《第14話》ゴッドファーザー、来店
オーナーにとってのゴッドファーザーとは?
今日は、後輩2人と先輩2人と、そしてもう一人でディナーになります。
今が旬のタケノコとワインを合わせてみました。
いかがでしょうか?
巧が3週間前になるだろうか。
みんなで食事をするからと、4人分の席を予約してきた。
ワインはそこそこいいのを入れてくれ、とのことなので、そこそこいいのを入れておいたところで、つい三日前だ。
LINEで連絡が来た。
「一人追加ーよろー」
「りょ」
それでお互い既読で終了していた。
さて、今日は当日───
晴れたらテラスでということで、今日は雲もそれほど厚くなく、爽やかな夕闇となってる。また店舗は17時以降から本日貸切とした。
彼らについていたい。というよりは、ディナーをやりながら他のドリンク出しが面倒なのが理由だ。
今日はそこそこの料理となるし、売上回収は可能である。
人数も増えたことだし、問題ないだろう。
だが、
こんな5人だと思ってない!
楽しげに並木道を歩く5人だが、彼らの後ろから現れたのが、ロマンスグレーのおじさまである。
ハリのあるスーツにベスト、ネクタイは間違いなくブランドで靴もよく磨かれている。
優しげな目尻ではあるが、見方によればゴッド・ファーザー。
うん、まさしくゴッド・ファーザー。
修羅場をくぐってきた男の目だ───
が、
この前、テレビで見た、この人!
なんかすごい事業しているらしいよ!
興味ないからよく見てなかったよ!
というか、マジでゴッド・ファーザーじゃん!
巧くんファミリーのトップ、だ。
ヤバイよ。
「……ヤバい」
外のテラスで食事と聞いていたので、5人とも素直にテラスにやってきたのだが、莉子のテンションの落ち方が半端ない。
「どしたの、莉子さん?
これ、うちの親父」巧は飄々といってきやがる。
「いつもうちのがお世話になってるようで。
お食事も美味しいと聞いて、つれてきてもらったんですよ」
そう言われて莉子は首がもげるほど左右に振った。
「いやいやいやいやとんでもない!
もう家庭料理の延長の延長なので、お口に合うかどうか……」
「莉子さん、緊張してるの?」
瑞樹がズバリと言ってしまう。
「……当たり前じゃん。
テレビで見た人、ここに来たことないもん……」
そう言うと、巧のお父様は含んで笑い、巧の肩を軽く叩いた。
「お前ももっと有名にならないとな」
父に言われふてくされた顔になる。
「莉子さん、俺だってテレビに出てんだよ?」
思わず驚いた顔をしてみるが、
「巧くんは出ててもそんなに緊張しないかな」
見たことないし。そう付け足した。
連藤をいつも通り誘導し、腰を掛けさせると、席に並べたグラスにシャンパンを注ぎはじめる。
「今日は旬の筍が入りましたので、そちらをメインのコースにしました。
まずは手前のアミューズをお召し上がり下さい」
アミューズとして出されていたのは、カマンベールチーズとアーモンドハニー添え、生ハムの筍巻きである。筍はカツオ出汁で炊いて薄切りにされ、それを生ハムで巻かれている。
生ハムの塩気と出汁の風味がうまく合い、さらにシャンパンのシルキーな泡と香りがマッチしている。
「次は、これ!
ただのバケツと思うなかれ。
バケツ型バーベキューバケットになります。
ここで焼くのは、筍とアスパラ、あとホタテと海老を炙って召し上がっていただきます。
自分で食べ頃と思ったら食べてくださいね」
フォルムはまるでバケツなのだが、炭受けがついた扱いやすい焼き台だ。
仄かな熱気が流れてくる。
そこに乗せられた筍、アスパラが香ばしい香りを漂わせはじめた。
さらにホタテは貝殻つきなので、ぱかりと開くのが待ち遠しい。
そこに合わせて出てきたのは白ワインである。
カリフォルニアのワインになる。シャルドネ100%のワインだが、カリフォルニアだけあって、明るく力強く、香りも華やかだ。
明るく大勢で飲むにはいいワインだ。
焼きあがった食材は、チーズドレッシング、岩塩、胡椒に定番マヨネーズが添えられた。
巧と瑞樹はホタテの焼き上がりが待ち遠しいのか、ひたすら貝を叩いているが、早くは焼けないだろう。
シニア組の3人は落ち着いた雰囲気である。
三井が火を見て、食材を管理し、連藤が香りで焼き上がりを判断。
それを巧の父、二人にとっては会長に渡す作業をしている。
だがそれが別段特別でもなく、苦でもないようだ。
普通に会話を楽しみながら、時には自分の分を大事に育て、勝手に食べてる。
気兼ねない仲間といった感じだ。
───少し緊張がほぐれてきたかも。
そんな楽しげな雰囲気を横目で見ながら、莉子は天ぷらを揚げてきた。
「素人の天ぷらなので素朴な味だと思いますが、
筍の天ぷらと、白身魚の天ぷら、エビとネギのかき揚げになります。
塩で食べる方が多いかもしれませんが、今日は天つゆで食べていただきたいです。
で、今回合わすのが、フランスのマルサネのワインになります。葡萄はピノ・ノワール。
これが大変お出汁に合うので、ぜひ、お試しください」
熱々の天ぷらを出汁につけると衣がしなりと垂れてくるが、その出汁の味とこのワインの味が、なぜが似ているように感じる。
出汁の旨みが引き立つのだ。
赤ワインなのに、日本食の味がする───
「これ、面白いな」
三井が言うと、巧と瑞樹も大きく頷いた。
「マジ、飲めちゃうな、瑞樹」
「すいすい飲めちゃうね!」
簡単にグラスが空になっていく。
それを注ぎ足し、巧の父にも注ぎにいくと、
「巧の言っていた通り、本当に美味しいお料理とワインで、楽しませていただいてます。
こうやって息子や三井くんたちと食事をするのは本当に久々なもので……
大変有意義な時間となってます」
「充実したお時間となっているなら大変嬉しいです。
最後に筍の炊き込みご飯のおにぎりと、お吸い物となりますので、お食事のタイミングとなったら教えてください」
「ありがとう」
そういった顔は、父親の顔だ。
父親が息子の友人に会い、息子の気に入った店に来て満足している、そんな顔だ。
料理に満足、ではなく、その空気に満足しているのだ。
莉子もその笑顔に満足である。
ゴッドファーザーが満足すれば問題ない!
食事も終え、水菓子を出して、さらに赤ワインの追加があったので、簡単なおつまみも出してみる。
みんなからは笑顔が絶えず、話も尽きない。
実に軽やかな会話が続いていく。
会社といえど、家族なんだと思えてしまう。
なんだか羨ましい───
「莉子さんもこっちで飲もうよ!」
カウンターで片付けをしていた莉子の元に後輩2人が現れた。
瑞樹が適当なグラスを取り上げ、巧が彼女の肩を押していく。
素早く椅子を用意すると、莉子に腰をかけさせた。
「莉子さんも、もううちのメンバーだかんね!」
瑞樹が言うと、巧も大きく頷いてみせる。
「おれたちにとっては、このカフェ、家みたいだからな」
家か───
帰って来たくなる場所、そうなっていたら嬉しいな。
毎日食べるものが本当にネタになってきますね!
タケノコは意外と万能なんですよ(๑ ́ᄇ`๑)
煮ても揚げても焼いても良しなのです!
ぜひ、お試しあれー





