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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第3章 café「R」〜カフェから巡る四季 2巡目〜

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《第142話》久しぶりのおでかけ 7 〜いい湯だな 入浴編

 脱衣所は広く、洗面台と棚がついた、とても使い勝手のいい造りになっている。木目の壁が素朴な高級感を出していて、雰囲気もいい。

 だが莉子は服を脱ぐのにどうしても抵抗があった。

 連藤の存在だ。


 が、連藤はというと、場所を確かめ終えたのか、淡々と脱ぎ始めている。


「ちょっ! 連藤さん、ま、待って」


 上着を脱ぎながら連藤は首を傾げた。色白の引き締まった体が、とても眩しいっ!!!


「ん? 風呂に入らないのか?」


「ち、ちがっ! 向こうむいて脱いでっ」


「どうしてだ?」


「言いながらベルトに手をかけないぃぃ」


 連藤は目が見えない。全盲なので莉子を認識できないのは知っているのだが、”ポスターの感覚”をわかる人はいないだろうか。

 大好きなアーティストのポスターを部屋に貼って着替えをしようとすると、どうも視線が気になって着替えるのに戸惑う……


 そう、ただの自意識過剰だ!


 なのだが、莉子の中で上手く消化ができず、こちら側を見ないでほしいと言う結果となった。


「莉子さんは見放題だが、俺は何も見えていない」


「言いながら手をワキワキしない。手で見てるんでしょ?」


「もちろん。莉子さんのむ」


 莉子に口を押さえつけられたため、これ以上のコメントは差し控えることになった。


 しかしながら脱衣所の中でも温泉らしい香りがしている。湯気の暑さと湿度が、熱いお湯だと語っている気がする。

 莉子はなんとか服を脱ぎ、タオルを体に巻きつけ、さらに胸元を抑えてから、連藤に肩を掴んでもらう。


 引き戸を開けた途端、ぶわりと頬に湯気がかすった。

 冷たい床は四角い石のタイルで覆われており、足を滑らせないように慎重に歩いていく。

 

 こんこんと溢れ出るお湯の音に、熱のこもった蒸気、それらを肌に感じたのか、


「温泉だな」


 連藤が顔をほころばせた声を出した。

 莉子も思わず笑いながら、


「温泉ですね」


 浴室に声が響き渡った。




 まずは洗い場に連藤を座らせると、蛇口の位置、シャンプー、リンス、ボディーソープの順番を伝え、最後にシャワーの場所を伝えた。

 親指を立てられたので、莉子も隣に腰をおろし、まずは頭を洗い始める。

 ふたりでわしわしと泡を立てる音を鳴らしながら、莉子が少し大きめの声で言った。


「連藤さん、ここ、なんでも揃ってて便利ですね。広いし」


「そうなんだ。男4人で入ったが、狭いとは感じなかった」


 連藤の言った通り、ホテルによっては大浴場というかもしれないほどの大きさがある。

 そのため利用料金は割り高だが、それでも貸し切れるのはいいものだ。


 頭→顔→体と洗い終えたふたりは、まずは浴室内の浴槽へと体を沈めることにした。

 莉子が先に入り、連藤の手を取って歩かせていく。

 もうこの時には覆うものはないのだが、明らかに視界に入りそうな相手の下半身は、すべて視線を外して見ないようにしている。


 ゆっくりと体を沈めた連藤に並んで、莉子も腰を下ろすと、ふたりで極楽のため息をついた。


「体のコリが全部ながれてくみたいです。じわじわ伸びてく……」


 莉子がゆっくりと体を伸ばしていると、連藤も背筋を伸ばしながら、


「莉子さんなら立ち仕事だからな。たまにはこういうのもいいだろう」


「本当にそう思います」


 少し顔を赤らめ朗らかな顔をしている連藤だが、いつ見ても細マッチョのいい体である。


「連藤さん、腕触って見てもいい?」


「お、莉子さん、お目が高いっ」


 ざばりと持ち上げ、チカラこぶを作ってみせた連藤は意気揚々と語り始めた。


「あのボディビルダーの彼らのおかげで、俺の上腕筋が素敵に発達したんだ!

 今まで胸筋と腹筋に力を入れてきたんだが、やはり腕の魅力ってあるじゃないか。

 その魅力を最大限に詰め込んだのが、この腕!!!

 時間は3ヶ月はかかったかなぁ……今回は育てるのに時間がかかってしまった。

 だがまだ土台ができたに過ぎないんだ。ここからもう少し筋肉に厚みをつけている段階で」


「細い腕がいいな、私」


 ばっつり切り捨ててみるが、


「莉子さんの好みは細い腕か……なるほどな。それも魅力的だろう。

 だがこの太さもよくないだろうか? こうTシャツから見えたときに腕のラインが」


 ………5分は力説しただろうか。

 お互いに顔が真っ赤な気がする。


「れ、連藤さん、一度外に出て、湯冷まししましょ」


 へろへろになった足でどうにか外に出ると、椅子が置いてあるのでそこに腰をかけた。

 さらに水瓶があるので、そこから水を汲んで頭からかぶっていく。


「意外に熱がこもるな」


「今日は暑い日ですからねぇ」


 ひとしきり水を浴びて、再び腰をおろした先には、海が見える。

 露天風呂の奥に海!!!

 ホームページの内容通り、しっかりと海が見えるではないか!

 その景色は、さながら都会から切り離された高級旅館に来ているかのようだ。

 ちょうど木々の間を縫って海が見えるのだか、この木々の隙間に見えるのがとてもリアルに感じさせる。

 多分角度を変えてよく見ようとすれば、ビルや街並みが浮き出てくるのだろう。

 だがわっさりと生えた木々のおかげで、この角度からは街を覆い隠してくれて、この露天風呂を特別な空間に仕上げている。


「連藤さん、ここから海が見えますよ。たくさん木が生えてるんですけど、その隙間に海があって、なんか海の側の旅館に来たみたい。木のおかげで、海が全体に広がってるように感じるんですよ。すごい奥行きのある露天風呂です。

 連藤さん、ここを思い出してくれてありがとうございますっ」


「莉子さんが気に入ってくれたなら俺は十分。

 本当に海が近いな。潮風だ。潮の香りがしっかりわかる」


「連藤さん、プチ旅行大成功ですね! 旅館気分を味わえるなんて、めっちゃお得っ!」


「そんなに喜ぶなら旅館に連れて行きたいな」


「それはまた今度! さ、暑いけど、ちょっと入ってみません?」


 莉子は連藤と自分に目一杯冷たい水を浴びせてから、露天風呂に足を入れていく。

 体が冷えていたように感じたのは一瞬だけで、すぐに熱さが芯まで響いてくる。


「あまり長居はできなさそうだな」


「そうみたいですね。でも、外の空気を吸いながらの温泉って、やっぱりいいですね」


「ああ。開放感が違うからな」


 温泉をちらりと舐めると塩辛いため、塩分濃度がある泉質なのだとわかる。

 塩は肌についたままだとかゆみの原因にもなりかねないため、のぼせないためにも水をしっかりと浴び、体を冷やしてから脱衣所へと出ていった。すぐに扇風機を動かし風を当てるが、涼しさとは程遠い気がする。

 吹き出る汗が止まらない………


 ふたりは畳のある休憩場へ行くことにした。

 20畳はあるだろう部屋なのだが、自販機とマッサージ機の並びがすごいっ!

 壁に貼り付けるように多種多様の自販機が並び、さらに窓を向いて全身マッサージ機が鎮座している。

 さらに奥には漫画や小説がずらりと並び、読み放題っ!!!

 エアコンがよく効いたこの部屋で、これだけのものが揃っているのなら、1日過ごしても良さそうだ。


 ふたりは瓶のコーラを買うと、畳にだらりと座って涼み始めた。


「なんか、夏休みの、どっかの1日みたい」


「いいな、こういうの」


「いいですね、こういうの」


 ふたりは汗のかいた瓶を掲げ、一気にコーラを飲み干した。

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