《第161話》莉子の定休日
冷え込んだ朝だが、今日は定休日だ。
莉子はもぞもぞと布団からはいでると、素早い動きで電気ケトルに水を注ぎ、スイッチを入れ、再び布団の中へ。
「お湯が沸けるまでぇ……」
体を温めなおしていると、スマホが震える。
見れば連藤からだ。
「朝からなんでしょう……」
『おはよう。今日は午後から休みをとった。14時にはうかがう』
「……え? 夕方からって言ってたじゃん……」
莉子ののんびり片付け予定が、ガラガラと崩れた瞬間だ。
夕方から来てくれ、とは言いづらい……
「嬉しいけど、なんか、うぉぉぉおっ!」
莉子は無理やり体を起こし、手早く着替え、顔を洗う。
もうお湯が沸いているので、それでコーヒーを入れ、口をつけてから返信だ。
『今日は早めに鍋でも食べましょう』
送れたのを確認し、莉子は立ち上がる。
「……よし、片付けるぞ……」
床掃除からトイレにお風呂、洗濯をこなせば、もう11時……
「時間経つの、はや……」
莉子はもう一度コーヒーをいれると、片付いた部屋のソファに腰を下ろす。
「まだ、時間あるから、どうしようかな……」
適当な映画をつけると、お湯をわかしはじめた。
「今日のお昼は、カップ麺でいいや」
このたまに食べるカップ麺のうまさ、わかるだろうか。
ただのシーフードヌードルなのだが、うまい。
このジャンク感が、うまい……!
たまたま再生を押したのは、『がっこうぐらし』という映画だ。
元は漫画でアニメ化もしているという。
それの実写版があるのだ。
「ネットではキャベツが作画崩壊って見たから、それを楽しみにしようかなぁ……」
ちゅるりとすする。
意外と男先輩の演技がいい。
一番演技がうまいっ──!
「……はやく、ゾンビ出てこないかなぁ……」
回想シーンからの、ゾンビ演出に、ほほぉと思いながら、キャベツは普通のキャベツにちょっと残念になり……
そうして見てる間に───
ピンポンっ!
「うぎゃぁ!!!!!」
階段を駆け上がってくる音が聞こえる。
「……莉子さん、どうかしたか! 今、悲鳴みたいな……」
「いや、なんでも……なんでもないです……なんでもないです……!」
すばやくテレビは消したものの、ゾンビ映画を見ていたからだとは、ちょっと言いにくい。
「あー……連藤さん、コーヒーでもいれましょうか……」
「……ああ、うん…」
腑に落ちていない連藤と、まだ心臓の鼓動が激しい莉子の、ふたりの時間が、これから始まる───!





