《第155話》今日は貸切!
莉子は15時となり、仕込みの準備に取り掛かった。
今日はカフェを16時までとし、18時からは貸切。
そのための料理の準備だ。
まず、鳥もも肉を少し大きめの一口大に切り落としていく。
次に、醤油、酒、たっぷりのすりおろし生姜にすりおろしにんにく、ちょびっとみりんと、塩胡椒をまぶし、揉み込んでおく。
「……で、いいかな、唐揚げだし」
今日は珍しく三井、連藤の他に、巧と瑞樹の4人で来店だ。
そのリクエストが、大量の唐揚げ、だった。
「でも急に、なんでこんなに唐揚げなんだろ……?」
莉子は疑問に思いながらも準備を整え終えると、冷蔵庫の確認だ。
「……なんだっけ…ちょっとしたサラダもあったらいいんだっけ……。こういうさ、ちょっとした、とかって、あいまいで、ブチギレそう……」
いいつつも、冷蔵庫の中には葉物野菜と根菜類が用意済みだ。
「今日はカブのサラダにしよ」
メニューを決めた莉子は、井戸端会議に夢中な奥様方をながめながら予定を組み立てていく。
「来る30分前ぐらいから揚げていきますか……」
時間通りに店を閉めた莉子は、4人が囲みやすようにテーブルを組み、そこに皿などを用意していく。
他に唐揚げに合いそうなスパイス類、ケチャップやマヨネーズも準備をしておく。
しかし今日は台風後のため、蒸し暑い。
「こんななか、唐揚げって……自殺行為だわぁ……」
時刻を見ると17時をすぎたぐらい。
「先にサラダだけ作っておこ」
カブをスライサーで薄くきり、葉野菜の上に並べる。
提供する直前に、炒っておいたくるみを割りながらふりかければ完成だ。
ガーリックフライも考えたが、唐揚げでたっぷりにんにくを使っているので、そこまでスタミナを……
「つけたほうがいいのかな……? みんな夏バテ気味……とか」
ということで、後付けでガーリックフライを添えておくことに決める。
時刻は17時30分になるころ。
まずは唐揚げのための下準備だ。
厨房にエイアコンを入れる。
直接風が当たらないガス周りはほのかに涼しい。
「今日の唐揚げは3度揚げなので、さっそくは始めていきますかぁ……」
フライヤーに唐揚げを入れていく。
小ぶりでもフライヤーがあるのはかなり助かる。
油の温度も一定に保てるし、何より大量の揚げ物にはもってこいだ。
美味しい唐揚げのコツは、『揚げて休ませる』こと。
1回揚げ、休ませ、また揚げ、休ませ……とすることで、衣はサックリ、お肉がジューシーに仕上がる。
莉子は丁寧に唐揚げを揚げていく。
だが3キロの鶏肉を揚げおえなければならない。
これは気合の作業だ。
「あっつ……死にそう……」
ときおり水を飲みつつ、エアコンにあたりつつ揚げ進めていると、ドアベルが鳴った。
一旦鶏肉を引き上げ、莉子は厨房を出ると、へばり顔の4人がいる。
「お疲れ様でした。氷のラックの中にビールとカバ、冷やしてあります。お好きなのを」
さっそくとハートランドの瓶に4人は手をかける。
三井が手際よく栓をはずし、無言の乾杯のあと、一気に飲み干していく。
「……ぷはっ…は……今日は死ねるぞ、マジ」
暑いの大好き三井でも、今日の暑さは辛いようだ。
「今日唐揚げなんですが、大丈夫ですか……?」
莉子が言うが、
「そこは問題なしっ! 本当にありがと、莉子さんっ!」
感激の顔で手を取るのは巧と瑞樹だ。
「どうしても唐揚げ食べたくって……な、巧!」
「家でもなかなか作れないからお願いしちゃって、本当にありがとう、莉子さんっ」
「でも、シニア組はげっそり顔ですね……」
三井と連藤は食べる前から油にやられた顔をしている。
「莉子さん、もしできたら、お酢やポン酢のようなものがあると嬉しいんだが……」
すこしでもさっぱり食べたいと表情が訴えている。
「はい。大根おろしもつけますね」
一瞬にして連藤の顔が輝いた。
よっぽどさっぱり食べたかったようだ。
「じゃ、仕上げてきますので」
「あ、莉子さん、手伝うっ」
「オレもオレも!」
瑞樹と巧がついてくるので、冷蔵庫にあるサラダを出してもらったり、大根おろしを作ってもらっている間、莉子は唐揚げの仕上げにかかった。
「ちょっと高めの温度で1分ほど揚げていきますよ……」
もう莉子の顔は油でぎっとり。
さらに揚げ物の熱で顔が赤い。
「……できあがりました」
大皿に盛り付けた唐揚げは、ジウジウと鳴いている。
油の熱がまだ生きている熱々の唐揚げだ。
「さ、さっそく食べましょうか」
いいながら莉子も席につくと、改めてビールが配られた。
「よし、今日は唐揚げでスタミナつけるぞー!」
巧の発声で、今夜の唐揚げパーティが始まったのだった───





