表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第3章 café「R」〜カフェから巡る四季 2巡目〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

145/218

《第144話》久しぶりの開店

 莉子と連藤の2人の連休が明けた今日は、夜からの営業だ。

 いつも通り店には仕事帰りの方々が入れ替わり、立ち替わり席を埋めて、離れていく。


「……で、莉子、体どうよ」


 そういうのは三井だ。

 なんだか久しぶりな気がする。


 莉子はそう思いながらも、連藤と並んで座った三井に「何が?」と返事をした。


「いや、連藤、やたらと肌艶いいんだよ。お前の精気吸い取ってんじゃねぇかなって」


「あ、確かに顔色良くなりましたもんね」


 莉子は連藤に赤ワインを差し出して、そう言った。

 今日のワインは北海道のワインだ。品種は北海道らしいドイツ品種のワインで、香りは華やか。飲み口は軽く、度数も低い。渋みも滑らかで、甘みを感じやすいワインのため、するすると飲めてしまうのが難点だろうか。


「思えば莉子も顔色が良くなってるし、お前ら、()()()()()


 にやりと微笑む三井に、莉子が何を頑張ったのか首を傾げていると、連藤は胸を張った。


「ああ、莉子さんとの夜は、今までにな」


 無理やり口が塞がれたので、それ以上語られることはなかったが、莉子が連藤の手をつねり、お仕置きしているのはよく見える。


「なんで連藤さんはペラペラペラペラと……!」


「いいじゃねぇか、減るもんじゃねぇし」


「私の心が減るのよ、心が!!!」


「莉子さん、何も恥ずかしがらなくても。こういう情報の共有はいざというとき役に立つことが多いんだ」


「それはどんないざってときなの? ねぇ?」


「莉子、グラス空いたぞぉ」


「水でも飲んでろ、エロバカ!!」


「俺がエロバカなら、連藤はエロ黒メガネだな」


「俺はするときはメガネは外す派だ」


 メガネを上げ直した連藤の手を莉子は再びつねるのだが、懲りていないようだ。

 そんなお客の落ち着いた店内で、莉子も同じワインを傾けだした。

 なぜなら本日のメニュー、『ジャガイモのチーズ焼き』ができたのだ!

 至極簡単な料理で、茹でたジャガイモにチーズをのせて焼いただけ。

 アクセントに胡椒とバターが添えられる。


「莉子さん、今日のジャガイモは何かな?」


「今日の芋はキタアカリって品種で、甘みの強い品種なの。煮るとすぐ溶けちゃうから、ボイル系の料理がオススメ。だから今日はボイルしてからチーズをかけて焼きました」


 莉子はよくチーズのかかったジャガイモをとりわけ、連藤の前へと差し出した。

 連藤はそれをフォークですくい、口に頬張ると、すぐに微笑んだ。


「……これはとても甘いジャガイモだな」


「ほんとだな、連藤。しかも、ワインに合うな」


「やっぱりドイツ品種だからかな。北海道の特産品とすごく合うんだよね」


 3人でジャガイモを頬張り、ワインを飲み込む。

 本当に手の込んでいない簡単な料理なのだが、それがとても美味しく感じるのは、素材がいいだけではないのだろう。

 三井は芋を眺めてから、莉子へ向いた。


「あれ、もっと黄色い……インカってジャガイモあるだろ? これはあれとは違うのか?」


「おお、三井さんからそんな質問が出るとは」


 莉子は追加に焼いたウィンナーを差し出し、それを一口頬張ってから喋り出した。


「うんとね、インカのめざめより、このキタアカリは薄い黄色なんだ。だからかインカよりも甘みは薄くて。

 でもだからチーズに合うと思う。インカももちろんチーズに合うけど、甘みが強く感じる人もいるから。

 このホクホク感とほんのり甘い感じは、キタアカリにしか出せない味だと思うよ?」


「へぇ……今度気をつけて見てみるわ」


「見てみるって、お前がスーパーに行くのか」


 連藤は芋とウィンナーを器用にフォークに刺すと、一口で頬張った。

 ウィンナーの塩気で芋を食べているのだろう。

 すぐにグラスが空になる。


「俺だってスーパーぐらい行くぞ?」


「へぇ。今まで行かせてたのに?」


 莉子がつっこむと、三井は「心変わりだ、心変わり」そう言ってグラスを空にした。

 莉子は2人のグラスに追加のワインを注ぎながら、


「今日は2人とも、よく飲みますね」


「そうか? 俺は久しぶりだからな、ここ」


「俺はカウンターで飲むのが久しぶりだかな」


「ほんの数日閉めただけで、何言ってんだか」


 莉子もワインを飲み干すと、自身でワインを注ぎ込んだ。

 濃い赤色が食欲をそそり、香りが飲めと囁いてくる。

 甘い果実味の香りが、ジャガイモの香りと重なって、ワインがソースに思えるほど。


「いやぁ、北海道のワイン、たまに飲むと美味しいですね」


 2本目に手を伸ばしたとき、三井が呟いた。


「……なあ、巧と奈々美の話、聞いたか?」


「何のことだ?」


「あいつら」



 ───まさか、結婚!??


 莉子はワインのボトルを抱きしめる。



「別れるってよ」



「「はぁああぁぁぁ!?!?」」



 数拍の間をおいて、莉子と連藤の声が重なった。

 ありえない。

 ありえないのだ。


 そんなことはないはずだ。


 見えない連藤と目を合わすが、連藤も同じ気持ちのようだ。


「なんか、奈々美が浮気したらしい」


 その言葉に、莉子は目を光らせた。


「───連藤さん、事件です」


 莉子の言葉に連藤もうなづくと、2人で手分けして始めたことは、店を閉めることだった───

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ