《第164話》ターキーの丸焼き
今年のクリスマスは七面鳥を焼こうということに。
肉は巧が持ってくるということだが、今日の持参の予定。
ちなみにクリスマス会は来週になる。
「莉子さん、いるー?」
閉店時間のあとに裏口から声をかけてきたのは巧だ。
後ろに瑞樹もいる。
「いるよー。お茶でも飲んでってよ」
「どうする、瑞樹?」
「オレ、カフェオレ飲みたい」
裏口から2人をあげるついでに、巧から七面鳥を受け取った。
「重っ」
搬入口にある秤にのせると、4キロ超え……
とはいえ、足りるのだろうかと莉子が思っていると、瑞樹からもう1羽渡される。
「……ですよね」
今回のクリスマス会は忘年会と合わせて行う予定だ。
日程は、12月の2週目。少しクリスマスより早いが、年末になればなるほど忙しくなる。
そのため中途半端であるものの、2週目の金曜日が決行の日となっている。
莉子は巧にコーヒーを、瑞樹にカフェオレを渡す。
莉子もコーヒーに口をつけると、3人同時に息をついた。
「やっぱ、莉子さんもあれ、重い?」
巧の言葉に莉子も鼻で笑う。
「あれ、軽いとは言えないよね。ふつーにやばいよ、あの鶏肉。あれが生きて歩いていたと思うと、結構な迫力だよね」
「あ、莉子さん、生きてたとかやめて。オレ、そういうの弱い」
瑞樹が嫌そうに顔を歪めてカフェオレを飲み込んでいる。
「でも莉子さん、あれさ、どうやって調理するの?」
瑞樹の声に、莉子はうなる。
「……それが私も初めてだから、どう焼こうか悩んでるんだ」
「莉子さんでも悩むんだ」
「巧くん、人間、なにごとも初めては緊張するものです」
「てっきり、とっくに焼いたことあるのかと思ってた」
「いやいや……。でも今回のターキーは楽チン」
「なんで?」
体をずいと寄せた瑞樹に、莉子は自信満々に言った。
「ホッパーがついてる!」
「「なにそれ」」
「よく聞いてくれました」
莉子はすばやくスマホを操作し、七面鳥を画面に出した。
すると、肉の一番厚めの部分に、プラスチックでできた画鋲のようなものが刺さっている。
上は赤く、刺さっているところは白い。
「なにこれ」
巧の声に莉子は鼻で笑う。
「私もよくわかんない」
「「は?」」
「いや、肉が焼けると、この赤いてっぺんがポコって上に上がるんだって。どういう仕組みかわかんないってこと」
「へぇ〜便利だね!」
瑞樹はカフェオレを飲みおえたのか、ひとり満足げだ。
「まだこれがあるから、生焼けはないだろうけど……味のつけ方だよね」
「それは、連藤に相談なんじゃない?」
巧はよくわかっている。
こういう料理のときこと、相談相手はしっかり確実な人を選ぶべきなのだ。
「しっかり調べて、連藤さんと検討するよ。ま、来週楽しみにしててよ」
莉子がコーヒーを飲みおえたと同時に、巧もカップをカウンターに置いた。
すぐに2人は立ち上がり、上着をはおる。
「じゃ、莉子さん、また!」
「明日のランチは来れるから〜」
30分も滞在していただろうか。
現在22時過ぎ。
車は再び会社の方へと移動していく。
「師走は本当に忙しない時期で嫌い……本当に休めないもんな。私も明日の忘年会のために、仕込みしますかぁー!」
再び厨房へと莉子は戻る。
だが、楽しみがあるのはやる気になる。
来週のクリスマス会のメニューも想像しながら、莉子は続きの仕込みに手をつけることにした。





