表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第3章 café「R」〜カフェから巡る四季 2巡目〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

140/218

《第139話》久しぶりのおでかけ 4 〜ドライブ編

 車は走り出したが、天井は閉めてある。

 開けたまま走ることもできるが、午前中といえどもこの気温のなかは無謀すぎる。

 想像してみてほしい。

 確かに風を浴びて走ることはできるが、炎天下のなかを走ることには変わりはない。

 夏時期のオープンカーは気をつけなければ自殺行為だろう。30分も走り回れば、真っ黒に焦げてしまう。


 窓からの日差しすら、じっとりと暑く感じるためか、冷房は絶やさず流し続けている。

 冷房の音のなか、莉子は少し大きめの声で言った。


「連藤さん、どこに行くと思います?」


「全然わからん」


「ですよねー」


 そう言う莉子の声は楽しげだ。


「連藤さんを私しか知らない場所に連れて行くって、すごく楽しい」


「今日は俺は莉子さんの言う通りにするから、安心してほしい」


「なんかそう言われると、いろいろしたくなります」


「例えば?」


「えー……そう言われると具体例がなく、困るんですけど」


「言ってみたらいいのに」


「そんなに簡単に言わないでくださいよ」


 ふてくされた莉子の声を最後に、ラジオが代わりに喋り始めた。

 出勤の時間がすぎたあたりで、主婦向けの番組が流れている。

 夏のお出かけグルメ、夏休み定番の場所、宿題はどこから始める、などなど主婦で子持ちであれば引っかかる内容が目白押しだ。


「連藤さん、」


「なんだ?」


「連藤さんって、宿題はコツコツやってた派でしょ?」


「いや、夏休み10日前に一気に肩をつけてたな」


「うそ! 毎日コツコツしてないの?! すごい意外。でも10日前ってことは、そういう準備をしてるってことだもんね?」


「まぁ、そういう段取りをしていたと言えばそうだが……

 親父がな、終わらないのは自己責任という考えだったからな……他人に頼れなければ自己管理しかないからな」


「うわぁ……なんかすごい」


 足りない語彙力で答えを返す莉子だが、莉子さんはどうだった? そう言われ、少し考え込んでいた。


「……多分、泣きながら宿題やってた派だと思う……

 けど、あんまし覚えてないんだよなぁ……親がカフェ経営でしょ? そんな休みとかなくって、でも遊びたくって、なんかギリギリになってたなぁってイメージがあるなぁ……

 あ、でも、母の実家がある北海道は、夏に行ってた。

 うちはカフェを長く休めないからって、先に私と母で行って、途中で父が来たら母がこっちに帰ってくるの。で、私が帰るときは、父と一緒に帰ってくるっていう」


「家族一緒というのは難しいなら、そういうのもいいのかもな」


「私はそう思ってる。

 行くときは母を独り占めできるでしょ?

 帰りは父を独り占めできるから、私は2倍でお得だった」


「莉子さんの両親は、莉子さんの気持ちをわかっていたのかもな」


「確かにそうかもだけど、たぶんうちの両親は、私を独り占めしたかったんだと思うよ!」


 自信満々でいう莉子の声が面白くて、連藤は思わず笑ってしまう。


「莉子さんの家族は明るくて楽しいな」


「そうだね。確かに笑いは絶えなかったかな……

 そう思うと、今は家族がいる時間に似てる。私、よく笑ってるから」


 俺もだよ。そう言いかけて、連藤は言葉を飲み込んだ。

 窓の方にしっかり向き、なるだけ見えないように気を配るが、耳が熱い!!!!

 自分が勝手に意識しているだけだから、余計に恥ずかしい……!!!!


 連藤がひとり必死に熱を下げていると、


「あ、連藤さん、もうすぐ1つ目の目的地に到着しますよ」


 いきなりの莉子の声に肩を震わせた。


「あ、連藤さん、寝てた……?

 ごめんね、起こしたなら」


「あ、…いや、大丈夫だ……」


 なんとか声は出せたので、大丈夫だろう。

 深呼吸を何度か繰り返したとき、車はゆっくりと駐車した。

 扉を開けると、潮臭い。

 まだ海からは遠く離れていないようだ。


「今から行くのは、ミニ水族館です。

 私がひたすら足りない語彙力で説明するという、お互いに試練の時間です」


「……試練なのに、なんで選んだんだ?」


「なんか、カップルみたいでいいなぁって。

 さ、行きましょっ!」


 莉子は連藤の腕を取り、歩き始めた。

 彼女の足はしっかりとして、弾んでいる。

 これからの時間が楽しみで仕方がないのだ。

 連藤はそれを読み取ると、なぜかこれから向かう水族館への不安な気持ちが薄らいでいった。

 自分も楽しもうと、そう思ったのだ。


「莉子さんの解説が、とても楽しみだ」


「……いじわる言わないでね」


 莉子が連藤を見上げて、唇を尖らせているのがわかる。

 その唇に自身の頬を寄せられればと思うが、それは叶わない願いだろう。


 莉子がチケットを購入しすんなり入った水族館の中は、外との気温差が激しく、思わず肩をさする。

 莉子も連藤の背をさすり、


「ちょっと冷房効きすぎですね、ここ。

 さ、入り口から試練ですよぉ」


 そう言って、莉子は水槽のガラスに連藤の手を当てさせ、おぼつかない言葉で解説をはじめたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ