《第167話》ターキーを焼きます!
今日は14時に閉店。
なので、ランチタイムのみの開店となる。
事前告知していたおかげか、ランチのお客は少なめだ。
とはいえ、巧と瑞樹は来店していた。
「ねーねー、莉子さん、今日のメニューなーに?」
「オレも知りたい!」
「うるさいよ、瑞樹くんに巧くん。メイン、知ってるんだから、それでいいじゃない」
カウンターにへばりついて聞いてくる2人に、莉子は食後のドリンクをとどけ、ため息をつく。
これからの仕事を思うと、莉子は少し憂鬱だ。
やったことをないことをする、というのは、少し億劫なときもある。
「ま、楽しみにしてて、ふたりとも」
「いやさ、連藤がめっちゃ張り切ってて」
「そうそう、もうそろそろ上がってくるんじゃないかなぁ」
「……え? 5時ぐらいにくるって言ってたけど」
そう話しているうちにドアベルが鳴った。
噂の連藤だ。
「莉子さん、ちょっと早いが来てしまった」
「……早く来ても、焼きあがるのはディナータイムですよ?」
「確かにそうなんだが……落ち着かなかったんだ」
少し恥ずかしそうな声に、莉子は小さく笑ってしまう。
「じゃ、コーヒーいれますから、時間までゆっくりしてください」
莉子の案内でカウンターに腰をおろした連藤だが、すぐに巧と瑞樹に質問攻めだ。
だが連藤との話は、ターキーの焼き方ばかりで、他のメニューに関しては相談もなにも話していない。
連藤は首を横に振り、
「時間になれば、わかる」
いれたてのコーヒーをゆっくりとすする。
莉子はその隙にと、昼営業の閉店準備を整えると、クローズの看板を出しに動いていた。
「思えばさ、いつもここ貸切にしてるけど、結構な頻度で貸切にしてるよね」
瑞樹の声に、巧は笑う。
「だって、みんなの食事だからな」
巧の言う「みんな」は「家族」の意味もある。
莉子はその意味を読み取り、改めて今日のディナーを準備しようと、心に決めた。
15時から厨房に入った莉子と連藤だが、改めて今日の人数の確認をする。
「今日は、10人ぐらいでしょうか」
「巧が変に人を呼ばなければ、それで合ってるはずだ」
「……よし。じゃ、まずはオードブルからさばいていきますか」
さすがにコース料理だと莉子が楽しめないということで、基本、大皿料理で対応としたのだが、たった10人、されど10人、意外と手がかかる。
テリーヌの盛り付けから、カプレーゼ、海鮮マリネも準備。
これらは大型冷蔵庫に保管しておけば問題ない。
あとは、ターキーを焼きながら、スープなどにとりかかればいいのだが、ターキーが一苦労だ。
漬け込んだ袋から取り出し、手足を縛り上げていく。
内臓には、ある程度火を通したジャガイモやマッシュルーム、玉ねぎをハーブで炒めたものを詰めておく。
「今日のジャガイモはインカにしたので、ほくほくになったらいいなぁ」
莉子は軍手の上にゴム手を履いてつめているが、連藤は「うまくいけばな」小さく笑う。
「9割火をいれてあるんで、芋が生焼けになることはないから、大丈夫でしょう。とりあえず、皮をパリっと焼きたいですね」
「油をかけながらやるしかないな」
「ですね」
改めてハーブとオリーブオイル、ニンニクをこすりつけたターキーを莉子はオーブンへと突っ込んでみる。
2羽並べてみたが、ギリギリだ。
「……やばかった。1羽ずつ焼くことになるとこだった……ターキーは大は小をかねないもんですね……」
一度、ターキーを外に出し、莉子はオーブンを温めに入る。
現在、17時30分をまわったところだが、莉子は火を入れることに決めた。
「もう焼くのか?」
驚く連藤に、莉子は返事をする。
「小さな丸鶏でも1時間は焼きますからね。ターキーはもう少し時間を見ておきたいです」
「そうだな。じっくり焼く方がいいだろうしな」
ターキーは20分おきぐらいに油をかけるため、タイマーをセット。
これで合っているかはわからないが、やってみるしかない。
その間に、ビーフシチューを仕上げて、ライスコロッケと、グラタンも用意するが、口休めがあったほうがいいだろうか……
「こんなんでいいかなぁ。連藤さん、もう少し、何かあった方がいいです?」
「スナックは?」
「ナッツ類とか、私が好きなポテトチップスと、ポップコーンもあります」
「それなら、問題ないんじゃないか? それよりも、ターキーを見てくれ」
「……どれだけターキーなんですか」
45分ほど焼いているが、ようやく表面に色がついてきたような雰囲気だ。
大きいだけある。
莉子は、少し温度を下げて、時間を延ばすことに決めると、油をかけなおし、扉を閉めた。
「想像よりも時間かかりそう」
「まあ、ピンが上にあがれば完成だから、のんびりしようか。あ、莉子さん、よかったら2人で先に乾杯するとか、どうだろうか」
「連藤さんがそんなこというとは珍しい。なら、自然派ワインの微発泡にしましょ。一応、仕込み、終わってないですし」
「莉子さんにしては珍しいな」
そう言いながら、グラスには淡いレモン色のワインが注がれる。
自然派ワインのため、色が独特だ。
これほど黄色いのだが、白ワインになるそうだ。
「じゃ、前祝い? なのかな。今日のパーティ、楽しみましょうね、連藤さん」
「ああ。今年もみんなで祝えて、莉子さんと一緒に過ごせて、俺は幸せだ。ありがとう」
「ちょっと、なんか、それ、まだ早いですって」
「言いたいんだ。ありがとう、莉子さん」
2人でグラスを掲げ、ひと口飲み込む。
爽やかな酸味と香りが鼻を抜けていく。
なんとなく、2人の指が絡まり、そっと身を寄せたとき、ドアベルが鳴る。
「おい、莉子、ビール!」
莉子の舌打ちが響く。
連藤はグラスのワインを飲み干すと、
「では、莉子さん、ここは頼む。俺は三井とオモテの準備をしよう」
連藤は額にキスをして、厨房を出て行った。
莉子はおでこを撫でながら、
「……がんばろ」
ターキーの焼きの仕上げにとりかかる。
一年ぶりの更新がクリスマスメニューという
本当に申し訳ありません……!





