絶句だ。
「去年の年末……?」
とはいえ、せっかくなら食べてしまいたい。
だいたい2人分程度の小ぶりの丸鶏だ。
できれば連藤と、ちょっとおしゃれな平日ディナーをしてみたい……!
『肉の冷凍期限』と検索していくと、色々な情報があるのだが、有力情報として、半年程度は鶏肉は保つというのを見つけた。
「まだ、間に合いますね」
実に都合のいいこじつけのような回答だが、莉子には肯定してくれる意見が欲しかったのだ。
これを食べられる、と言ってくれる情報があればそれでいいのだ。
早速と解凍の準備を整えていく────
いつも通りに営業を終えたところで、連藤の来店だ。
今日は、莉子の部屋に泊まりに来る日でもある。
「連藤さん、なにか軽くいりますか?」
「いや、会食で十分。……あ、お風呂、いただいてもいいかな?」
「はい。今、沸いたとこだと思います。先に上に上がっててください。私はここが終わったら上がります」
慣れたもので、連藤は厨房を抜け、莉子の部屋へと上がっていく。
莉子は家のようにすごしてくれる連藤に嬉しくなりながら、素早く店の中を片付けていく。
寝る前のワインを楽しみ、就寝となって、翌朝だが、莉子は張り切っていた。
「莉子さん、今日はなにかいいことがあるのかな」
朝のコーヒーをベランダで飲んでいると、連藤が笑う。
莉子が鼻歌まじりでコーヒーを飲んでいるのが嬉しそうだ。
「今日は、早めにディナーです。丸鶏を焼きます!」
「昨日、ずっと検索していたのも、それかな」
「そうです! ターキーはそれは大変でしたけど、今回は丸鶏。小さいし処理は楽だし、ちょっと豪華」
「それで莉子さんはウキウキしてるのか」
「はい! なので、連藤さん、今日のデザートのケーキ、買いにでかけませんか?」
「いいな、そういうのも」
のんびりと朝をすごし、お昼頃、二人はランチを食べにいくと同時に、ケーキも購入。
帰ってくると、さっそく莉子は丸鶏にとりかかった。
「連藤さんは、適当に休んでてくださいね」
「手伝うが?」
「いいからいいから!」
莉子は解凍された丸鶏に、オリーブと塩、適当なハーブを塗りつけていく。潰したニンニクも擦り付けて、なんとなく、鶏の中に入れておく。
鶏肉は常温にしておきたいため、そのまま放置となったが、次に、鶏の中に詰めるものを作っていくようだ。
今回はガーリックライスに決めたのか、冷蔵庫からたっぷりのニンニクが改めて取り出された。
「昨日のご飯、余ってたよね。これでいいや」
たっぷりのバターをフライパンに溶かし、ニンニクを弱火で炒め、香りをつけていく。
そこへご飯を投入。適当に塩胡椒し、乾燥パセリをかけて、混ぜておけば、完成。
「あとは、オーブンあっためるか………」
その間に簡単な野菜スープと、生ハムのサラダを準備しておく。
さっそくと丸鶏にガーリックライスを詰め、焼こうとしたとき──
「紐がない!」
つい、声になってでてしまった。
颯爽と買いに行こうとする連藤を無理矢理ひきとめると、莉子は繰り返す。
「今日は簡易な丸鶏です。今日は、簡易な、丸鶏、です」
「だが、口を閉めないと」
「爪楊枝で適宜にします」
莉子は爪楊枝をとりだし、皮を引き伸ばして差し込んでいく。
たくさんの爪楊枝が四方八方にささりこみ、ようやく口が閉じる。
手足も本来なら紐をかけて形を整えるのだが、莉子は面倒なのか丸鶏と同じぐらいの大きさの耐熱容器を取り出した。
「ここに形よく入れて焼けば、オッケーじゃない?」
イメージ通りに鶏肉をしまい、莉子は温まったオーブンにそっと供える。
「………あとは、待つだけ。ワイン、探してこよ」
今日は淡白な料理が多い。
白か、ロゼかで悩みつつも、ロゼに決定。
「あ、きゅうりあるから、ザジキソースも作ろう」
莉子はギリシャヨーグルトを取り出した。なければ水切りしたヨーグルトで代用できるのだが、今回はこれがあるので、簡単だ。
きゅうりの皮を剥き、すりおろしに。あわせて、ニンニクもすりおろしていく。
少しのヨーグルトに、ニンニクをよく混ぜあわせたところに、残りのヨーグルトときゅうり、酢と塩、オリーブオイルを入れて混ぜる。
「……これで、完成。なんだけど、辛いソースだわ……」
生のニンニクを入れているため、辛味が強いのだ。
莉子はうーんと唸りながらも、鶏肉と相性がいいのを知っているので、大丈夫だと繰り返す。
「……さ、連藤さん、夕方なので、始めませんか?」
莉子の嬉しそうな呼びかけが、連藤にかかった。





