《第165話》ターキーの焼き方とエスカルゴ風マッシュルーム
翌日、連藤さんが来店してくれたので、なぜか3人でターキーの焼き方を決めることになった。
「ターキーの焼き方は結構種類があるんだ。マリネするやり方や、中身の詰め方も異なる」
「やっぱ向こうに行ってたとき、焼いたりしたわけ?」
三井が連藤に言うと、連藤はうなずき、ワインを飲み込んだ。
今日のワインはイタリアだ。
甘めで重い、濃厚ワインである。
「サンクスビギングでは焼くし、クリスマスも焼いていたかな……。だが周りに聞けば聞くほどやり方が様々で、俺はマスターできないまま帰国したようなものだ」
「ど定番家庭料理だからでしょうかねぇ」
莉子が一皿つくって差し出したのは、エスカルゴ風マッシュルームだ。
「そんな感じかもしれないな。……今日の料理は?」
「エスカルゴ風マッシュルームです。マッシュルームのいしづきをとって、その中にすりおろしたニンニクと、お手軽に乾燥パセリ、あとちょっと塩を混ぜたバターを塗り込んで焼いただけ。なんですが、絶品なんで!! パンもあります。マッシュルームの水分とバターが混ざって、すごいソースなので、ぜひつけても召し上がってみてください」
三井はマッシュルームをフォークにのせると、一口で頬張った。
「……あ、あつっ、はっ」
「汁がすごい攻撃的なので、気をつけてください」
三井の惨劇を音で聞いて判断した連藤は、そっと皿にのせ、少し冷ましてから頬張る。
「……あぁ、これはこれで美味しい。エスカルゴ風でも、マッシュルームの風味がしっかりバターに溶けててうまいな。ワインにも合う。これ、来週のクリスマス会に出してくれないか?」
「わかりました。エスカルゴ風マッシュルーム……と、メモしとかないとメニュー忘れるんで……」
莉子がスマホに書きこんでいると、三井が「ん」とグラスを前にだした。
「自分で注いでくださいよ。それぐらいできるでしょ?」
「は? 俺、客だけど」
「は? 今、もう閉店してるんですけど」
莉子の方が強かった。
三井は自分に注ぎ、さらに連藤にも注ぎたすと、ほどほど冷めたマッシュルームをまた口へ運んでいく。
「この料理、スキレットにぎゅうぎゅうにマッシュルーム詰めても、すんごい縮むからスカスカに見えるのが難なんですよねぇ……」
「それはしょうがねぇな。で、ターキーどっやって焼くんだよ」
「うん……」
連藤は一度返事をしてから、ワインを飲み込んだ。
「ターキーをピックル液につけるやり方はどうだろう……」
「なんだ、そのピッコロみたいなやつ」
「ピックルな。よく燻製でつかう液なんだが、ピックル液は塩や香辛料がはいる。その液に食材を漬けることで、水分をほどよく抜いて下味をつける効果と、食材の水分を適度に守る効果がある」
莉子がメモをしていると、再び連藤が続ける。
「スタッフィングは、芋などを炒めたものを入れるんだが、これはやめよう。パンを使ったものは、あまり美味しいとは思えない」
「なによ、そのスタッフって」
「スタッフィングな。鳥の腹は内臓がなく空洞だ。そこに食材を詰めることをスタッフングという。フレッシュな香草だったり、それこそパンにセロリなどの香草混ぜてから詰めて焼いたりするんだ」
莉子はメモを終えたのか、ぐびっとワインを飲みこみ、うなずいた。
「オッケーです。これは仕込みけっこう大変そう。三井さんも手伝ってね」
「この師走に俺を使うとか、どうかしてるだろ」
「三井、俺が手伝うんだ。お前だって手伝えるぞ」
「……やめろよ。肩、叩くなよ……」
「さ、三井、明日から仕事、本気で頑張ろうな!」
「連藤、にっこり笑うのやめて……なんか怖いから……!」
師走は1日の時間を作るのが本当に難しい……。
だけれど、すべて、金曜日のクリスマスのため!!
莉子も手早くパンを口に放りこむと、厨房へと向かう。
「2人で適当にやってて。私は明日の仕込みやるから」
置いてかれた2人だが、パスタにチーズがあるため、チビチビと飲むことにした。





