《第152話》=特別編= ジム仲間とカフェでご飯です by至視点
「異世界だろうと、ここをキャンプ地とする!」の主人公至が、連藤とともにカフェに来店。
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キャンプだったらどんな料理とワインを持っていくか。
なぜか連藤さんとそんな会話になり、2人であーだこーだと意見を出し合う。
「メインの料理がバーベキューなら、アメリカとか、どうだろ」
その連藤さんの意見に、
「でも、アメリカってめっちゃ度数高いから、結構ガッツリきちゃうしなぁ」
俺はすっきり「うん」と言えない。
確かに牛肉なら間違いなく似合う!
ただぐびぐび飲むとそのまま死ぬので、よろしくない。
「それならニュージーとかどうです?」
莉子さんだ。
両手にはラムチョップのステーキだ!
「フランスはおいしいんですけど、そんなに気軽さはないし。イタリアもいいけど、例えばジンギスカンとか、そういうのはニュージーも似合うかもって」
さらに盛られたラムチョップのステーキは香草の香りが引き立っていて、最高に美味しそう!
さっそくと、ナイフを入れると、肉は柔らかい。
脂身の方はカリッと火が通されていて、食感も楽しそうだ。
断面を見ると……
「すごっ! いい焼き加減っ」
思わず声を上げてしまうほど、表面はしっかり焼き付けられ、中は桜色にそまり、ちょうどいい火の加減だ。
ひと口頬張ると、獣臭い匂いが一瞬するが、すぐ甘みのある脂が口に広がる。
さらに、肉は柔らかくほろほろとほぐれて美味しい。
塩もミネラルのある塩のよう。特別なソースはなくても、しっかりマリネされたお肉はこんなにおいしいなんて!
「めっちゃ、美味しいです、莉子さん!」
俺が興奮気味に言うと、ワインを注ぎ足しながら莉子さんが笑う。
「それならよかった。もう店もクローズにしたからゆっくり食べてください」
添えられたポテトもしかり、いんげんのソテーもしかり、簡単な付け合わせだけれど、とても食感よく、さらにワインによく似合う。
ローヌのワインは個人的な意見だけど、ちょっと田舎くさいワイン。
エレガントさはシャトーヌフぐらいになればあるけれど、普通のローヌなら、果実味いっぱいの味とスパイシーな香りが口いっぱいに広がる。
その香りと味が好きでよく飲むけれど、こういう獣臭い肉には、本当に似合う。
「手頃な金額で、それなりの味が飲めるのがローヌの面白いところだな」
連藤さんの言葉に思わず頷いた。
「ほんと。度数もそんなに高くないし、旨味はあるし。やっぱり、キャンプに持っていくなら、これじゃないです?」
「前、持って行ったのもローヌのワインなんだろ?」
「もちろん! 赤ワインたっぷりのカレーに合わそうと思ってたんで。でも、そこの地鶏と合わせたらめちゃくちゃ美味しくて! ほんと、あのコカトリス、もう一回食べたい」
「こか……?」
莉子さんの声が聞こえる。
俺は慌てて言い換えた。
「ウコッケイ!」
「なんか変な鳥の名前だから、驚いちゃった」
莉子さんは笑いながらワインをぐいっと飲み込んだ。
グラスの持ち方も、飲み込み方も、慣れた感じだ。
いつもこうしてふたりで飲んでるんだろうか。
「ふたりで、いつも飲んでるの、わかります」
聞こうと思ったのに、なんでわかるなんていっちゃったんだろ、俺。
だけど、俺の言葉に連藤さんが笑う。
「いや、莉子さんは毎日カウンター越しに飲んでるからな」
「全部、味見ですから。店主として当たり前のことをしてるだけです」
莉子さんが言い切ったとき、後ろからベルの音がする。
「あ、ラザニア作ったんで、それ食べません?」
莉子さんはグラスを置くと、素早く取りに厨房へ戻っていった。
「彼女、忙しないだろ?」
「でも、連藤さん、嬉しそうっすね」
「俺は莉子さんの足音が好きなんだ。動いてる足音。彼女がそこにいるのがわかるだろ? 俺は目が見えないから、存在は音でしかないんだ。だからゆっくり落ち着いている人より、パタパタ動く人の方が俺は好きだ。彼女に出会って気づいた」
目が見えないはずなのに、連藤さんの目は莉子さんを見てる。
間違いなく、視線がある。
やっぱり、このふたりの関係、めっちゃ憧れだわぁ……。
「おまちどうさま! トマト味の肉たっぷりラザニアです。絶対ワインに合うから!」
莉子さんはさらに取り分けてくれたけど、すぐに頬張れない熱さだ。
なんとか息を吹きかけ頬張ると、じんわりとあまくって、それでいてちょっとだけスパイシーで、食感のいい肉の形が残ってる。
「莉子さん、これも美味しいですっ」
再びワインを飲み干した。
飲みっぷりがよかったのか、莉子さんは笑う。
「こんなにゴクゴク飲む人、なかなかいません。至さん、お強いですね」
「へ? いや、間違いなく莉子さんの料理がうますぎるんですよ!」
「それは言えてる。俺も気を緩めて飲むと、グラス5杯飲んでることもある」
「ほぼ1本飲んでるっすね」
「そうなんだよな……ワインは翌日残りにくいからいいんだが、ほんと飲みすぎるのは注意したい」
「でも明日はお休みですから、ゆっくりしてってください」
言いながら莉子さんは新しいボトルに手をかけている。
「この赤ワイン、ローヌではないんですけど、イタリアのワインで、味が濃くていいんですよ。ちょうどラザニアに合うのでぜひぜひ」
────連藤さんに連れてこられたcafé「R」は、本当に素敵なお店だった。
リーズナブルな料理にワインが楽しめて、しかもオーナーの莉子さんは気さくな方だし、特に料理は美味しいし。
「連藤さんの会社、近くて羨ましい」
俺の会社も近かったら、間違いなく通ってると思う。
それぐらい、居心地のいいカフェだった。
「……次はアメリカかなぁ。がっつりしたの飲みたいな。あれなら厨二も喜びそうだしな」
帰り道につい口走る厨二の呼び名。
1人暮らしが長いと、独り言がかなり増える。
「はぁ……はやくスルニスに会いたいなぁ……」
俺の願望は近々叶うのだが、そんなところで叶えて欲しくはなかったと思っている。
会社で『魔法使い』と呼ばれることになるのは、この出来事のせい。間違いなく。
ま、この話は、また別のときに────
特別編、完結!
異世界だろうと〜は、異世界へ行ってしまった至が、キャンプして帰ってくる話になります
気楽に読める作品です(*´∀`*)完結済み
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