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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第3章 café「R」〜カフェから巡る四季 2巡目〜

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《第159話》バーベキューのその後……

 バーベキュー自体は、それなりに終わった。

 やはり連藤と三井のコンビは最強だった。

 連藤が用意した肉の大きさはもちろん、三井の焼き方はすばらしくおいしかった。

 あの彩華嬢もぶつくさいいつつも、しっかり召し上がられてから帰られたのだが、その食事中は女子会と化していた───


「はーい、ここから彩華が直さなきゃいけないことについて、女子が鋭く考えていこう! あんた、誰からもダメ出しなんてされたことないでしょ?」


 星川主導のもと始まった女子会だが、彩華が直さなければならないこととして、まず『謙虚さ』が。

 次に、いくら婿をもらうつもりでいても、尽くせない女は魅力がないということで、星川が『尽くされる女になれ』と伝える。


「意味がわからないわ。尽くす女にならなきゃいけないんじゃない?」

「違うんだよ、彩華。自分が尽くすだけじゃだめなのよ。相手にも尽くされる女になるのが大事なのよ」

「え、星川さん、それ、すごい名言だと思う! もっと詳しくっ!」


 食いついたのは優だ。

 莉子もみんなにお酒をくばりながら、聞き耳をたてる。


「尽くされるのが好きな男は多い。だから尽くしてやればだいたい男は満足よ。だけど、うまく扱えば、向こうも尽くすようになるわけ!」


 これはあくまで星川の経験談だが、


「男を褒める! やってくれたことに感謝する! だいたいこれだけでうまくいくことが多いけど、まずはそういう男を見つけることが大事ね」



 結局、そこかよ!!!!



 というツッコミはおいておき、褒めて褒められ、感謝し感謝し合う関係というのは、当たり前のようでできないことも多いもの。

 星川の声を改めて胸に刻んだ莉子は、連藤との関係をもうすこし丁寧に過ごしていきたいと思う。




 ………そんなバーベキューを過ごした翌日。




「なんで彩華さん、うちのカフェに来るんですか……」


「星川さんから聞いたのよ。あなたを見れば学べるって」


 うまく逃げたな……


 莉子は星川を呪いつつ、もし居座る気なら、カウンターの端に座ってと伝え、いつもどおりに仕事を始めた。


 ……が、視線が気になる。

 熱視線というのは、このことを言うのだと思う。


 莉子は負けない鋼メンタルを起動し、ランチメニューをこなしていく。

 そのうちに、いつもどおりに現れたのは連藤だ。


 莉子はドアベルを鳴らした連藤を迎えると、慣れた動作で手をとり、席をすすめる。


「お疲れ様、連藤さん。ランチは?」

「あ、莉子さん、ありがとう。今日のパスタはなにかな?」

「今日はペスカトーレですね」

「……そうか。では夜にビーフシチューにして、ランチはそれにするかな」

「かしこまりました。少々お待ちくださいね」


 この会話の間に、連藤のジャケットをハンガーにかけてあげたり、連藤は莉子をいたわるように肩に手を添えたり、お互いに存在を確かめながら動いていた。

 彩華はそれを見て、半ば感動を覚えた。



 自分はなんて浅はかだったのだろう……



 そう思って後悔していた。

 データの人物しか知らなかったのを目の当たりにしたのだ。

 知ったつもりでいたが、()()()()()()()()()



 自分の価値観が、ぐらりと崩れていく。



 人を知ることの大切さをこんこんと話されたが、こういうことだったのか。と、彩華は思う。

 百聞一見に如かず。とはまさにことのことで、1つも理解も納得もしていなかったが、この光景を見たら、理解せざるをえない。


 相手の好きなもの、興味のあること、全て調べてそのとおりにこなしていた。

 だけれど、1回目は喜ばれても、2回目はそれほど喜ばれなかった。

 その理由が今わかった。

 気持ちがなかったからだ。


『この調べどおりにしていれば、嫌われない』



 確かに、嫌われはしなかったが、好きにもなってくれなかった───



「彩華さん、何か冷たいものでも飲みますか?」


 空のグラスにきづき、声をかけてきた莉子に、彩華は小さく頭を下げた。


「……わたくし、何もわかっておりませんでしたわ……今まで、データとお付き合いしていたのですね……出直して参ります……」


 しおらしくなった彩華は支払いを済ませ、店を去っていく。

 その瞬間、そっと連藤の耳元になにか囁いた───


 小さく手を振り去っていく彩華に、莉子は会釈をする。

 だが、囁きが気になって仕方がない。

 しかし今やらなければならないのは、ランチメニューをこなすこと!


 気になりながらの作業は手元が狂うもので、少々の失敗が続いたが、いつものことだ。

 なんとかピークを乗り越えると、莉子は食後のコーヒーを連藤にだし、カウンターに肘をついた。


「あのぉ、さっき、なに囁かれてたんですか……?」

「……気になるか?」

「当たり前じゃないですか!」


 連藤は莉子の方を向いて、にこりと笑う。

 ふくらんでいる頬を指でなで、連藤は言った。


「『莉子さんを大切にしてください』だそうだ」


 その言葉に、莉子はふんと鼻で息を吐き、


「今度来たら、コーヒーぐらいはご馳走しましょうかねっ」


 怒っているのかなんなのか。

 食器の片付けへと動き出す。

 連藤は莉子の後ろ姿を眺めながら、ひと口コーヒーを飲み込んだ。



「……大切なんて言葉じゃ、軽いな、俺には……」



 湯気に話しかけ、連藤はうっすら笑い、またコーヒーに口をつけた。


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