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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第3章 café「R」〜カフェから巡る四季 2巡目〜

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《第135話》久しぶりのお泊り 4

 ビールを飲み終えたふたりは、べったりと汗が染み込んだ体を洗い流す準備に入ったのだが、どちらが先に入るかで揉めてしまう。


「莉子さんが先に入ればいい」


「いや、連藤さん、色々用意してくれたし。

 私、ご飯用意しとくから、連藤さん、先に入りなよ」


「今日は俺の部屋に来てくれてるんだ。

 俺がもてなしてもいいだろ」


 「「………」」


 キリのないやり取りにふたりで無言になるが、じゃんけんもできないし、あみだくじも無理。

 なぜなら連藤の目が見えないから。

 莉子が不正をしてもバレないため、公平ではない。


 悩む莉子の肩を連藤は掴むと、脱衣所へと押して行く。


「ちょ、連藤さんっ!」


「先に入って、俺が出てくるまでに〆飯(しめめし)を作っておいてくれ」


 ぱたんと閉められた脱衣所の扉を睨みながら、莉子はため息を落としつつ、服を脱ぎ始めた。

 べったりと張り付いた服は意外に脱ぎづらい。引き剥がすように全て脱ぎ、洗濯機へと投げ込んだ。

 ふと思い、脱衣所からひょっこり顔を出し、


「連藤さん、洗濯どーするぅー?」


 数拍おいて、


「明日まとめて洗おうー」


「はーい」


 莉子は洗濯機の蓋を閉めて、お風呂場へと入っていった。


 一方の連藤は、

「明日から何をして過ごそうか……」

 考えあぐねていた。


 ……どこか1泊でも莉子さんとなら面白そうであるが、それだと莉子さんに頼りきってしまう。

 だからと言って何も案がないのも寂しいし、今年は、莉子さんとしたいことをしようと約束した。

 だからこそ、俺がやりたいことを伝えなきゃいけない。

 とはいえ、ピッタリくる内容がなかなか浮かんでこない………


 インターネットと格闘しているうちに莉子がシャワーから上がってきた。


「連藤さん、〆飯、ラーメンでもいい?」


「ああ、生ラーメンがあるから、それを使ってくれたら」


「わかった。連藤さん、すっきりして来て」


 莉子の言葉に押し出され、連藤はシャワーへと向かって行く。

 莉子はダイニングテーブルに置かれたパソコンをちらりと見てみる。

 開いたままのパソコンでは、『休日 予定 カップル』などの検索文字が浮かんでいる。

 その文字から、明日の予定を考えてくれていると知り、莉子もお湯を沸かしながら考え始めた。


「のんびりできるとしか考えてなかったな……」


 ネギを小口に切り、味玉を半分にする。焼き海苔をほどよい大きさに整えてから、スープ作りだ。

 湯が沸いた鍋に入れるのは、お手軽中華の素。

 そこに鶏ガラの顆粒、醤油、塩を味をみながら加えれば、あっさり昔風醤油スープの完成。

 あとは連藤が上がってきたら仕上げるだけだ。


 そんなに遠くでなくてもいいし、でもまるっきり近場も面白くないし……

 上がって来た連藤を確認し、莉子は鍋にラーメンを投入した。

 すぐに茹で上がるため、ザルは準備万端。食べる箸とレンゲも問題なし。

 丼を用意し、茹で上がった麺をどんぶりにあけ、汁を注ぐ。

 そこに味玉、ネギ、海苔を盛り付けたら、出来上がり。


「連藤さん、ラーメンできたよ」


「ああ」


 暑い日に熱いラーメンで〆もいいものだ。

 なぜなら部屋は鳥肌が立つほどにエアコンを効かしてある。


「これは夏の楽しみですね、連藤さん」


「ああ、暑い外を眺めながら、涼しい部屋で熱いラーメンをすする。

 人間でなければできない、進化の賜物だと俺は思う」


 ふたりでつるつると啜りながら、


「連藤さん、あしたの予定、考えていてくれたんですね」


「あー、いや、考えてなかったんだ……」


「あ、違う違う、さっき考えててくれたんでしょ? ってこと」


「そう。すっかりふたりで休みなんだと浮かれていて、休みにすることを何も考えてないことにさっき気がついた」


「私も」


 ふたりで笑い合い、ラーメンを再び頬張った。


「莉子さんはどこか行きたいところとかあるかな?」


「私? 私はのんびりできたらなぁって考えてただけで。

 連藤さんはどこかある?」


「いや、俺はそんなに思いつかなくてな」


「あ!

 そしたらさ、朝早くに海辺に行って、お弁当食べて、暑くならないうちに帰ってくるっていうのはどう?」


「莉子さん、早く起きれるのか?」


「……わかんない。ま、なるだけ早くってやつで」


「したら、そうしようか」


「うんっ」


 汁をすすり、ひたひたの海苔を頬張ると香ばしい風味に感じる。

 あっさり系のスープが胃に優しく、どこまでも飲めてしまうが、これを飲み干すと明日、間違いなく喉が乾くのできをつけなければならない。

 麺は細めの縮れ麺。スーパーにある生麺だが、自分で茹でて食べるだけで、一味違う気がするのはどうしてだろう。

 明日の予定も決まったおかげか、ラーメンの味がより美味しく感じる。

 味玉もめんつゆで仕上げているため、醤油スープに馴染んでうまい!

 ネギも水洗いしたおかげで、シャキシャキとした歯ごたえと、ネギの臭みが消えて食べやすい。


「連藤さん、あしたのお弁当、何にします?」


「俺もそれを考えてた」


 ゆっくり咀嚼してから、一息つき、

「おにぎりだな」

 炊飯器の方に顔を傾けた。


 そう、今日、彼は炊いておいたご飯が手付かずなのだ。


「したらおにぎりと、卵焼きと唐揚げにしよう」


 莉子が言うと、


「簡単なのをささっと作って、のんびり過ごそう」


 連藤がそっと微笑んだ。

 莉子がこくりと頷くと、連藤もまた小さく頷いた。

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