《第160話》台風がきます……
みなさん、ご安全に!!!!
「これで準備万端ですかね……」
莉子はカフェの窓に養生テープを貼り付け、さらにシャッターをおろし、2階の窓にも同じように準備をしておく。
厨房内は窓がないため、ちょっとした貴重品などは食品庫に、椅子やテーブルも詰めれるだけ厨房の中へとしまい込んだ。
これだけでもかなり骨がおれたが、何かがあってからでは遅い。
だいたい、これで問題がないのかもわかりかねるが、やれるかぎりはやっておこうというのが莉子のやり方だ。
「あとは、このリュックを持っていけば問題ないかなぁ」
今日は連藤の家に退避することが決まっている。
昨日は高価なワインを連藤のセラーへと移動し、今日はこれから三日間臨時休業のため、腐りそうな食材と手頃なワインを連藤の部屋へと運ぶ作業となる。
スマホが震えた。
『外で待ってるぞー』
三井からだ。
莉子が大きなリュックを抱えて出て行くと、目の前に三井の車がある。
荷物ごと車に乗り込むと、助手席に巧が、となりには瑞樹がいる。
「俺たちも連藤の家に退避組」
巧の嫌そうな声を聞き、莉子は首をかしげると、
「会社の近くになるだけいるようにって、巧はね。おれは巻き込まれた人」
「なるほど」
「よし、でるぞー」
三井の声で動き出した車に揺られながら、店を独りにさせることに莉子は申し訳ない気持ちになる。
「莉子さん、寂しそうな顔だね」
瑞樹の声に莉子はうなずく。
「お店、1人で頑張ってもらうからね。前の大雨の時もそうだけど、心配だよね」
「莉子さんはなんでも擬人化しちゃうんだね」
瑞樹が笑ってくれたので、莉子も笑ってしまう。
たしかに擬人化しているのかも。
でも、たくさんの時間をあの場所で過ごしてきた莉子にとって、それは普通のことなのかもしれない。
「今日は停電の可能性もあるし、もう少し準備必要だなぁ」
巧の声に三井は笑う。
「巧は楽しそうだな」
「なんか、キャンプな感じしない?!」
その言葉に呆れたのは瑞樹だ。
「家が吹っ飛ぶかもしれないのに、のんきだよね、巧って」
「こういうのは、どっか楽しんだほうがいいんだよ! ま、しっかり準備してだけどなっ」
巧の考えも一理あるかも。
莉子は妙に納得しながら、スマホを覗く。
「……あ、連藤さんからね、今日はコロッケだって。コロッケは冷めても美味しいからいいよね」
莉子の声に、三井が頭をひねっている。
「連藤のコロッケは、お洒落感があるからなぁ……白がいいかな……」
「三井さんは星川さんといっしょじゃないの?」
「あー、あいつは実家に戻ってる」
「へ?!」
「勘違いすんなよ。台風だから戻ってんの」
「はぁ、なるほど」
これから来る台風に、どういう心構えでいればいいのか迷いながらも、準備は万端に。
少しでも不安や心配が薄まるように───
どうか大きな災害になりませんように……





